世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


11月 20, 2013

日本電気の最新機種SX−ACEとは。

HPCwire Japan

先週11月15日に製品発表された日本電気の最新鋭ベクトル型スーパーコンピュータ「SX-ACE」について、製品開発担当者である日本電気ITプラットフォーム事業部第三サーバ統括部の百瀬真太郎氏にSC13会場で話を伺った。

HPCwireJapan:まず先週発表された「SX-ACE」のネーミングについて由来と経緯についてご説明頂けますか?

百瀬氏:まずこれまでの路線である「SX-10」という名前が商標の関連で使用できませんでした。その後検討を重ね、数字の10の16進数である「A」を頭文字としたネーミングにしようと考えたのです。ACEという言葉は「Advanced Computing Environment」や「Advanced Computing Engine」という思いが込められていますし、トランプのエースや野球のエース等の一番という意味もあります。余談としてはABCDEを1個飛ばしでネーミングしたものとも言えます。とにかく、新しい時代のベクトルスーパーコンピュータという思いを込め、名前を変えるなら数字から英字にしようということになったのです。ちなみに、次の世代のネーミングがまだ決まっていません。

HPCwireJapan:次に開発の経緯についてお伺いします。前機種の「SX-9」が発表されてから今回の「SX-ACE」の発表までには随分と時間がかかっています。この辺りの開発の経緯についてご説明ください。

百瀬氏:当初「京」コンピュータ・プロジェクトに日本電気も参加させて頂いておりました。元々は富士通殿のマシンと日本電気のマシンでハイブリッドシステムにする計画がありましたが、いろいろと社内の事情があり一度は国家プロジェクトからは撤退することとなりました。ただ、その時点でスパコンの開発を止めた訳ではありません。その後、我々が作るべき、お客様が望むシステムを、もう一度仕切り直して開発することとしたために時間を要しました。

HPCwireJapan:設計は白紙から行ったのでしょうか?

百瀬氏:そうですね。一部では「京」で開発したものを今売っているという話もありますが、実際には中身はすべて作り替えています。「京」はどちらというと世界一を取ることに注力されたスパコンですが、それが実際に顧客が望んでいるものかというと微妙に違うのではないかということで、再度設計を見直しました。

HPCwireJapan: 具体的なシステムの内容についてお聞きしたいと思います。今回の新システムの目玉はCPUのマルチコア化だと思います。これまでのSXシリーズの流れと比較して他に特徴はありますでしょうか?

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百瀬氏:確かにSXとしては初ですのでマルチコア化が大きな特徴です。しかしマルチコア化した時に、コアと外部インタフェースをどう接続するのかが大変重要です。他社のマルチコアではコアとキャッシュや外部インタフェースの距離がまちまちでベストエフォート的な作りです。しかしSX-ACEでは「CPU内SMP」と呼んでいますが、どのコアからも等距離です。例えば他社のマルチコアCPUの場合、メモリバンド幅が必要であれば実行コア数を減らしてやればいいと言われますが、実際には実行コア数を減らすとメモリバンド幅も減ってしまいます。しかし、SX-ACEの場合、4コアの内1コアしか動作しなくともフル・バンド幅の256ギガバイト/秒出す事ができます。

また、ADBと呼ばれるキャッシュも各コアに格納されています。SX-ACEの細かい特徴は多くありますが、大きくは次のような改善が図られています。
 コア性能とメモリバンド幅のバランス化
 メモリ・レイテンシの短縮
 ADBキャッシュ制御の見直し
 メモリアクセス制御の効率化

HPCwire Japan:カタログには理論最大性能と最大ベクトル性能の2つの性能指標が明記されていますが、この違いは何でしょうか?

百瀬氏:理論最大性能はコア内にあるスカラプロセッシングユニットの性能を足した数値です。これは基本的にはベクトルの制御を行っているのですが、普通のスカラ演算も可能ですので、加算、乗算、除算が同時に実行した場合の性能数値を足したものとなっています。

HPCwire Japan: マルチノードの場合の接続はどうなりますか?

百瀬氏:現在の地球シミュレータと同じFatTree構造の接続になります。転送速度は8ギガバイト/秒となります。

HPCwireJapan:今後HPC以外の市場も検討していくと報道発表にありますが、具体的にどのような市場でしょうか?

百瀬氏:基本的に「SX-ACE」はHPC向けに開発した製品です。ロードマップにもありますように、すでに次機種の開発の検討に入っています。当然、HPCをターゲットとして開発していくのですが、HPCという世界だけでなくもう少し広げていきたいと考えています。そのひとつに例えばビッグデータもあります。一般的にビッグデータと言うと誤解されやすいのですが、研究用の巨大な観測データやセンシングしたデータもビッグデータです。そういったところにも今後システムを使えるのではないかと考えています。HPCの顧客だけでなく、データを加工するようなところにも使って行けないかと。他には画像解析のセキュリテリ分野、医療などを模索しています。

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以上、SC13の会場で話を伺った。SX-ACEは時期的に日本電気の既存顧客への提案に絶好のタイミングで製品発表となった。世界で唯一残るベクトル型スーパーコンピュータの今後の行方が注目される。

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SC13会場に展示された「SX-ACE」