SC13:東大・古村教授、東日本大震災の巨大地震の地震動と津波のメカニズムを可視化
本日、SC13の招待講演(Invited Talk)として、東京大学地震研究所の古村孝志教授による「2011年に日本の東北沖を襲った巨大地震の強い地震動と津波の視覚化(原題:Visualization of Strong Ground Motion and Tsunami for the Great 2011 Off Tohoku, Japan, Earthquake)」と題する講演が行われた。

2011年3月に発生した東日本大震災の地震動と巨大津波を連成問題としてスーパーコンピュータ「京」上でシミュレーションを行った経緯と結果についてプレゼンテーションされた。発表資料によるとつい最近の1ヶ月間(10月19日〜11月18日)に一日平均320回の地震(M-1〜M5)が観測されていると言う。ちなみに隣国の韓国は強固なユーラシアプレート上に位置しているため年40回程度しか観測されていないと言う。さらに震源地の分布は東北を中心に北海道から沖縄近海までほぼ日本全地域を網羅し、震源の震度の1km前後の地表付近から600km程度の大震度まで点在している様を日本付近の地下の3Dマップで表現して見せた。
次に今回のシミュレーションに繋がる1995年に発生した阪神大震災での神戸付近の地質学的地形と地震動の伝播によるダメージの広がり状況を地球シミュレータを用いてシミュレーションしたアニメーション動画を示した。古村教授によると、神戸付近は六甲山脈の裾野を横切る断層を境に海側に幅1km、長さ約40km前後の地盤が軟弱な危険地帯が存在し、シミュレーションでは、地下3000mにおよび地下構造と地震の断層モデルによる混合シミュレーションを実施し、危険地帯に集約的に大きな地震動が襲う様子から危険地帯の存在を証明して見せていた。しかし、聴衆として現在の「京」コンピュータが危険地帯の直ぐ傍に設置されているため、地震による不安も覚えるのであった。
この神戸の地震から10年間で日本全域の地震動観測ネットワークが整備され地球シミュレータによるそのシミュレーション結果に基づいた地震動の挙動の評価等が進み、全国規模の地震ハザードマップも整理されて来たと言う。
そして、2011年3月に予想もしていなかったM9.0の巨大地震が東北沖で発生した。
2011年の巨大地震発生までは、過去数百年間の地震災害に見舞われて来た経験から北海道から四国沖の南海トラフ付近まで数区域で大地震の予測はされており、特に宮城沖では、ここ30年以内にM7.5クラスの地震が99%の確率で発生するだろうと専門家は予測していた。そして、そのための津波シミュレーションも既に行っていた。
しかし、全くの想像だにしていなかったことに東北沖の広い範囲を震源とするM9.0という未曾有の巨大地震が発生し、併せて巨大津波にも見舞われたのであった。古村教授が言うには、この事象から、たった数百年の地震の経験では、予測出来ない限界があることを現実として知らされたと言う。
まずは巨大地震の実際の地震動観測データから地震動の伝播して行く様子を可視化して表示し、地震発生から40秒程度で最初の強い地震動が東北湾岸地域を襲い、その後、数百秒後に東京や名古屋、神戸等の大都市も長周期地震動が伝わって行く様子を実際の地震発生時の東京地区の高層ビルが大きく揺れる様子を見せながら解説した。この時の地震動の振幅は、GPSの観測データによると震源域で最大530cm、東京にある東大地震研究所でも最大50cmの振幅を観測し、その揺れが10分程度続いたことを観測データによって示した。その結果、日本列島が震源に向かって大きく引っ張られ、地震研究所自体も5cm動いた事が示された。
併せて、この巨大地震によって引き起こされた津波についてもそのメカニズムを観測データを基にシミュレーションした結果画像を表示し、説明した。津波は沖合80kmの位置で最大5mにも達する海底面の動きが2度、設置されたセンサーによって観測され、その海底面の動きが津波を発生させ、沿岸の地形によって増幅されて最大で30mを超える大津波となって地震発生から30分程で湾岸地域を襲う様子が示された。
これらの結果から、これまで別々にシミュレーションを実行してきた地震動と津波の振る舞いと地下構造モデルをひとつの連成シミュレーションの中で活用し、行うことで地震発生から津波襲来までの災害予測を迅速に行う必要があるとの
これらは一連のナビア・ストークス方程式で表現出来ることから、そこに津波の加速度および高さ成分を加えることで連成シミュレーションできると考えコードの開発を行った。その過程の中で、津波の振る舞いとして海表面だけではなく、海底面の地震動に伴う動きを併せて考慮することでより正確な津波の振る舞いがシミュレーション出来る事が分かった。さらに東京大学のT2Kマシン上でMPIによる並列プログラムの実装と性能測定を行い、その中で3Dモデルに起因するデータ転送が大量に発生し、並列化効率が悪化する状況が生じた。また、海表面、海底面でのそれぞれの層の性質の違い(気体、液体、固体)から境界条件のデータ交換に起因するロードバランスの悪化も発生し、計算モデルの中での領域分割の仕方に工夫が必要であった。その結果、3Dパーティションから2Dパーティションに変更することで、データ交換の量を減らし、長いベクトル長での計算を行うことによってロードバランスを改善し、並列化効率の向上に寄与したことを説明した。
しかしここでベースとなったプログラムが地球シミュレータに併せて最適化が行われていたため、地球シミュレータと京コンピュータとのアーキテクチャの相違から、特にメモリ性能の問題が発生した。京コンピュータはスカラ型プロセッサのためByte/Flops値が0.5と小さく、ベクトル型プロセッサの地球シミュレータと比較しても1/8程度であるため、必然的にプログラミング上でByte/Flopsを改善する必要があった。そのため、アルゴリズムの見直しを行い、メモリ参照量を減らし、併せて計算量を増やす事でメモリ性能に起因する性能低下を回避するチューニングを行った。その結果、オリジナルのアルゴリズムから2.67倍の性能向上を果たしたとのことだった。
さらにコンパイラレベルでのループの最適化や、各アルゴリズムでのByte/Flops値の見直し、レジスタ利用の最適化等を行った結果、最終的に京コンピュータ上の82,944CPUを用いて2.0Petaflopsの性能を得るに至り、地球シミュレータでの結果(1,280CPUで0.05Petaflops)の20倍であったとの事だった。
このプログラムを利用して、将来発生が懸念されているM8以上と予想される南海トラフ地震についてもシミュレーションを行った結果を示した。南海トラフ地震は、100〜150年のサイクルで発生を繰り返していて、南海および東南海で連動した巨大地震を発生させている歴史がある。これシミュレーションによって津波および地震動による被害想定が予想以上に深刻であることが予測され、地震予知よりも地震災害に備えたHPCIを活用した予防システムが重要であることが訴えられていた。また、このシミュレーション結果を基に大規模振動台等で実際の地震動を再現し、どのような災害が発生し、そのためにどのような建物構造等が求められるか研究が進められていることも紹介された。さらに日本沿岸にさらに高密度に津波センサーを設置しネットワーク化することでより迅速かつ正確に津波の発生状況をモニタリングし、今回のシミュレーション技術と避難誘導システムを併せてリアルタイムな津波アラートシステムの開発が求められている事も強調した。
これらの事から、今後リアルタイム津波アラートシステムの実現には、現在の100倍以上のシミュレーション速度が求められ、エクサスケールクラスのスーパーコンピュータの開発が期待されると共に、そのためにはハードウェアとソフトウェアの協調開発による「Co-Design」が重要であることを訴えてプレゼンテーションを締めくくった。