世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


11月 15, 2018

TOP500以外で見ることができる日本の底力

HPCwire Japan

スーパーコンピュータの性能を示す指標はTOP500で使われるLINPACKだけではない。逆にLINPACKは実際の性能を示していないとも言われており、ひとつの指標だけでスーパーコンピュータの性能を表すのは難しい。

今回TOP500の発表と同時に3つの指標、Green500、HPCG、Graph500もリストが発表された。

Green500

TOP500とともに電力効率を競うGreen500は、TOP500に掲載されたシステムの中で電力効率が競われ、Green500だけのためにノミネートすることはできない。ここで競われる値は電力効率で1ワット当たりどの程度の性能が出るかという指標だ。現在の最高はShoubu system Bで17.604 GFlops/wattとなっている。現在開発が進められているエクサスケールの場合、どの国おいても設置するセンターの電力容量は最大でも20~40MW程度であることを考えると、エクサスケールを達成するには25~50 Gflops/watt程度にならないと達成できないということだ。

 
   Green500での表彰

この電力効率の指標では日本が首位だけでなく、トップ10に4システムも入れている。それだけでも日本の電力効率に掛ける意識が高いことが伺える。また今回のGreen500ではTOP500のトップ10に入るシステムが3システム、Summit、Sierra、そして日本のABCIが入っている。これは単に電力効率を求めた実験的なシステムでなく、実用としてる使える技術を持っているということになる。

すでにご存じかも知れないが、前回のGreen500ではトップ3を日本が独占し、トップ10中に6台の日本のシステムがあった。ところが前回2位と3位のExaScaler社のシステムがTOP500から外れたことに伴い、他のシステムが順位を上げる結果となった。

順位

前回

順位

TOP500

順位

システム名

国名

効率

Gflops/Watt

1

1

374

Shoubu system B

日本

17.604

2

4

373

DGX Saturn V

アメリカ

15.113

3

6

1

Summit

アメリカ

14.668

4

5

7

ABCI

日本

14.423

5

7

22

TSUBAME 3.0

日本

13.704

6

2

Sierra

アメリカ

12.723

7

8

444

AIST AI Cloud

日本

12.681

8

9

409

MareNostrum P9 CTE

スペイン

11.865

9

38

Advanced Computing System(PreE)

中国

11.382

10

20

Taiwania 2

台湾

11.285

 

HPCG

HPCGベンチマークはTOP500で使われるLINPACKベンチマークを置き換える指標として作成されたが、なかなかLINPACKを置き換える程には至っていない。High Performance Conjugate Gradient (HPCG)は共役勾配法と呼ばれる実際にアプリケーションで使われることが多い解法の演算速度を表す指標であるとしている。HPCGのランキングは昨年11月から公開されている。

トップ10のリストを見ても分かるように前回と全く順位が変わっていない。ここで素晴らしいのは7年前にインストールされた京コンピュータが3位に入っていることだ。恐らくこれ程古いシステムが上位に入るのは難しく、TOP500の記者会見においてJack Dongarraが賞賛している。

順位

前回

順位

TOP500

順位

システム名

国名

HPCG

Tflops

1

1

1

Summit

アメリカ

2925.75

2

2

2

Sierra

アメリカ

1795.67

3

3

18

K computer

日本

602.74

4

4

6

Trinity

アメリカ

546.12

5

5

7

ABCI

日本

508.85

6

6

5

Piz Daint

スイス

496.98

7

7

3

Sunway TaihuLight

中国

480.85

8

8

13

Nurion

韓国

391.45

9

9

14

Oakforest-PACS

日本

385.48

10

10

12

Cori

アメリカ

355.44

 

Graph500

Graph500はTOP500のように連立方程式を解くのと違い、経路探索のような最適解を探索する計算だ。いろいろな経路を如何に高速に演算できるかを競うことになる。科学技術計算というよりは実際の社会現象を解析することに利用する技術である。

Graph500では引き続き京コンピュータが首位を取っている。HPCGと同じく2011年にインストールされてから7年経過したシステムが今でも首位を取れることは素晴らしい。Graph500はあまりTOP500の順位とは関係なく、TOP500にエントリがないシステムでもトップ10に入っている。

因みにGraph500とは言うが今年のエントリは248エントリしかなかった。内アメリカは112エントリ、日本は60エントリ、中国は11エントリと関心は主にアメリカと日本だけで、中国は関心がないようだ。

順位

前回

順位

TOP500

順位

システム名

国名

GTEPS

1

1

18

K computer

日本

38621.4

2

2

3

Sunway TaihuLight

中国

23755.7

3

3

10

Sequoia

アメリカ

23751

4

4

21

Mira

アメリカ

14982

5

8

SuperMUC-NG

ドイツ

6279.47

6

5

JUQUEEN

ドイツ

5848

7

6

 

ALCF Mira Partial

アメリカ

4212

8

8

Fermi

イタリア

2567

9

12

Cori

アメリカ

2562.16

10

9

ALCF Mira Partial

アメリカ

2348

 

以上のように他のベンチマーク指標では日本のシステムが貢献していることが分かるだろう。

さて、話は逸れるが何故TOP500のように数字が500なのかご存じだろうか?今回丁度ランチの際に目の前にTOP500のオーガナイザーの一人であるErich Strohmaierがいたので訊ねてみた。彼も定かではないがと言いながら、Hans Meuer達がTOP500を立ち上げた1994年頃に、スパコンと言われるのはほぼベクトルマシンだった訳だが、当時世界にあるベクトルマシンが大体500台だったことから、500にしたそうだ。もうそろそろ変えても良さそうではあるが・・・(筆者)

(アイキャッチ画像: 理研が獲得したGreen500の1位の賞状  画像提供:理化学研究所)