世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


6月 26, 2017

HPCの歩み50年(第125回)-2006年(a)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

ヘテロコンピュータの時代が来るのではという年であった。Crayも、Sunも、SGIもみんなヘテロをやっている。IBMまでRoadrunnerのようなヘテロを作ろうとしている。日本でも東工大のTSUBAMEはヘテロだし、京速コンピュータも究極のヘテロになるかと思われた。均一のマルチコアには終わりが見えてきたのか?しかし、ヘテロへの移行は、マルチコアへの移行よりはるかに難しい。

社会の動きとしては、1/1三菱東京UFJ銀行発足、1/10ソウル大学調査委員会が、黄禹錫教授の研究チームが世界で初めてヒトクローン胚からES細胞を作製したと発表した論文について捏造であると断定、1/16ライブドアを証券取引法違反容疑で強制捜査、1/19 NASAが冥王星など太陽系外縁天体の探査機New Horizonsを打ち上げ、1/21首都圏平野部で大雪、1/23堀江貴文ら、証券取引法違反容疑で逮捕、東京証券取引所システム故障で一時取引停止、1/23日本郵政株式会社発足、2/2神戸ポートライナーが神戸空港まで延伸、2/5在ベイルートデンマーク大使館をムハンマド風刺画に抗議して放火、2/10トリノ冬季オリンピック開幕(2/23荒川静香金メダル、イナバウアー)、2/16神戸空港開港、2/16堀江メール問題、2/22初めての「竹島の日」、3/3アメリカ合衆国でWBC (World Baseball Classic)が開幕(3/21日本優勝)、3/27近鉄けいはんな線開業、ゆりかもめが豊洲まで延伸、3/31神戸ポートピアランド閉園、4/26構造計算書偽造問題で8名逮捕、5/24映画『不都合な真実』アメリカ公開、5/25エンロン社の不正会計事件で、元会長らに有罪判決、5/27インドネシアのジョグジャカルタで地震発生(M6.3)、6/3セルビア独立宣言、6/3シンドラー社製エレベータ誤作動、高校生死亡、6/5村上世彰が証券取引法違反で逮捕、6/9 FIFA World Cupドイツ大会開幕、7/4 NASAがSpace Shuttle “Discovery”を1年ぶりに打ち上げる、7/5北朝鮮がテポドン2号など7発の弾道ミサイルを発射、安保理緊急協議、14日非難決議、7/15-17第32回主要国首脳会議サンクトペテルブルクで開催、7/15-24「平成18年7月豪雨」、7/17インド洋地震・津波(M7.7)、8/7米国産牛肉再開第一便到着、8/14首都圏停電(クレーン船のブームが送電線に接触)、8/15小泉純一郎総理大臣靖国神社参拝、8/24冥王星が準惑星に格下げ、9/6秋篠宮家に悠仁親王誕生、9/15竹中平蔵議員辞職を表明、9/17台風13号が九州に上陸し延岡市などで竜巻発生、9/19タイ軍事クーデター、9/26安倍晋三が内閣総理大臣に指名される、9/28タイでスワンナプーム国際空港開港、10/1阪急と阪神が経営統合、10/9北朝鮮が初めての核実験、11/15 千島列島沖地震(M7.9)、12/9米映画『硫黄島からの手紙』日本公開、12/30フセイン元イラク大統領死刑執行、など。

1月に打ち上げられたNew Horizonsは2015年には(飛行中に「準惑星」に格下げになった)冥王星を観測し、その後は太陽系外縁天体を観測し、太陽系外に向かった。搭載したコンピュータのCPUはMIPSのR3000アーキテクチャの耐放射線マイクロプロセッサMongoose-V(12 MHz、Synova製)だそうであるが、過酷な環境の中で10年以上動いていることは驚異である。もちろん通信距離も驚異的だ。

私事では2006年3月末をもって東大を定年退職し、4月からは創設に協力していた工学院大学情報学部の初代学部長になった。3月15日には東大で最終講義「素粒子から情報まで」を行った。4月からは日本応用数理学会会長に任命された。日本数学会との相互交流企画で、数学会年会(中央大学)において招待講演「スーパーコンピュータの歩み」を行った。関係者のご尽力により、4月18日、文部科学省より「科学技術計算の高度化のための超並列計算の研究」が、我が国の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究・開発であると認められ、文部科学大臣表彰「科学技術賞(研究部門)」を受賞した。これも私事であるが、1998年から教皇庁文化評議会の顧問を務めていて、この年11月26日~30日にインドネシアのバリ島で汎アジア会議が開かれ参加した。筆者は”The Challenge of Sects and Indifference to the Faith”という題をいただいたので、オウム真理教について講演した。詳細は筆者の報告を参照

次世代スーパーコンピュータ開発

1) 開発体制構築
1月4日、文部科学省に次世代スーパーコンピュータ整備推進本部が設置され、プロジェクトリーダー(研究振興官)として渡辺貞(日本電気支配人)が着任した。体制は以下の通り。なお渡辺貞プロジェクトリーダーは2年の任期であったが8月に理研に移った。

文部科学省 スーパーコンピュータ整備推進本部
 平成18年4月14日現在

 

また、理化学研究所は、1月1日 次世代スーパーコンピュータ開発実施本部を設置した。丸の内の明治生命館6階に丸の内拠点を設けた。組織は下記の通り。

平成18年4月14日現在

 

次世代スーパーコンピューティング技術は、閣議決定した第3期科学技術基本計画において「国家基幹技術」と位置づけられ、文科省が2006年度(平成18年度)から「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用プロジェクト」を開始し、理研が開発主体となった。4月、横川三津夫が産総研グリッド研究センター副センター長からハードウェア開発チーム・チームリーダーとして移籍した。

文部科学省の整備推進本部と理研の開発実施本部との共同で、日本国内のスーパーコンピュータの設置状況、利用状況、将来計画などについて調査を行い、「スーパーコンピュータ調査報告書」(2006年6月6日)を発行した。

5月17日に公布された「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」の新法が7月1日施行された。理研が次世代スーパーコンピュータの設置者と規定され、理研は設置者として正式に開発・建設・維持管理・共用の業務を行うこととなった。立地検討部会を設置し検討開始(後述)。

2) ターゲット・アプリケーション・ソフトウェア候補の選定
2005年の総合科学技術会議の評価検討会において、筆者らが「汎用だからどんなアプリにも対応できる、という考えは間違っている」と主張したこともあり、システム開発のターゲットとなる具体的なアプリケーションの選定が必要になった。2004年10月ごろから、文部科学省では大学、研究機関、産業界などからのヒアリングを精力的に行った。

理化学研究所次世代スーパーコンピュータ開発実施本部では、2006年1月24日の第1回開発戦略委員会において、次世代スーパーコンピュータ開発戦略委員会の下に「アプリケーション検討部会」を設置した。メンバーは以下の通り。

氏 名 所 属
(部会長)平尾公彦 東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 教授
(副部会長)中村春木 大阪大学 蛋白質研究所 教授
宇川 彰 筑波大学 計算科学研究センター センター長、数理物質科学研究科 教授
梅谷 浩之 日本自動車工業会
大峯 巌 名古屋大学大学院理学研究科 教授
加藤 千幸 東京大学生産技術研究所計算科学技術連携研究センター、センター長 教授
川田 裕 三菱重工業株式会社 高砂研究所 技監・主幹研究員
北浦 和夫 産業技術総合研究所 計算科学研究部門 総括研究員
木寺 詔紀 横浜市立大学 大学院総合理学研究科 教授
阪口 秀 地球内部変動研究センター地殻ダイナミクス研究グループグループリーダー
住 明正 東京大学気候システム研究センター 教授
泰地真弘人 理化学研究所 ゲノム科学総合研究センター 高速分子シミュレーション研究チーム チームリーダー
高田 彰二 神戸大学理学部 助教授
寺倉 清之 北海道大学 創成科学共同研究機構 特任教授
土井 正男 東京大学大学院 工学系研究科 教授
中村振一郎 株式会社三菱化学科学技術研究センター 計算科学研究所 所長
西島 和三 持田製薬 開発本部 主事
平田 文男 自然科学研究機構分子化学研究所 教授
平山 俊雄 日本原子力研究開発機構 システム計算科学センター 次長
姫野龍太郎 理化学研究所 次世代スーパーコンピュータ開発実施本部
開発グループ グループディレクター
樋渡 保秋 金沢大学大学院自然科学研究科 教授
藤井 孝蔵 宇宙航空研究開発機構情報・計算工学センター センター長
古村 孝志 東京大学地震研究所 助教授
牧野内昭武 理化学研究所 ものつくり情報技術統合化研究プログラム
プログラムディレクター
松本洋一郎 東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 教授
觀山 正見 自然科学研究機構国立天文台 教授・副台長
山形 俊男 地球フロンティア研究センター気候変動予測研究プログラム プログラムディレクター
オブザーバー
渡辺 貞 文部科学省スーパーコンピュータ整備推進本部副本部長・プロジェクトリーダー
高田 俊和 文部科学省スーパーコンピュータ整備推進本部リーダー補佐

 

検討の経緯は下記の通り

日付 会議 議事内容
1月24日 第1回開発戦略委員会 アプリケーション検討部会の設置
1月25日 第1回アプリケーション検討部会 設置趣旨の確認及びと今後の活動の審議
この間   [各委員によるターゲット・アプリケーション候補の調査及び提案]
3月 1日 第2回アプリケーション検討部会 提案アプリケーション(107種)のリスト及び優先順位付けの方法の審議、分野別会合の開催
この間   [各委員による提案アプリケーションの評価]
3月30日 第3回アプリケーション検討部会 提案アプリケーションの評価結果のとりまとめ、分野別の審議、優先順位の決定
4月10日 第2回開発戦略委員会 ターゲット・アプリケーション候補の選定
5月 第1回計算機仕様検討チームとターゲットアプリケーション検討チームとの合同検討会  
6月 第2回計算機仕様検討チームとターゲットアプリケーション検討チームとの合同検討会  
7月 第3回計算機仕様検討チームとターゲットアプリケーション検討チームとの合同検討会  

 

検討部会では、5つの分野から候補アプリ21種と次候補4種を定めた。ライフ分野から候補6+次候補1、物理分野から候補2、ナノ分野から候補6+次候補1、地球科学分野から候補3+次候補1、工学分野から候補4+次候補1である。今後、これらのアプリケーション・ソフトウェアの所有者等からソースコード等のデータを収集し、分析を行った上で、次世代スーパーコンピュータのアーキテクチャを評価するためのベンチマークテストプログラムを作成する。2007年4月9日に、選定した21本のアプリケーションプログラムを公表した。

3) グランドチャレンジ
2つのグランドチャレンジアプリケーション(正式には「次世代スーパーコンピュータを最大限活用するためのソフトウェアの開発・普及」)研究がはじまった。期間は5年間。「次世代ナノ統合シミュレーションソフトウェアの研究開発」(代表平田文男)が2006年4月から始まった。拠点は分子科学研究所。

もう一つの「次世代生命体統合シミュレーションソフトウエアの研究開発」(代表茅幸二)は半年遅れ、2006年10月から始まった。拠点は理化学研究所中央研究所。

次は概念設計である。F案とN+H案の2案に収束して行った。

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