HPCの歩み50年(第119回)-2005年(e)-
GGFは3回開催された。世界のIT大手19社が共同で発足させたEGA (Enterprise Grid Alliance)も活動を続けた。両者が合併するのは2006年。IDCなどが主催するHPC User Forumが地球シミュレータセンターで開催された。 IWOMP 2005が第1回目として開催された。Thomas SterlingがLSUに転任した。

標準化
1) OpenMP
OpenMPの規格は1997年10月にFortran版が公開されたのが最初であるが、2005年にはC/C++/Fortran統合版OpenMP version 2.5が公開された。
2) Globus Consortium
グリッドソフトウェアの事実上の標準であるGlobus Toolkit開発のために1995年に始まったGlobus Projectは、2003年9月、Globus Allianceというコンソーシアムとして正式に設立された。ところが、2005年1月、Hewlett-Packard社、IBM社、Intel社、Sun Microsystems社はGlobus Consortiumを形成したことを発表した。分派活動かと思ったが、これはGGFのような標準化団体ではなく、Globus Toolkitの産業利用を推進しようとするものだそうである。Globus Consortiumの理事にはなんとIan FosterとSteve Tueckeが入っている。
2005年4月、Glubus Toolkit version 4.0が公開された
3) GGF13
2005年も3回のGGF (Global Grid Forum)が開催された。GGF13は、2005年3月14日~17日に韓国ソウルで開催され、26カ国から475人が参加した(アジアから半数以上)。グリッド協議会での報告および総括報告を参照。58のWG/RGが開かれ標準化について議論した他、6件のBoF、5件のWorkshopおよび2件のチュートリアルが開催された。14日の総会では、OASIS Talk (Patrick Gannon)、The EU Grid Initiatives、Grid Activities in Asia、bbPanel Discussionなどがあった。15日の総会では、Business Grid Round Tableがあり、各国から報告があった。OGSA (Open Grid Services Architecture)の議論が進む一方、産業関連ではこれに対応したWeb services標準の議論が行われた。前回のBrusselsでのGGF12以来、GGFでは10週間掛け40人にインタビューするなど長期方針の評価を行い、その結果をGGF13で報告した。
4) GGF14
GGF14は、2005年6月26日~30日、アメリカ合衆国ChicagoのWestin Michigan Ave Hotelで開催された。グリッド協議会での総括報告および報告集も参照。OpeningとTown HallとClosing以外プレナリがなかったので、参加者は350人と少なかった。78のWG/RGが開催されたほかOGSAに関連する新しいBofやWGが多数登場した。組織改革後初のGGFであり、エリアを再編成し、標準化活動とコミュニティ活動を分離した。
5) GGF15
GGF15はGridWorld(IDG)との合同開催で、2005年10月3日~6日にBoston Park Plaza Hotelで開催された。参加者は460人。グリッド協議会での総括報告および報告集を参照。60件以上のWG/RG/BoFセッション、17件のcommunity program(9件のWorkshop、3件のチュートリアルなど)、16件のpractical Enterprise Programが開催された。Leadership awardがWalter StewartとGeoffrey Foxに授与された。
6) EGA
2004年4月20日、NEC、富士通、インテルなど世界のIT大手19社が共同で発足させたEGA (Enterprise Grid Alliance)は企業向けグリッド・ソリューションの開発および推進に焦点をあてたオープンなコンソーシアムを目指している。2005年7月にはGrid Security Working Group がEGA参照モデルに基づくセキュリティ文書Enterprise Grid Security Requirements documentを公表した。2006年6月26日、GGFとEGAは合併してOGF (Open Grid Forum)を設立する。
7) グリッド標準化調査研究
日本規格協会のINSTAC (情報技術標準化研究センター)では2002年度からグリッドコンピューティング標準化調査研究員会(委員長筆者)を設け、グリッド関連技術標準化の調査、日本に於ける標準化活動の調査、ガイドラインの提案、グリッド用語集の作成などを行ってきたが、2004年度はその最終年度で、2005年3月には平成16年度 グリッドコンピューティングに関する標準化調査研究 成果報告書を公開した。
それに引き続き、産業技術総合研究所グリッド研究センターが、経済産業省情報電気標準化推進室及び日本規格協会情報技術標準化研究センター(INSTAC)から、3年の予定でグリッド技術のガイドライン標準化調査研究活動の委託事業を受けることになり、「グリッドコンピューティング標準化調査研究委員会」を立ち上げ、筆者が委員長を仰せつかった。幹事は産総研の伊藤智氏、委員は産業界を中心に委託し、7月からほぼ月1回のペースで委員会を開催した。初年度として、ガイドラインの精密化のための議論を行った。生のビジネスの現場から事例を収集することは現実には困難であるので、われわれは多くの事例に適用可能なモデルを構築することに力を注いだ。アカデミアで考えているグリッドと、ビジネスでのグリッドとの違いを痛感した。
8) 二進接頭辞
IEC (International Electrotechnical Commission、国際電気標準会議)は1999年1月に発行されたIEC 60027-2の第2次改訂で、Ki (Kibi, 210)からEi (Exbi, 260)までの6つの二進接頭辞を制定したが、2005年8月15日の第3版でZi (Zebi, 270)とYi (Yobi, 280)が追加された。なお、二進接頭辞が使われるのはデータ量だけで、通信速度(kb/sなど)、演算速度(GFlopsなど)、周波数(MHzなど)では10のべき乗のSI接頭辞を使う。従って、1 Gibのデータを1 Gb/sで転送すると1.074秒掛かる。
9) XBRL
HPCとは関係がないが、日本規格協会のINSTAC (情報技術標準化研究センター)では2000年からXML (eXtensible Markup Language)のJIS標準化の可能性を考えるため調査研究を行うことになり、筆者が委員長になって3年間調査研究を行った。その成果の一つとして、XBRL 2.1仕様が、JISX7206 規格名称 「拡張可能な事業報告言語(XBRL)2.1」として2005年7月に制定された。このJISはXBRL Japan開発委員会が原規定を翻訳し、本調査研究委員会の分科会がJIS原案を作成したものである。
世界の学界の動き
1) HPC User Forum
HPC User Forumは1999年にIDCを軸に設立され、HPC産業に関する問題を取り上げている。年2回はアメリカ国内で、他の2回は国外でフォーラムを開催している。2005年1月27日には日本で初めて横浜の地球シミュレータセンターで開催された。HPCwireと共催した。参加者は86人。プログラムは以下の通り。
10:00 | T. Sato, E. Joseph, P. Muzio | Introduction |
10:15 | T. Sato, S. Kitawaki | Earth Simulator Technical Update |
11:15 | Paul Muzio | End User site Update and Summary of 2004 HPC User Forum meetings |
11:40 | Sun & IBM | HPC vendor technology presentations |
12:00 | Hitoshi Sakagami | HPF User experiences |
12:30 | Lunch and Technical tour of the Earth Simulator | |
2:00 | Yuichi Matsuo | JAXA CeNSS System experience |
2:25 | Suresh Shukla | HPC at Boeing and in the Aircraft Industry |
2:45 | Kohei Ando | Modeling process of ES-class crash models: Impact of mesh resolution |
3:10 | HPC vencor technology presentation (Pathscale) – A New Approach to Scaling MPI Applications | |
3:35 | Ford end-user HPC presentation | |
4:00 | Refreshment break | |
4:15 | Thomas Zacharia | Oak Ridge National Laboratory, Delivering DOE Leadership Computing for Science |
4:45 | Cray & AMD | HPC vendor technology presentation |
5:15 | R. Himeno, M. Kurokawa | RIKEN large scale pc cluster experience |
5:45 | Jim Kasdorf | US National Science Foundation update |
6:10 | Earl Joseph | IDC presentation of evolution of the HPC market — Wrap-up and Future Plans |
6:20 | Reception in the cafeteria |
HPC User Forumの会長でもあるIDCのEarl JosephはHPC市場の動向について講演した。2004年全体ではHPC業界の収入は約$1B増大した。地球シミュレータセンターの北脇重宗は地球シミュレータのシステム概要および運用状況について講演した。2002年度から2004年度までユーザ数は480から758に増大した。NCSI (Network Computing Services, Inc.)のPaul Muzioは、米軍のHPC研究センターが研究をいかに支援しているかを述べた。兵庫県立大学の坂上仁志はHPFによる実際の科学アプリの並列化について講演した。JAXAの松尾裕一は、CeNSSシステムについて説明し、富士通のPRIMEPOWER HPC2500上での宇宙CFDの経験について講演した。BoeingのSuresh Shuklaは、Boeing社においては、HPCのおかげで風洞実験を大幅に減らせたと述べた。I-Genie International Groupの Kohei Andoは衝突シミュレーションにおけるメッシュ分解能のインパクトについて述べた。Ford Motor Company のVince Scarafinoは、モデルの忠実度とターンアランド時間を改良することの困難について述べた。ORNLのThomas Zachariaは、ORNLでの計算性能が、2005年は40 TFlopsから2006年には100 TFlopsに増大し、2009年ごろにはペタの領域に達するであろうと述べた。理研の黒川原佳は、RSCC (RIKEN Super Combined Cluster)について講演した。PSCのJim KasdorfはアメリカのNSFのHPC活動について述べ、NSFはcapacityとcapabilityとのバランスを重視していると述べた。地球シミュレータセンター所長の佐藤哲也は、ホリスティック・シミュレーションについて述べた。前日の26日2時には、六本木のATIPでThomas Zachariaを囲んで、ATIPの関係者や、中村壽(RIST)や筆者などで懇談を行った。
次に日本で開催されたの2014年7月16日の理研AICSでのフォーラム(第53回目)であった。
10月初めに、ORNL (Oak Ridge National Laboratory)でHPC USER Forumが開催され、アメリカとヨーロッパから131名が参加した。Cray, HP, Intelなど9社から最近のニュースが提供され、ORNLの計算科学担当副所長であるThomas Zachariaは計算科学の科学に対する大きなインパクトを強調した。Tennessee大学のJack Dongarra、プロセッサだけでなくメモリや接続網の性能も測定するHPC Challengeベンチマークについて述べた。全体討論ではPetascaleが話題に上った。
2) IPDPS 2005
2005 IPDPS Conference (19th International Parallel & Distributed Processing Symposium)は、2005年4月3日~8日にコロラド州Denverのthe Omni Interlocken Resortで開催された。招待講演は、以下のとおり。
• David Culler, University of California, Berkeley (Keynote)
“Wireless Sensor Networks – Where Parallel and Distributed Processing Meets the Real World”
• Guang Gao, University of Delaware (Keynote)
“Sustained Petaflop and Beyond: Can Parallel Computing Systems Meet The Challenges?”
• Eric Kronstadt, IBM Research (Keynote)
“Peta-Scale Computing”
• Yale Patt, University of Texas at Austin (Banquet talk)
“A Unifying Theory of Distributed Processing (or, the Chutzpah one should expect when you invite a microarchitect into your sandbox)”
3) CCGrid 2005
5回目となるCCGrid 2005 (IEEE International Symposium on Cluster, Cloud, and Grid Computing)は、2005年5月9日~12日に英国Cardiffで開催された。参加者は300名。組織委員長はDavid Walker and Carl Kesselmanである。会議録はIEEEから発行されている。
4) SciCADE05
SciCADE (2005 International Conference on Scientific Computation and Differential Equations)は2005年5月23日~27日に名古屋国際会議場で開催された。筆者は招待講演”Multigrid Preconditioned Conjugate Gradient Method”を行ったが、聴衆の興味とはずれていたようである。
5) IWOMP 2005
IWOMP 2005 (FIRST INTERNATIONAL WORKSHOP on OpenMP)は、2005年6月1日~4日にアメリカのオレゴン州Eugeneで開催された。組織委員長はOregon大学のAllen D. Malony、プログラム委員長はHouston大学のBarbara Chapmanであった。基調講演は、以下の2件であった。
・Mike Wolfe, STMicroelectronics and The Portland Group
“Issues for Multicore and Embedded Systems”
・Kengo Nakajima, University of Tokyo
“Flat MPI and Hybrid Parallel Programming Models for FEM Applications on SMP Cluster Architectures”
6) ISC2005
ISC2005 (International Supercomputing Conference 2005, Heidelberg)については別に記す。
7) SC|05
Seattleで11月12日から18日まで開催されたSC|05 (The International Conference for High Performance Computing, Networking and Storage)については別に記す。
8) HPC Asia 2005
HPC Asia 2005 (The 8th International Conference on High Performance Computing in Asia Pacific Region)は、2005年11月30日~12月3日に北京国際会議場で開催された。共催は、Chinese Academy of Sciences and China Computer Federationの他、IEEE Computer Societyの共催が認められ、会議録はIEEE/CSから発行されている。共同組織委員長はKai Li, Princeton, USAとSatoshi Sekiguchi, AIST, Japan、共同プログラム委員長はJianping Fan, ICT, ChinaとJysoo Lee, KISTI, Korea、Steering Committee委員長はDavid Kahaner, ATIPであった。招待講演は以下のとおりである。
・Carl Chang, 2004 President, IEEE Computer Society,
“From Silk Road to Silicon Road: Old Educators Never Die”
・Jack Dongarra, Director, Innovative Computing Laboratory, Univ. of Tennessee,
“An Overview of High Performance Computing”
・Tony Hey, Director, UK e-Science Core Promgramme,
“e-Science and Cyberinfrastructure”
・Tsugio Makimoto, Corporate Advisor, Sony Corporation,
“Chip Innovations and AV/IT Convergence”
・Charles Nietubicz, Director, ARL Major Shared Resource Center,
“High Performance Computing at the Army Research Laboratory, Past, Present and Future”
・Stephen S. Pawlowski, Senior Fellow, Intel Corporation,
“High End Into The Mainstream”
・Viktor K. Prasanna, Professor, University of Southern California,
“Supercomputing on Reconfigurable Platforms”
・Rick Stevens, Director, high-performance computing and communications program, Argonne National Laboratory,
“Towards the Second Century of the Computer”
・Irving Wladawsky-Berger, VP for Technology and Strategy, IBM,
“Innovation in the 21st Century”
・Jingwen Wang, Vice President of Products, Platform Computing Inc.,
“Virtualized Computing Infrastructure”
・Frank Baetke, HP Global HPC-Technology Program Manager,
“New Trends in HPC”
・David Wei Wei, Executive Director, Lenovo Group,
“Trusted Computing Brings Evolution of Computer Architecture”
会議はComputer Innovation 6016という名前で、HPC Asiaを含むいくつかの会議の合同会議であった。展示ではIBMががんばっていて、BlueGene(中国名「藍色基因」)のモックアップを展示し、なまめかしい女性二三人がその前でバイオリンを演奏していた。
宿泊したCrowne Plaza Parkview Wuzhou Beijingでは、インターネット接続は1時間10元、1日80元であった。心配したのはsshが通るかどうかであったが一応大丈夫であった。もちろん、いくつかの反政府的と見なされるキリスト教系のweb sitesはブロックされていた。北京の繁華街にはクリスマスツリーがあふれ、サンタクロース姿の(ミニスカートの)女性が目立ったが、十字架もなく、当然キリストもいなかった(ちなみに中国本土のクリスチャンは、政府公認・非公認を含め6000万人といわれる)。夕刻、王府井近くの日本企業人のよく行くクラブに誘われたが、たどたどしい日本語をしゃべる田舎っぽい若いホステスに囲まれた。この中にはきっとスパイがいるのだろうなと思った。
北京滞在中に、28日の総合科学技術会議 本会議において、「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」が承認されたとの連絡があった。また、東京工業大学は29日に日本最高性能のスーパーコンピューターを来春に導入すると発表した。
9) QCDOC
BNL (Brookhaven National Laboratoryブルックヘブン国立研究所) の理研BNLセンターでは、2005年5月27日QCD (Qunadum Chromodynamcs量子色力学)専用の超並列計算機QCDOC (QCD on a chip)の運用を開始した。主要な目的はQCDの計算であるが、10%の計算時間はそれ以外の多様な科学計算のために用いる。
QCDOCの最初のチップは2003年末に公開された。最終的にはEdingburgh大のEPCC (Edinburgh Parallel Computing Centre)、理研BNL研究センター、それとBNLの3ヵ所に、それぞれ10 TFlopsのQCDOCのシステムが設置された。特にBNLの場合、DOEが出資したQCDOCと、理研BNL研究センターのQCDOCが両方並び、あわせて20 TFlopsのマシンが設置された形となっている。QCDOCのシステムは最終的に12288ノードで構成され、理論性能は12.3 TFlopsということになるが、TOP500にはBNLのシステムのうち8192ノード分を、それも各ノードを400 MHzで駆動した際の数字のみがリストアップされている。
2005年12月9日、BNLでは、QCDのモンテカルロ・シミュレーションの最初の論文の25周年を記念して科学者が集まり、記念集会を行った。QCDを格子上に離散化するというアイデアは1974年にKenneth Wilson教授(当時Cornell大学、現在Ohio State University)によって提出されたが、BNLのMichael Creutzと同僚のClaudio Rebbi(現在Boston University)とLaurence Jacobs(現在Zurich)の3名は、モンテカルロ法によりクォーク間の力を計算できることを示し、クォークは遠く引き離すほど引力が強くなり「閉じ込め」られていることを証明した。この結果は1980年のPhysical Review誌に発表された。
10) Grid Computing
2回目となるGridWorld2005が5月11日~12日東京国際フォーラムにおいて開催された。参加者は2200名。基調講演は村井純とMike Linesch(GGF会長)であった。
どういうコンテキストか不明だが、2005年3月18日の日経BP電子版は、451 Groupというアメリカの調査会社が、Grid Computingに関して20社以上のベンダを対象に調査し、ライセンス制度がグリッド導入の大きな障壁となっているという結果を17日に発表したと報じている。
このようなソフトウエア・ライセンスの問題点を回避するため、一部の企業では以下のような取り組みを実施しているという。
・内製アプリケーションを使用する(大半はオープンソース・ソフトウエアがベース)
・ベンダーとカスタマイズ契約を交渉する
・1つまたは2つの基幹アプリケーションについて、特別料金を支払う
グリッド・コンピューティングの導入が増えるとともに、ライセンス・モデルの改善や、同モデルの支援体制を求める声が高まる。従来のライセンス管理モデルや価格体系は問題が多く、グリッド上で商用アプリケーションを稼働する企業にとって非常に高価となることから、企業のIT幹部はソフトウエアの購入・使用方法にさらなるフレキシビリティを求めることになる。新たな購入モデルが市場に登場しており、ベンダーのライセンス・ポリシーや慣習に大幅に影響を与えるような変化が起こりつつあると指摘している。
11) Graphics Processors for General-Purpose Computing
GPUを使って一般の科学技術計算が安価に実行できないかについては、2004年にも研究会があったが、2005年12月頃、LLNLのGraphics Architectures for Intelligence Applications (GAIA) projectの活動が紹介されている。GAIAチームは、2年前から、Stanford大学、UC Berkeley、UC Davis、Mississippi州立大学などと協力して、エンタテインメント業界のコンピュータゲームのためのグラフィックスプロセッサが国家安全保障に関係のあるアプリに利用できないか検討を行っている。様々なアルゴリズムをCPUとGPUに実装したところ、画像処理、音声認識、バイオ、地震探査などのアプリでは、CPUより1桁か2桁高い性能を得た。そればかりかGPUは比較的安価であり、専用のコプロセッサとは比較にならない。最新のGPU(例えばNVIDIAのGeForce 7800 GTXやATI Radeon X850)は、最新のCPUと比べても、価格は半分、性能は6倍である。更にGPUはオンチップメモリのバンド幅が非常に大きく、データ集約的な計算にも使える。近々登場するCellプロセッサについても期待が述べられている。
12) Thomas Sterling
1996年6月からNASA Jet Propulsion Laboratoryの上級研究員を務めていたThomas Sterlingは、2005年8月にLouisiana State University (The Center for Computation & Technology)の教授に転任した。
13) Kilby死去
集積回路(IC)を発明し2000年にノーベル物理学賞を受賞したJack Kilby氏は、2005年6月20日、がんのためテキサス州Dallasで死去した。享年81歳。
14) ハーバード大学Lawrence Summers学長
2001年1月、Lawrence Summersはアメリカ財務長官を辞し、2001年7月1日からハーバード大学学長に就任した。2005年1月にある会議で、科学と工学の最高レベルの研究者に男性が多いことの説明として、男性の方が女性と比べて科学と工学への関心や能力の分布が広く、最高レベルの研究者の出る可能性が女性より高いなどの仮説を提示し、大学内外から女性差別であるとの批判を招いた。分布が広いと言っているだけで、男性の方が全体的に優秀だとは言っていない。3月15日、人文系の教授会は学長に対する不信任を可決した。日本の諸学会にもSummers批判の声明を出すよう要請があった。強権的な大学運営への批判もあり、翌2006年6月30日に学長を辞任した。
次回は最後にハイデルベルクで開かれたISC2005である。
(タイトル画像: Jack Kilby氏 出典:Computer History Museum )
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