世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


7月 6, 2015

エクサスケール性能のみに固執するのは良くないことだ

HPCwire Japan

John Russell

「エクサスケール」の性能を達成することが独自のメリットとして価値があるということに異議を唱えるコンピューティング産業はほとんどいない。しかし、マジックマイルストーン(10^18FLOPS)のみに固執することは重要なポイントを欠く事となる。
現在実践的なものとしてのHPCは、エクサスケール・レベルにおいてでさえ、科学と社会におけるグランドチャレンジを解かない、とハーバード大学の客員講師で長年インテルの著名な材料科学者であったSadasivan Shankar博士は主張している。

「私はエクサスケールはただのエクサスケール以上であると主張します。これは新しい思考方法なのです。ペタスケールが登場した際に大規模計算を使っていた私達の多くはメリットを見なかったのではないでしょうか?科学や社会における大規模な大きな問題を解く事を計画しているなら、私が出している前提は少し違うようにやらなければならないということです。」と最近のHPC User ForumにおいてShankar博士が聴衆に話している。

少なくとも材料科学における新しいパラダイムの進化は、Shankar博士が「科学と工学におけるグランドチャレンジ問題のためのエクサスケール」のプレゼンの中で提案しているインシリコ・インバース設計である。彼はインバース設計の事例を、科学と社会の両方における新興の破壊的技術を検証し、彼らが代表する挑戦における共通性を認識することで提唱し、そして関連する計算課題の小さなサンプルを提示している。

コンピュータ業界の多くが、ハーバード大学工学・応用科学部の計算科学工学における最初のマーガレット・ウィルハースト客員講師である、Shankar博士を知っているだろう。彼は以前は半導体材料、設計、および製造にいて仕事をしていたインテルの科学者であった。

半導体業界での在職中において、Shankar博士は、複数の技術世代において半導体プロセスと機器を最適化するために計算モデルを使う取り組みに従事し、物理学をベースとしたモデル、マイクロプロセッサの熱機械的信頼性、3次元積層ダイにおける熱モデリングを使ってプロセス制御を高度化し、そして理想的な計算アーキテクチャのエネルギー効率の推定のために熱力学的原理を使ったのだ。彼は、化学反応設計、半導体プロセス、バルク及びナノ材料、デバイス構造、およびアルゴリズム(フラーバイオ)の領域をカバーする出願中の特許の共同発明者でもある。

彼の論拠の核心は、インシリコ・インバース設計が、異なる計算必要条件と直接設計と比較した場合の課題で特徴付けられる新興のパラダイムを表しているということだ。新しいコンセプトではないが、インバース設計は近年注目を集めている。エネルギー省のインバース設計センターは次のような記述を提供している:

「・・・重要なグランドチャレンジに対処するため...従来の直接的アプローチ(構造を与え、電子特性見つける)を使うよりは、我々は”インバース設計による材料”アプローチ(要求される特性を与え、構造を見つける)を使います。」

「関心の対象の特性は、一般的な半導体工学的および電気的特性です:要求される材料の機能性は、電子および正孔伝導性透明導電体、太陽吸収剤、およびエネルギーの持続可能性のためのナノ構造を含んでいます。私達の材料の予測は、ハイスループット並列材料科学を含む様々な合成アプローチによって繰り返し検証されています。」

Shankar博士の簡潔な定義は、「製造ラインで合成される時に標的特性を示すように材料を設計するために予測機能を使用する能力」である。さらに彼はそのアプローチのために、「実際にソリューションがあるということを常に保証するものではありません。」と付け加えている。

20150615-F1-Screen-Shot-2015-06-14-at-6.02.55-PMおそらくベストなShankar博士から直接聞いた微妙な理論(彼のプレゼンテーションへのリンクは記事の最後にある); それにもかかわらず、彼が示した考えの中心のいくらかを概説することができる。1番目に、科学技術はこの時点まで進展しているが、直接設計のアプローチは同様にもはや役に立たない、と彼は主張する。2番目に、科学と社会の両方に直面する破壊的課題は、インバース設計によって最も良く対処される重要な技術の共通性を共有している。

彼は、世界的な経済とビジネスにおけるトップの技術ベースの破壊的な力であると認識する次の仕事(マッキンゼー)をあげている;モバイル・インターネット、オートメーション、モノのインターネット、高度なロボット、自律・非自律乗り物、次世代ゲノミクス、エネルギー貯蔵、3次元印刷、高度材料、高度な石油ガス探査、および再生可能エネルギーだ。

「従来 破壊は、異なる種類の材料、異なる種類のプロセス、もしくは何かのやり方に異なる方法が出現することで引き起こされてきました。ここで引用したものは2025年までに世界経済の興味を完璧にさらうことが予測されています。」と彼は語った。

DOEは5つの予測される科学的破壊者のリストを提供している:原子・エレクトロンのレベルでの材料プロセス制御;目的に合わせた特性を持つ物質の革新的な新しい形の原子およびエネルギー効率の高い完璧な合成;原子や電子構成要素の複雑な相互関係とこれらの特性の最適制御の問題の顕著な特性の出現;非平衡物質系の特性と制御;高エネルギー効率を備えたシステムを設計するために、ナノスケールでの生物からのエネルギーと情報の相互作用の知識の活用。

「これらの課題を横並びで見て、共通性を探すと、5つのアイテムに分類できるでしょう: 1」設計、2」材用とデバイス、3」センシング、4」オートメーション、そして5」小型化、製作、試験です。」と彼は語り、どれもすべてが非常に良くインバース設計に適しているとのことだ。

少しの間、科学から離れてみると、政治的な情勢は一般的にはスーパーコンピューティングに、特にエクサスケールに資金提供を支援するように動いている、とShankar博士は指摘している。(HPCwireの「オバマの2016年予算が研究開発とエクサスケールへの資金を増加」の記事を参照。欧州先進コンピューティング・パートナーシップ(PRACE)はまたエクサスケールを追っている。もちろん中国もTOP500リストの最高速のスーパーコンピュータを所有している。)

エクサスケールに到達しようと急ぐことの中で、特に100京FLOPSを現実世界のアプリケーションに変えていくことはおそらく十分な注意が払われてはいないとShankar博士は信じている。エクサスケール(および結果としての技術やアーキテクチャ)への競争は、現実世界のアプリケーションと、経済と進展に直接的な影響を持つ材料科学より多くの場所はないインバース設計法の要件の情報が入らなければならない。

半導体材料合成においては一般的に、少なくとも6つの課題がある、とShankarは言う。「ひとつは計測能力;ふたつめは合成能力;三つ目はスケールにおける固有格差;四つ目は必要に応じて計算できること;五つ目は複雑性;そして六つ目は小規模から大規模へ行こうとすることと関連した困難な組み合わせ理論です。」

20150615-F1-Screen-Shot-2015-06-14-at-5.53.51-PM半導体材料の合成に関連するコンビナトリアル課題を考えてみよう。

「あなたが利用できる要素数を見ると、それは基本的には毒性のない60かた70です。あなたが合金や化合物にどのように混合するか見ると、約100,000あります。これら材料の2つをとって接合をつくるなら、可能性は数十億になるのです。」とShankar博士は語った。構造間でのインタフェースの数が増えるにつれて、この数字は直ぐに数兆およびその上に拡大するのだ。

「私の講演では、[これらの課題に対処する]4つの複雑な前提を統合しようとしていました。」とShankar博士は語った:

  • 材料と化学の計算設計と何故コンピューティングが重要な役割を演じるのか
  • 生物学とシステム生物学のためのサブ項目もまた利益である
  • エコシステムは、ニーズと政治的支援の両方の観点から、コンピューティングに有利に変化している
  • 技術や基礎科学の撹乱は、コンピューティングよってつなぐことができる

「コンピューティングは点をつなぐ事ができるでしょうが、私達が従来行う計算の方法であるコンピューティングではありません。」と彼は語った。Shanker博士のビデオへのリンクはこちら。