世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


4月 30, 2020

Piz Daint、火星の地震に挑む

HPCwire Japan

Oliver Peckham

研究者がスーパーコンピュータを使って地球上の地震の謎を探っている間、少し離れた場所の地震にも目を向けている他の研究者もいる。スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zürich)の研究者たちは、スイス国立スーパーコンピュータセンター(CSCS)のスーパーコンピュータの性能を利用して火星の構造を解析し、火星そのものの構造を明らかにした。

2018年、NASAはロボット探査機の火星地表への着陸に成功した。火星の地震活動を調査するために、InSight(Interior exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transportの略)と呼ばれる探査機が降り立ったのである。火星の地震活動調査のため、ETH Zürichから提供された火星初の地震計、SEIS(Seismic Experiment for Interior Structure)を携えていた。

「火星の地殻の散乱特性により、10分から20分と長い信号時間を持つ火星地震は、アポロ時代に月ですでに観測されていた特徴を持っています」と、CSCSのインタビューに応じた研究プロジェクトを主導するETH Zürichの教授、Domenico Giardiniは述べた。それでも、研究者たちは自分たちの装置にもかかわらず、そのほとんどが距離だけを捉えており、波の方向を特定するのに苦労した。探査機を揺さぶる不安定な強風などの火星の悪条件は、さらに困難を深めた。

 
   

InSightは現在、火星に、地球日よりも少し長い期間である500火星日近く滞在している。その間、1日に約1回、450回以上の地震を記録している。その地震情報は地球に戻され、ETH Zürichが主導している地震サービスに送られる。火星の地震波を解析することで、火星の内部構造の理解を深めることを目的としている。

InSightがまだ飛行中だった2018年、ETH Zürichは、それが送信してくるであろうデータを解釈するための準備として、一連のシミュレーションを実行していた。要するに、ETH Zürichの研究者たちは、火星の内部構造の約30種類のモデルから開始し、それらのシミュレートされた構造を通して波を伝播させるという逆の操作を行ったのだ。そして、得られたデータを他の研究者に提供し、波動データから構造を解釈するよう依頼した。

これらのシミュレーションを実行するために、ETH Zürichは CSCS のスーパーコンピュータPiz Daint を使用した。Piz Daintは、5,704 XC50ノード(Intel Xeon E5-2690 CPUとNvidia Tesla P100 GPUを搭載)と1,813 XC40ノード(Intel Xeon E5-2695 CPUを2基搭載)で構成されるCrayシステムである。その2つのセクションは、それぞれ21.2 Linpackペタフロップスと1.9 Linpackペタフロップスで、世界で最も力を持つスーパーコンピュータの最新のトップ500リストの6位と185位に位置している。「Piz Daintのようなスーパーコンピュータがなければ、ノートパソコンで1つのモデルをシミュレーションするのに、探査機が火星に到達するのにかかる時間の約4倍である、2年以上かかっていたでしょう。」と、ETH Zürichの地震学・波動物理学グループの上級研究員であるChristian Böhmは、CSCSとのインタビューで語った。

実際のデータを手にしたETH Zürichの研究者たちは、シミュレーションと現実を自由に比較することができるようになり、彼らが想像した構造物の地震波と、実際の火星の神秘的な構造物の地震波との間に類似点があることを発見した。これらの比較を用いて、研究者たちはモデルの改良や繰り返しを行い、できるだけ現実と一致させようとしている。

すでに研究者たちは、記録された174の地震を調査し、火星の地殻の最上部の5〜7マイル(約5〜7マイル)が高度に変化していることや、火星の地殻が地球の月よりも多くの揮発性元素(酸素や二酸化炭素など)を含んでいることなど、いくつかの結論を導き出している。

ヘッダー画像:Piz Daintのシミュレーションによる地震の1つ。ETH Zürichによる提供画像。

ETH ZürichによるInSightデータの分析の詳細については、こちらのMichèle Martiの記事をご覧ください。