世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


1月 16, 2014

ロシア、スパコンのギャップを閉ざす狙い

HPCwire Japan

Tiffany Trader

世界中の国々がHPCの可能性に目覚め、スーパーコンピューティングの軍拡競争は、全力を挙げてという状況になっている。ロシアのHPCの現状が、Intel、AMD、IBM、QlogicおよびAsus等のスポンサーで先週の火曜日にモスクワ郊外で開催されたNational Supercomputing Forumで脚光を浴びた。

まず、背景を年代順に少しばかり。2009年に、ロシアのメドベージェフ大統領は、ロシアでの国産スーパーコンピュータの開発を呼びかけた。安全保障会議での彼のスピーチは報道機関イタル・タス通信で配信され、クレムリンのウェブサイトにも登場した。

「正直に話せば、関係者はもちろん、起業家の殆どの人はスーパーコンピュータが何であるかを知らない。彼らにとってそれはアメリカに追いつき、追い越すために1920年代に作成されたエキゾチックなマシンなのです。」と、メドベージェフは言った。

「我々は、あらゆる手段を尽くしてでも、スーパーコンピュータの需要を喚起する必要がある。何故なら、これが流行の話題であるだけでなく、この需要を創り得なかったなら、我国の製品は競争力を持たず、潜在的なバイヤーの興味を引かなくなるだろう。」と、彼は続けた。「もう一度言おう。スーパーコンピュータを用いて製造されていないどんな飛行機の機体や自動車のエンジンも、この数年でバイヤーの関心を引くことは無くなるだろう。何故なら、既に設定された基準が存在しており、我々はこれまでそれらに適合するために一切何もしてこなかった。」

この演説は、ロシアにおいてHPCを支持する大きな波を引き起こした。2年も経たない内に、ロシアはその最初のペタスケールシステムを祝う事になった。モスクワ大学の「Lomonosov」スーパーコンピュータへのアップグレードによりそのピーク理論動作速度は1.3ペタフロップスに増加した。そしてT-Platformsシステムは2011年6月のTOP500リストの13位を占めるに至った。

このような目覚ましい進歩にもかかわらず、モスクワタイムズの最近の記事によれば、ロシアはいまだにスーパーコンピューティング技術の面で5年半も米国に遅れている。ロシア科学アカデミーの専門家は、このギャップを埋めることは、ロシア経済の競争力向上に不可欠であると主張している。

モスクワの北東140キロに位置する歴史ある町Pereslavl-Zalesskyにあるロシア科学アカデミーのProgram Systems Instituteの所長であるSergei Abramov氏は、その地で開催されたNational Supercomputing Forumでモスクワタイムズに次の様に語った。

「スーパーコンピューティングは、色々な方法で経済力を高めることができる。例えば、材料科学の進歩、製造プロセスの合理化そして新技術のための発射台の提供といったやり方で。」

定義上スーパーコンピュータは従来のコンピュータと比べて桁違いに処理時間が短い。その様にして得られる結果が競争上の非常に大きな優位性をもたらす。

Abramov氏は、米国のCouncil on Competitivenessの社長であるDeborah Wince-Smith氏の「打ち負かしたい国は打ち負かさなければならない。」という言葉を思い起こしながら、「スーパーコンピュータは、競争相手を打ち負かすための唯一の手段である。」とまで極言した。

打ち負かそうとする国々にとって最も難しい部分は、独自で国産スーパーコンピューティング技術を開発することである。Abramov氏によると、この開発能力は他国に対してこの上ない競争上の優位な点になる。現在、ロシアは他国からの商業的に利用可能なコンポーネントに依存している。とりわけロシアが国内で開発していないチップやストレージについてはそうである。

Abramov氏は、米国や中国のようなスーパーコンピューティングのリーダーとのギャップを埋めるべくロシア製スーパーコンピュータを構築する鍵は、国策プログラムの一環としての国内外のベンダーとの目標を絞ったパートナーシップであると信じている。ロシアの指導者たちは、かっては同じ課題の多くに直面しながら今では世界最高速のスーパーコンピュータを運用している中国の先例にみならうべきである。

最新のTOP500リストによれば、「Lomonosov」は現在でも理論性能1.7ペタフロップスのロシア最速のスーパーコンピュータである。ロシアはまだLINPACKペタスケールシステムを送りだしてはいない。