世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


1月 4, 2017

「京」コンピュータの経済波及効果は1兆円超

HPCwire Japan

理化学研究所計算科学研究機構は12月22日、「京」およびポスト「京」の利用で想定される波及効果の調査報告書を公表した。この調査は理研が米国IDC(International Data Corporation)社に委託して行われた。

調査は2016年4月から12月に実施され、これまでに「京」コンピュータを利用した、もしくはこれからポスト「京」を利用する予定の21の機関の48名の研究者に対して行われ、29件の経済的波及効果を持つ成果と117件のイノベーションを持つ成果の合計146件の成果について調査が行われた。

「京」の経済的波及効果は約1兆円、ポスト「京」も1兆円

この調査では経済的波及効果を収益(Revenue)とコスト削減(Cost Saving)に分けている。収益は開発された製品などの売上であり、コスト削減は開発された手法や製造方法などによって実現されるコスト削減と定義されている。

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「京」コンピュータにおいては、収益は約27億ドルでコスト削減は約69億ドルと算出されており、合計額は約96億ドルで日本円では1兆円規模となっている。これまでに「京」コンピュータの開発から運用までに掛かった経費は1,500億円を超えると見られる。この6倍以上の経済的効果があったということになるのだろう。

ポスト「京」の場合にはまだ開発中であるため、単に想定される額となっているが、収益で51億ドル、コスト削減で約50億ドルで、ポスト「京」においても経済的波及効果は1兆円規模となっている。また、これらの額は今回調査した29件のみの額であるため、実際にはさらに大きくなると報告書では述べられている。

また、HPCに対する投資1ドル当たりの投資対効果も算出されており、「京」の場合には収益で571ドル、コスト削減で278ドルとなっている。ポスト「京」では収益で398ドル、コスト削減で234ドルとなっている。

世界的に非常に高い投資対効果

日本の投資対効果は世界と比較するとどうだろうか?今回の調査では他国との比較も掲載されている。「京」コンピュータにおける収益の投資値効果はイギリス、フランスについで高い。イギリスは730ドル、フランスは593ドル。そして「京」は571ドルでポスト「京」は398ドルと続いている。中国とイタリアは10ドル。イギリスが高い理由は金融系の計算にスパコンが利用されているためだそうだ。

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コスト削減においては他国から抜きん出て日本が高くなっている。「京」は278ドル、ポスト「京」は234ドルに続いているのはフランスの98ドルで、収益では非常に高かったイギリスでも48ドルに留まっている。IDC社の分析では、日本のコスト削減に対する投資対効果の高さは、地震災害、建造物への津波の影響などの自然災害や、高価な抗がん剤の患者への適用判断のようなバイオメディカルなどの分野において影響度の高いプロジェクトにフォーカスしたためであると分析している。

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イノベーションの世界でも評価が高い「京」とポスト「京」

経済的波及効果は金額で算出することができるため定量的に検討することが比較的簡単ではあるが、スーパーコンピュータを使った計算においては、経済的な波及効果よりは科学的なイノベーションも大きな役割を持っている。今回の調査でも146件の成果の中では経済的成果が29件で、イノベーションの成果は117件もあった。しかし、このようなイノベーションを定量的に検討することは難しい。本調査報告書ではイノベーションを「重要度」と「影響度」で定量化を試みている。詳しくは調査報告書を見て欲しい。

「重要度」は過去10年間の当該分野においてどの程度の発見であったかを評価している。下図は他国との比較結果である。「京」およびポスト「京」ともにトップ2,3と評価された成果の割合が他国よりも大きいのがわかる。

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次のイノベーションの評価基準である「影響度」の結果を下図に示す。「影響度」は成果が他の機関に影響を与えた数で評価される。この結果からも「京」およびポスト「京」の影響度は他国と比べて大きいことが分かる。

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日本のイノベーションが他国と比べて重要度、影響度共に高い背景について日本では戦略プログラムや重点課題など、国家的重要度から選ばれた研究が長期(5年)にわたって取り組まれていることなどがあげられており、IDCは次のように分析している。

  • 「京」およびポスト「京」は非常に重要でチャレンジングな問題をターゲットとして開発されている。
  • 「京」で培われた計算科学技術をさらにポスト「京」に向けて継続的に発展させるために、ハードウェア開発、システム開発、利用研究が一体となって計画されたプロジェクトである。

この調査結果は、12月5日に開催された文部科学省の特定高速電子計算機施設(スーパーコンピュータ「京」)に係る評価委員会(第6回)において報告された。