世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


1月 29, 2018

HPCの歩み50年(第148回)-2008年(a)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

2008年、人類はLANLのRoadrunnerにより遂にPFlopsの壁を破った。NSFのTrack 2は、TACCのRangerとTennesseeのKrakenが動き出した。日本ではT2Kの3台のマシンとTSUBAME1.2が上位を占めた。日本の次世代スーパーコンピュータ計画とバッティングしそうなNSFのTrack 1 “Blue Waters計画”(NCSA)には厳重な箝口令が敷かれていた。

社会の動きとしては、1/2原油先物相場が100ドル台に、1/11新テロ対策特措法が、参院で否決の後、衆院の2/3で成立、1/17中央教育審議会が新しい学習指導要領を答申(2/15文部科学省が新学習指導要領発表)、1/27大阪知事選で橋下徹が初当選、1/30中国製餃子で10人食中毒、メタミドホスを検出、1/31教育再生会議、道徳の教科化などを求めた最終報告、2/1海外から日本に入国する全ての旅客に税関申告書義務化、2/10ソウルの南大門で火災発生、2/17コソボ独立宣言、2/19野島崎沖でイージス艦衝突事故、2/22ロス疑惑で日本において無罪確定の三浦和義がサイパン島で逮捕される、2/24キューバ国家評議会、ラウル・カストロを議長に選出、2/25李明博が第17代韓国大統領に就任、3/1 AOLはNetscape Navigatorのサポート終了、3/10ラサ市でチベット騒乱、3/13東京外為市場で12年ぶりに1ドル100円を突破、3/15土井孝雄宇宙飛行士が国際宇宙ステーションに入室、3/15寝台急行「銀河」が廃止、3/20赤坂サカスオープン、3/23土浦連続殺傷事件(荒川沖駅)、3/23熊本県知事に蒲島郁夫初当選、3/28イーモバイル、音声通話サービス提供開始、3/30日暮里舎人ライナー開業、横浜地下鉄グリーンライン開業、4/1慶應義塾大学が共立薬科大学を併合、4/14デルタ航空がノースウェスト航空の買収による合併に合意(10/29に合併しデルタ航空となる)、4/16南極観測船しらせ進水式、5/1第1次エリアにおいて、自動販売機でタバコを購入する際にtaspoが必要になる、5/2「主婦の友」休刊、5/12四川大地震発生、5/13『道路整備財源特例法』成立、5/20台湾の馬英九総裁就任、5/21宇宙基本法案成立、5/25アメリカNASAの探査機Phoenixが火星の北極近傍に着陸、5/28ネパール王政廃止、6/? 居酒屋タクシーが問題となる、6/1第2次エリアでtaspoが必要になる、6/3米国のビザ免除プログラム渡航者にESTAが義務化と発表、6/8秋葉原通り魔事件、6/11 Fermiガンマ線宇宙望遠鏡打ち上げ(8月から運用)、6/14平成20年宮城内陸地震、6/17宮崎勤死刑執行、7/1関東など第3次エリアにおいてtaspoが必要になる、7/7-9第34回主要国首脳会議「洞爺湖サミット」開催(日本で5回目)、7/16名古屋駅発東京駅行きのJR東海バスがバスジャック、7/22八王子ショッピングセンター内通り魔殺人事件、7/28神戸市都賀川でゲリラ集中豪雨による異常増水で児童4人が死亡、8/6毒餃子中毒事件(2007年~)発覚後、回収された天洋食品製の餃子が中国国内で流通し、それを食べた中国人が中毒症状を起こしていたことが報じられる、8/8-24北京オリンピック、9/1福田康夫首相辞意を表明、9/6-17北京パラリンピック、9/10 LHC稼動開始、9/15アメリカのLehman BrothersがChapter 11を申請し経営破綻、9/16日本法人リーマン・ブラザーズ証券が民事再生法適用申請、9/16アメリカの保険会社AIG救済のためFRBが$85Bの融資を承認、9/22自民党総裁選挙で麻生太郎を選出、24日福田康夫にかわって首相に、9/29アメリカ合衆国下院で金融安定化法案を否決、NY市場暴落、10/1大阪市浪速区の個室ビデオ店で火災発生、15名死亡、10/1松下電器産業が社名を「パナソニック株式会社」に変更、10/3アメリカで緊急経済安定化法が成立、10/7アメリカ金融危機のあおりで日経平均株価が1万円を割り込む、10/7小林誠、益川敏英、南部陽一郎のノーベル物理学賞が決定、10/7微少天体2008 TC3が地球の大気圏に突入し爆発、10/8下村脩のノーベル化学賞が決定、10/10三浦和義がLos Angeles警察署内で自殺、10/10大和生命保険が経営破綻、10/15中国から輸入した冷凍インゲンで健康被害、ジクロルボス検出(同種の事件頻発)、10/24東京市場の日経平均が8000円を割る(27日には7162.90円)、10/29エキスポランドが民事再生法適用申請、11/1パナソニックが三洋電機を買収する意向、11/4小室哲哉が詐欺で逮捕、11/4アメリカ大統領選挙でバラク・オバマが圧勝、11/26-29インドのムンバイで同時多発テロ、12/12新テロ対策特別措置法改正案成立、12/31新宿コマ劇場閉館、など。

2007年のサブプライム住宅ローン危機に端を発した、アメリカの住宅バブル崩壊は、2008年9月15日のリーマンショックに始まる世界的な金融危機を起こした。HPCにも向かい風が吹いてきたようで、2009年にかけて多くの会社が姿を消した。

これは個人的なことだが、年末の7日間、家内とベトナムに出かけ、中部高原のDalatという観光地のリゾートホテルに滞在した。ベトナムは12年前に学術振興会の調査で出かけた時以来であるが、街にはますます活気があふれていた。1円=184ドンで、1万円を両替すると百万長者であった。

次世代スーパーコンピュータ開発

前年決定したベクトルとスカラを組み合わせたアーキテクチャに基づき、システムの詳細設計が進められた。同時にこれを利用した研究開発をどう戦略的に進めるべきかについても検討がはじまった。スカラー部のプロセッサについてはSPARC64アーキテクチャであること以外(コア数など)はまだ公開されていなかった。ところが、5月9日のSS研究会総会での「フィールド・イノベーション」と題した講演で、秋草直之富士通社長が次世代のプロセッサは8-coreだと漏らしてしまった。2008年に発表されたSPARC64 VIIはquad-coreなので、誰が考えてもこんなところであろうが、せっかく末端が一生懸命NDAを守っているのに社長から破ってしまったのでびっくりした。

 
   

1) 施設
施設については、2007年3月28に神戸での立地が決定した直後から基本設計が始まっていたが、2008年3月21日、計算機棟が着工し、4月28日に安全祈願祭が行われた。[写真は次世代スーパーコンピュータ施設の完成予想図。戦略委員会の資料から]

2) 次世代スーパーコンピュータ作業部会
2007年のところで述べたように、文部科学省情報科学技術委員会は2007年11月7日「次世代スーパーコンピュータ作業部会」設置し、第1回を2007年12月26日に開催した。合計7回の会議が行われた。

  日付 主要議題
第2回 2008年2月14日 1.次世代スーパーコンピュータを中核とした教育研究のグランドデザインについて
配付資料)(議事録
第3回 2008年3月12日 1.次世代スーパーコンピュータを中核とした教育研究のグランドデザインについて
配付資料)(議事録
第4回 2008年4月22日 1.次世代スーパーコンピュータを共用する際の基本的な考え方について
配付資料)(議事録
第5回 2008年5月21日 1.次世代スーパーコンピュータを中核とした教育研究のグランドデザインについて
配付資料)(議事録
第6回 2008年6月19日 1.次世代スーパーコンピュータを中核とした教育研究のグランドデザインについて
配付資料)(議事録
第7回 2008年6月25日 1.次世代スーパーコンピュータを中核とした教育研究のグランドデザインについて
配付資料)(議事録)(作業部会報告書案

 

筆者は第2回会議に呼ばれ、共用施設である次世代スパコンの利用の基本的考え方、スパコンを活用した研究開発、人材育成、利用者支援、次世代スパコンを中核としネットワーク機能も含めた拠点形成の考え方等について意見を述べた。私事であるが、意見陳述の直後、横浜に住む岳父(95歳、元半導体研究者)と連絡が取れないとの電話があり、会議後駆けつけると自宅ですでに息絶えていた。

この作業部会での審議のための基礎資料として、我が国の計算機科学やシミュレーション研究に対する取り組みの状況、課題等を俯瞰的に把握したいとのことで、4月25日付で、スーパーコンピュータ整備推進室から「我が国の計算機科学の状況調査」のお願いが送られて来た。我が国で行われている計算機科学研究について、その研究者、所属(所属する研究室も含む)、研究テーマ(研究内容)等をご教示いただき、これを整理したいとのことであったが、計算機科学(computer science)とシミュレーションを含む計算科学(computational science)とを混同しているところもあった。第5回作業部会において「我が国の計算科学技術の現状に関する調査について」として報告され、シミュレーション研究については85人に調査を依頼し、39人から回答、計算機科学については51人に調査を依頼し、28人から回答があったとのことであった。

報告書では、次世代スーパーコンピュータの共用のあり方として、研究、研究支援、研究成果、人材育成、理解増進などが述べられている。また、次世代スーパーコンピュータにおける研究機能の構築として、戦略的利用のあり方、研究機能の充実、諸機能の有機的な形成が論じられている。

3) 次世代スーパーコンピュータ戦略委員会
次世代スーパーコンピュータ作業部会からの報告に基づき、2008年11月18日、文部科学省は次世代スーパーコンピュータプロジェクトががその目的を達成するためには、研究開発を着実に進めるとともに、次世代スパコンの完成後をにらみ、その利活用のあり方を検討するため、次世代スーパーコンピュータ戦略委員会を設置した。検討事項は以下の通り。

1.戦略分野、戦略目標の設定
2.一般的利用(教育枠、産業枠)の制度設計
3.資源配分の検討
4.登録機関の業務内容の検討
5.関係機関との連携のあり方検討
6.利用料金の方針検討
7.戦略プログラム全体の研究教育の進捗状況の把握・評価
8.戦略分野間の研究費の配分計画の策定
9.その他

委員は下記の通り。任期は平成20年11月25日~平成29年3月31日という長期で、筆者等老人は「終わりまで生きているか?」と心配になった。実際には、行政刷新会議の仕分けのため、2010年初めにリセットされた。

主査:土居 範久 中央大学理工学部教授
伊東 千秋 富士通株式会社取締役副会長
宇川 彰 筑波大学副学長
小柳 義夫 工学院大学教授
小林 敏雄 財団法人日本自動車研究所所長
寺倉 清之 北陸先端科学技術大学院大学教授
中村 春木 大阪大学蛋白質研究所教授
平尾 公彦 独立行政法人理化学研究所特任顧問
矢川 元基 東洋大学計算力学センター長
米澤 明憲 東京大学情報基盤センター長

 

2008年中は1回だけ開催された。

  日付 主要議題
第1回 2008年12月3日 1.次世代スパコンを中核とした研究教育拠点形成について
2.戦略的研究開発プログラムについて
配付資料)(議事録

 

2回目を12月18日に予定していたが、調整がつかず年明けの2009年1月9日となった。

4) 科学技術・学術審議会
文部科学省の科学技術・学術審議会は、2008年中には3回開催された。スーパーコンピュータ関連は予算関係の資料に出る程度である。

  日付 主要議題
第24回 2008年2月7日 1.平成20年度予算案について
2.独立行政法人の整理合理化計画について
3.iPS細胞研究等の加速に向けた取組について
4.各分科会等の審議状況について
5.地震・火山噴火予知研究計画について
配付資料)(議事録
第25回 2008年7月17日 1.地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について
2.各分科会等の審議状況について
配付資料)(議事録
第26回 2008年9月9日 1.平成21年度概算要求について
2.各分科会等の審議状況について
3.長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について
配付資料)(議事録

 

5) 総合科学技術会議
同会議の専門調査会の一つに評価専門調査会がある。2008年度の活動を記録する。直接関係のある議題はない。

  日付 主要議題
第70回 2008年3月3日 評価システム改革の推進について
配付資料)(議事録
第71回 2008年4月10日 評価システム改革の推進について
配付資料)(議事録
第72回 2008年5月23日 国の研究開発評価に関する大綱的指針の見直しについて
平成18年度に実施した「国家的に重要な研究開発の事前評価」のフォローアップの実施方法について
配付資料)(議事録
第73回 2008年6月16日 国の研究開発評価に関する大綱的指針の見直しについて
配付資料)(議事録
第74回 2008年7月9日 平成18年度に実施した「国家的に重要な研究開発の事前評価」のフォローアップについて
国の研究開発評価に関する大綱的指針の改定について
配付資料)(議事録
第75回 2008年9月9日 平成18年度に実施した「国家的に重要な研究開発の事前評価」のフォローアップについて
平成20年度における「国家的に重要な研究開発の事前評価」について
配付資料)(議事録
第76回 2008年10月17日 平成20年度における国家的に重要な研究開発の事前評価について
総合科学技術会議が事前評価を実施した国家的に重要な研究開発の事後評価について
「国の研究開発評価に関する大綱的指針」の改定について
配付資料)(議事録
第77回 2008年11月17日 平成20年度における国家的に重要な研究開発の事前評価について
総合科学技術会議が事前評価を実施した国家的に重要な研究開発の事後評価の進め方について
「国の研究開発評価に関する大綱的指針」の改定について
配付資料)(議事録

 

6) 情報科学技術委員会
上記と並行して、文部科学省科学技術・学術審議会の情報科学技術委員会が開かれている。

 

第47回 2008年2月6日 1.平成20年度政府予算案について
2.研究開発課題の評価の進め方について
3.今後の情報科学技術に関する研究開発の推進について
4.その他(次世代スーパーコンピュータ作業部会の報告)
配付資料)(議事録
第48回 2008年3月3日 1.「将来のスーパーコンピューティングのための要素技術の研究開発プロジェクト」最終成果報告会
配付資料)(議事録
第49回 2008年3月27日 1.今後の情報科学技術に関する研究開発の推進について
2.「e‐Society基盤ソフトウェアの総合開発」第1回最終成果報告会
配付資料)(議事録
第50回 2008年4月15日 1.「e‐Society基盤ソフトウェアの総合開発」第2回最終成果報告会
配付資料)(議事録
第51回 2008年5月13日 1.「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発プロジェクト」最終成果報告会
2.「安全なユビキタス社会を支える基盤技術の研究開発プロジェクト」最終成果報告会
3.「サイエンスグリッドNAREGIプログラムの研究開発」最終成果報告会
配付資料)(議事録
第52回 2008年7月1日 1.今後の情報科学技術に関する研究開発の推進について
2.「将来のスーパーコンピューティングのための要素技術の研究開発プロジェクト」事後評価
配付資料)(議事録
第53回 2008年7月25日 1.平成21年度に重点的に推進すべき研究開発について
2.「将来のスーパーコンピューティングのための要素技術の研究開発プロジェクト」事後評価について
3.次世代スーパーコンピュータ作業部会の報告について
配付資料)(議事録
第54回 2008年8月28日 1.平成21年度における情報科学技術分野の重点事項の評価について
2.「e‐Society基盤ソフトウェアの総合開発」事後評価について
3.「次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発」中間評価について(報告)
配付資料)(議事録
第55回 2008年12月11日 1.総合科学技術会議による平成21年度概算要求における科学技術関係施策の優先度判定等について
2.「e-Society基盤ソフトウェアの総合開発」事後評価について
3.「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発プロジェクト」事後評価について
4.「安全なユビキタス社会を支える基盤技術の研究開発プロジェクト」事後評価について
5.「サイエンスグリッドNAREGIプログラムの研究開発」事後評価について
6.次世代スーパーコンピュータ戦略委員会の立ち上げについて
配付資料)(議事録

 

理化学研究所次世代スーパーコンピュータ開発実施本部は、4回目となる「次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2008」を開催したが、これは次回に。その他の、日本政府関係の動きも。

 

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