世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


10月 19, 2020

NEC、「次世代地球シミュレータ」にベクトル機を提供

HPCwire Japan

Oliver Peckham

海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、日本の海洋活動を支援し、地球環境の変化や国に影響を及ぼす自然災害の把握を目的に、さまざまな研究開発を行っている。この度、多国籍IT企業であるNECは、NECが新たに発表したベクトル型スーパーコンピュータ「SX-Aurora Tsubasa」を用いた「大規模」システムをJAMSTECに提供することを発表した。新システムの稼働開始は2021年3月を予定している。

 
  オリジナルの地球シミュレータシステム。
   

 

このシステムは、「地球環境、海洋資源、海洋地震、火山活動に関する研究開発や、膨大なデータの作成・解析・連携を高効率に行うことに貢献する」ことを目的とした「次期地球シミュレータ」プロジェクト、要するにJAMSTECの一般的な目的を果たすためのシステムである。本システムは、2002年から2004年まで世界最高性能のスーパーコンピュータとして世界の公的ランキングに君臨した36 Linpackテラフロップスのスーパーコンピュータ「Earth Simulator」の後継システムの最新作となる。地球シミュレータは2009年にEarth Simulator 2に引き継がれ、2017年にはEarth Simulator 3に引き継がれている。(新システムに「Earth Simulator 4」という名称が付けられるかどうかは不明である。)

 

 
NECのラックマウントシステム「B401-8」。NECによる提供画像。  
   

JAMSTECの新システムの心臓部となるのは、NECの新型ベクタスパコン「SX-Aurora Tsubasa B401-8」である。タスクの並列処理を得意とするベクトルプロセッサは、初期のスーパーコンピュータでは目立っていたが、スカラーマイクロプロセッサのコストが下がるにつれ衰退した。しかし、NECは、スーパーコンピューティングにおけるベクトルプロセッサを支持し続けている。そのベクトルスーパーコンピューティング分野への最新の参入が、B401-8である。

B401-8には、8つの 「ベクトルエンジン」(ベクタープロセッサを搭載したPCIeカード)を搭載され、それぞれが最大で約25テラフロップスの性能を発揮する。

ベクトルエンジンはRed Hat Enterprise LinuxまたはCentOSを実行する 「ベクトルホスト」サーバによってサポートされ、ベクトルエンジン自体はAMD Epyc CPUと最大512GBのメモリを搭載している。B401-8は、Nvidia Mellanox HDR InfiniBandネットワーキングを使用している。

B401-8は、6月下旬に発表されたばかりの新製品だが、実際は従来のSX-Aurora Tsubasaシステムのデータセンター専用モデルである。しかしそのB401-8は、従来のSX-Aurora Tsubasaシステムに比べて高密度化を実現し、ベクタープロセッサの性能を25%向上させたほか、ベクタープロセッサとAMD CPUを組み合わせてパフォーマンスを向上させるハイブリッドコンピューティング機能を新たに搭載している。

NECによると、B401-8は、JAMSTECとの新たな契約に加え、東北大学サイバーサイエンスセンターから気候シミュレーションから航空機開発までの機能を搭載したB401-8を初期受注したことからもわかるように、天気予報、気候モデリング、流体解析などのAIやHPCアプリケーションに最適化されているとのことである。

次期地球シミュレータでは、NECのハードウェアに加えて、Nvidia A100 GPU、DDNが提供する「大容量ストレージユニット」(合計61.4PB)、HPEが提供する「汎用コンピューティングノードサーバ」を使用する。JAMSTECによると、理論ピーク時のペタフロップ数は19.5ペタフロップで、これは「Earth Simulator 3」が提供した1.3ペタフロップの15倍近くになるという。もしこれが正確であれば、次期地球シミュレータをスーパーコンピュータの上位に立たせるのに十分である(そして、富岳システムで再びトップに立った日本に、またしても大きな勝利をもたらすだろう)。