世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


9月 29, 2014

NEC、新型ベクトルスーパーコンピュータ「SX-ACE」で研究者を支援

HPCwire Japan

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スーパーコンピュータは研究のツールであり、研究者にとって使いやすく高性能であることが重要である。これがNECのスーパーコンピュータ開発における理念である。

NECは2013年11月、10世代目のSXベクトルスーパーコンピュータである「SX-ACE」を発表した。同社のベクトル型スーパーコンピュータSX-9の後継機となるSX-ACEは、SX-9同様に航空機設計等に用いられる流体シミュレーション、防災・減災のための気象や地震などのシミュレーションを簡単、かつ超高速に処理することをターゲットとして開発されたスーパーコンピュータである。国内では既に東北大学、大阪大学、国立環境研究所、海外ではドイツのシュツットガルト大学、キール大学などへの導入が決定している。

近年、スーパーコンピュータの世界はインテル社Xeonプロセッサや、DDR3メモリなどのコモディティパーツを組合わせたPCクラスタ型と呼ばれるスカラ型スーパーコンピュータが主流となっている。さらに、高演算性能を追求したNvidia社GPGPUや、インテル社XeonPhiなどのアクセラレータ型製品の躍進が著しい。また、超大型スーパーコンピュータとして京コンピュータ、およびIBMのBlue Gene/Qが日米それぞれの国家プロジェクトによりスカラ型のスーパーコンピュータ専用機として開発されている。LINPACKベンチマークにより世界一のスーパーコンピュータを決するTOP500のランキングにおいては、現在コモディティパーツを利用したPCクラスタ型、およびアクセラレータ型、さらに専用開発されたスカラ型スーパーコンピュータが主流という状況である。

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TOP500において、最大システム性能は1年で約2倍、つまり10年で1000倍になるスピードで向上している。一方で、プロセッサのクロック周波数向上トレンドは既に鈍化しており、単一コアの演算性能向上は鈍い。このため、近年におけるLINPACK性能の向上はプロセッサ中のコア数増加、およびシステム中のコア数増加に大きく依存したものとなっている。一方で、ベンチマークではない実際の科学技術計算やシミュレーションにおいて、LINPACKのようにシステムの高い演算性能向上を享受し続けるためには、利用するコア数を増やす必要がある。しかしながら、このことが多くの研究者にとってプログラミングの難易度を飛躍的に高める原因となっている。

NECはベクトル型スーパーコンピュータSXシリーズを30年以上に亘り開発してきた。今日、ベクトル型スーパーコンピュータを開発・販売している世界唯一のメーカーである。SXシリーズの開発理念としてNECが最も大切にしているもの、それは「研究ツールとしての使いやすさ」である。一般に、研究者はシミュレーションのためにプログラミングすることが目的ではなく、シミュレーションによって得られる結果・成果が目的である。このため、NECは「プログラミングは可能な限り楽に」、「結果は可能な限り速く」を開発コンセプトとして長年開発を行ってきた。これを実現するのがNECの「ビッグコア」コンセプトである。ビッグコアとは単体の演算性能・メモリ性能が高いコアであり、同一の処理速度を得るために利用する総コア数を極限まで減らし、プログラミングを容易にする。

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一方、近年のスーパーコンピュータには「メモリウォール」と呼ばれる技術的な問題が存在している。スーパーコンピュータの演算性能向上は目覚ましい向上を遂げてきた。しかし、メモリ上に格納されている演算データをプロセッサに供給する性能であるメモリバンド幅は、演算性能に対して相対的に向上スピードが遅い。これにより、プロセッサの演算性能と、プロセッサへのデータ供給性能のバランスは悪化の一途である。これがメモリウォールである。実際の科学技術計算やシミュレーションの特性は、LINPACKベンチマークのような演算性能重視型から、STREAMベンチマークのようなメモリ性能重視型まで多様である。このため、今日のトレンドであるPCクラスタ、アクセラレータ、およびスカラ型スーパーコンピュータ専用機のような演算性能重視型設計のスーパーコンピュータでは、メモリ性能重視型処理において充分な性能が得られないことが問題となっている。

スーパーコンピュータはLINPACKベンチマークによる世界一競争のためのマシンではなく、研究者が解きたい問題・シミュレーションを超高速に処理するためのツールであるとNECは考える。これを実現するのがSXの「高メモリ性能」コンセプトである。自動車や航空機の設計に用いられる流体シミュレーションや、天気予報や気候変動予測に用いられる気象シミュレーションなどは、処理速度がメモリ性能に大きく依存する。SXシリーズは圧倒的な高メモリ性能設計により、これらメモリ性能重視型シミュレーションの超高速な処理速度を提供し、科学の発展に大きく寄与してきた。

SX-ACEにおいても、SXの設計思想であるビッグコア、高メモリ性能がSXのDNAとして継承されている。単一コア性能は世界トップクラスとなる64ギガフロップスを実現、同時に世界最高の単一コアあたりのメモリ帯域となる64ギガバイト/秒を実現している。このビッグコアを単一プロセッサに4個搭載し、プロセッサ性能256ギガフロップス、プロセッサメモリ帯域256ギガバイト/秒を実現した。さらに、SX-ACEのプロセッサはメモリ性能重視型の処理を高速化するために、メモリブースト機能を搭載している。これは、プロセッサあたり256ギガバイト/秒のメモリ性能を単一コアが全て利用できる機能である。このメモリブースト機能により、メモリ性能が処理速度の決定要因となるような場合において、より一層高速な処理を可能としている。SX-ACEのノードは単一のプロセッサにより構成され、専用開発となるファットツリートポロジ型ネットワークによりノード間が接続され大規模な演算環境を提供する。

世界で唯一、ベクトル型スーパーコンピュータを開発・販売するNEC。メモリ性能重視型のSXシリーズだけではなく、顧客ニーズに合わせた最適なスーパーコンピュータソリューションを提供するため、演算性能重視型のPCクラスタ型/アクセラレータ型であるLXシリーズを同時に提供している。また、NECはあらゆる高速計算ニーズに幅広く応えるために、SX/LX二つのシステムをハイブリッドシステムとして統合したソリューションを提供している。このように、NECは科学技術の発展のために、最先端研究ツールとしてのスーパーコンピュータソリューションを提供し続けている。