フランスCEAと理研、ARMとエクサスケールで手を組む
John Russell & Katsuya Nishi

フランスのCEAと日本の理化学研究所は、HPCの進展とエクサスケール・コンピューティングの準備に向けた、多面的な5年間のコラボレーションに合意した事を発表した。具体的には、ARMエコシステムの構築、既存および将来のプラットフォームにおけるコード開発作業およびコード共有作業、特定のアプリケーション分野(例えば、材料科学および地震学)における専門知識の共有、ビッグデータによる数値シミュレーション利用技術の改善、HPC要員のトレーニングの拡大、と盛りだくさんである。
欧州のHPCの一翼を担うCEA(Alternative Energies and Atomic Energy Commission)と、日本最大の研究機関である理研がこの新しいイニシアチブで幅広い目標を共有することになった。 理研サイドでは、計算科学研究機構が、作業の大半を調整することになるだろうが、関連した活動が理研全体や日本の学術界にまで及ぶと期待される。
おそらく驚くことではないが、ARMのさらなる開発が原動力である。両方のパートナーのプロジェクトリーダーによるコメントは次の通りである。
- 理研:「理研はARM ベースのエコシステムを構築することに全力を注いでおり、ARMに関係する人々にそのメッセージを送りたいと思います。そして、それらの人々が喜んで私たちと連絡を取ってくれるでしょう。」と、理研のFlagship 2020プロジェクト・ディレクターである岡谷重雄氏は語った。プロジェクトコントラクターである富士通はもちろん、ポスト京コンピュータでARMを使用することを約束している。
- CEA:「我々は(ARM)エコシステムの開発をコミットしており、インテルなど他のプラットフォームとの比較テストも行います。それは、私たちが科学者や産業界の人々の将来のニーズを予測し、完全な協調設計ループを実現するための方法です。」と、CEA役員会のメンバーである戦略分析担当ディレクターJean-Philippe Bourgoin氏は述べた。ヨーロッパでは、主要なARMプロジェクトMont Blancもあり、現在第3フェーズでリーダークラスのマシンでのARMの使用を目指している。 Atos/Bullはそのリードコントラクターである。
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Jean-Philippe Bourgoin:戦略分析ディレクター、CEAの役員会メンバー(左)。岡谷重雄:RIKENフラッグシップ2020プロジェクトディレクター。 | |
日本とフランスで先週発表されたこの協定は一定期間の調整の結果であると、CEAと理研の長期連携を代表していると岡谷氏とBourgoin氏は述べている。詳細はまだ発表されていないが、CEAウェブサイトのプレスリリースには、以下の様に記されている。
「コラボレーションの範囲は、オープンソースのソフトウェアコンポーネントの開発であり、x86およびARMアーキテクチャの双方に対する、ハードウェア開発者、ソフトウェア開発者、アプリケーション開発者にとって有益となる環境を構築するものです。オープンソースのアプローチは、特に、パートナーのそれぞれの努力を結び付けるのに適しています。現在の異なるアーキテクチャに対してソフトウェア環境を接近させ、OpenHPCの共同プロジェクトへの貢献を通して、可能な限り多くの成果をもたらすようにすることができるのです。」
「優先テーマには、プログラミング言語とその環境、実行時環境、エネルギーに最適化されたワークスケジューラが含まれています。トレーニングとスキルの開発とともに、有用で費用対効果の高いコンピュータの設計に重点を置いた性能と効率の評価指標に特に注意が払われているのです。そして、このコラボレーションの対象となる最初のアプリケーションは、原子力施設の地震時の挙動や量子化学と凝縮系物理学に関係するものです。」
新しい合意では、両機関が「この戦略的主題(HPCとエクサスケール)に関するグローバルレースで、フランスと日本が協力することを可能にすべきである。フランスと日本のアプローチは、技術的な選択だけではなく、新しいスーパーコンピュータの利用者エコシステム構築の重点化にも多くの類似点がある。」と記されている。
このコラボレーションは、公式にはフランスの教育省、高等教育研究省と日本の文部科学省との間の協定の一部である。ヨーロッパと日本はオープンアーキテクチャーとオープンソースソフトウェアを支持してきた。また、それぞれの国で非x86(インテル)プロセッサーのアーキテクチャがさらに追求されるのにも役立つだろう。
英国で設立されたARMは、昨年日本のITコングロマリットであるソフトバンク買収されたことに留意する必要がある(HPCwireの記事を参照:SoftBank will Purchase ARM Ltd for $32B)。
IDCのHPC / HPDA担当のリサーチバイスプレジデントSteve Conway氏は、次のように語っている。「エクサスケールシステムを含むリーダーシップクラスのスーパーコンピュータ用にオープンソースソフトウェ アを進展させる今回のCEA-理研の協力は理にかなっています。どちらの組織も、ハードウェアとソフトウェアのHPC革新のグローバルリーダーの一員であり、ともにOpenHPCコラボレーションの強力な支持者です。 IDCは数年前から、将来のスーパーコンピュータでは、ハードウェアの進歩よりもソフトウェアの進展の方がさらに重要になる、と述べています。」
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京コンピュータ、理研 | |
岡谷氏とBourgoin氏は、このコラボレーションは当然の成り行きであると述べた。何故なら各々の組織はそれぞれの国でエクサスケールシステムの開発に鋭意努力中であり、それぞれが既にHPCリソースを所有しているからだ。理研/AICSは京コンピュータを持ち、CEAはPRACE(欧州のアドバンスド・コンピューティング・パートナーシップ)ネットワークのコンピュータであるCurieマシンを持っている。
「このパートナーシップの成果の1つは、日本人が開発したアプリケーションとコードをフランスのコンピュータに移植して実行できるようになることです。もちろん、フランスのコードとアプリケーションが日本のコンピュータ上で実行できるようにもなります。そのため、両者のエコシステムが互いに恩恵を受けるでしょう。」とBourgoin氏は語った。彼はコラボレーションのための重要な分野として、プログラミング環境、ランタイム環境、およびエネルギー配慮ジョブスケジューリングの3つを挙げている。
岡谷氏は、各々の組織がこれらの問題に取り組んできた方法に違いがあるが、それは相互に補完的であると強調した。ツール共有の一例は、理化学研究所で開発されたマイクロカーネルが、CEAの仮想化ツール(PCOCC)を使用して強化される。アプリケーションレベルでは、まず次の2つのアプリケーション領域が選択されている。
- 量子化学/分子動力学分野では、ヨーロッパで大々的に開発されたBigDFTを京コンピュータに移植するための初期の取り組みがあり、ライブラリを開発するためのフォローアップ作業が行われている。
- 地球科学分野では、日本は最先端の地震シミュレーション/予測機能を備えており、CEAと連携して日本のシミュレーションコードGAMERAを移植予定である。 Bourgoin氏は、原子力施設評価におけるこのようなシミュレーションの価値を指摘し、日本とフランスは様々な原子力科学の問題に関して長い間協力してきたことを語った。
パートナーシップはいくつかの面で実を結ぶように思われる。 Bourgoin氏によると、この合意には詳細な成果物のリストとその引き渡し予定表がある。 Bourgoin氏は、理研の取り組みがARMに重点を置いている一方で、次世代のHPCに向けて登場するプロセッサーが何であるかはっきりしていないことを強調した。ヨーロッパとCEAは、どのようなプロセッサアーキテクチャーの風景が混在していても大丈夫なように準備は整えたいと考えている。
両氏は、共同開発に加えて、HPCトレーニングの問題に取り組むと述べた。現在訓練された要員が不足していると彼らは認識しており、どのようにトレーニングが進められるかはまだ明らかにされていない。このコラボレーションの行方、さらにARMの牽引力を加速するどんな波及効果があるのかをモニターすることは興味深い。最近の出来事では、Crayが英国に本拠を置くARMベースのスーパーコンピュータプロジェクトを発表した。
どちらのパートナーも、一般的なプロセッサ開発やこの共同作業に関する地政学的影響については明言を避けている。過去の欧州委員会の声明では、x86に代わる明確なヨーロッパ製(原産地、IP、製造)プロセッサーを支援することを明らかにしている。日本も、産業や科学にとって競争上重要な優位性と見なされるHPC技術に関して、同じ様な自国製や自国のコントロールといったもの求めようとしているようだ。