TOP500 トレンド 国別対抗スパコン合戦
今回のTOP500の結果は日本の躍進を示す結果となりました。では他の国はどのような状況でしょうか?以前も国別のデータ比較を行い、馬鹿馬鹿しいと言われるとは思いますが、今回もやってみたいと思います。もちろんアメリカが断トツであることに間違いありません。アメリカ以外の国との比較で日本の姿を見てみましょう。

国別エントリ数
国名 | 今回エントリ数 | 前回エントリ数 |
アメリカ | 233 | 231 |
日本 | 39 | 32 |
中国 | 37 | 61 |
ドイツ | 37 | 26 |
イギリス | 31 | 30 |
フランス | 27 | 30 |
インド | 11 | 9 |
韓国 | 9 | 9 |
ロシア | 8 | 9 |
ポーランド | 7 | 2 |
サウジアラビア | 7 | 4 |
オーストラリア | 6 | 9 |
ブラジル | 6 | 4 |
カナダ | 6 | 6 |
スイス | 6 | 7 |
ここで興味深いのもちろん日本の躍進でありますが、それ以上に中国の激減です。前回の61システムから37システムと実に24システムも減っています。2014年11月での中国のエントリを見ればこれが何故か分かります。2014年11月時点での中国のシステム61システム中、実行性能で200TFLOPS以下のシステムが何と45システムもあるのです。また今回のTOP500の最低ラインである実行性能165TFLOPS以下のシステムでは29システムもあり、それがすべてリストから外れたために激減したことが分かります。恐らく次の11月の時点ではさらに減ることが予想されます。
またドイツも日本以上にエントリ数を増やしており前回から11システムの増加です。増えたシステムは21位のLRZ SuperMUC Phase2を筆頭にほとんどアカデミックのシステムです。さらに新興国もスーパーコンピュータに力を入れているようです。インドは2システムの増加で、特にポーランドは5システムも増やしています。ポーランドの場合、新たに加わったシステムはアカデミック系でトップシステムが52位にエントリし、100位台に3システム追加されています。ポーランドは東欧の中でもHPCには以前から力を注いでおり、グリッド系では特に有名です。
ペタフロップスマシン
今回のTOP500中、ピーク性能がペタフロップスのマシンは全体で100システムでした。前回は74システムでしたので、26システム増えたことになります。以下に国毎のペタフロップスマシンの保有台数を示します。
国名 | 保有台数 | 前回 |
アメリカ | 38 | 28 |
日本 | 13 | 6 |
ドイツ | 11 | 8 |
中国 | 8 | 7 |
イギリス | 5 | 5 |
フランス | 5 | 5 |
サウジアラビア(+2)、イタリア(+1)、オーストラリア(-1) | 各3 | 国名横の()内に増減を示す |
スイス、ロシア | 各2 | |
スウェーデン、スペイン、ポーランド(+1)、オランダ、インド(+1)、フィンランド、チェコ(+1) | 各1 | |
合計 | 100 | 74 |
アメリカはペタフロップスマシンを10システムも増やしています。12位のPGS社のCrayシステム、13位の政府系Crayシステム、16位のERDCのSGIシステム、19位空軍のSGIシステムなどです。特にアメリカの場合、民間系のペタフロップスが8システムもあります。
中国も1台増えています。民間であるHuaweiのシステムです。まだまだペタフロップスマシンは上位のシステムであるにも関わらずオーストラリアは1台減っています。前回327位にあったC01NのSukuriputo OkaneというSGIシステムです。実はこのシステム、ピーク性能は1.3PFLOPSあるのですが、実行性能は192TFLOPSしか出ていません。192TFLOPSあればTOP500に残るはずなのですが、リストから消えたところを見ると何かあったのでしょう。
コア数
国名 | 全体コア数 | 伸び率 | アクセラレータコア数 | 伸び率 |
アメリカ | 10,836,059
(10,049,106) |
+7.8% | 1,350,127
(1,232,560) |
+9.5% |
中国 | 4,630,616
(5,299,736) |
-12.6% | 3,119,148
(3,119,148) |
±0% |
日本 | 3,245,742
(1,945,550) |
+66.8% | 1,667,642
(609,694) |
+173.5% |
ドイツ | 1,496,948
(1,304,372) |
+14.8% | 64,072
(43,672) |
+46.7% |
イギリス | 986,520
(986,080) |
±0% | 12,400
(12,656) |
-2.0% |
フランス | 877,212
(900,400) |
-2.6% | 3,640
(9,100) |
-60.0% |
サウジアラビア | 453,776
(169,232) |
+168.1% | 33,600
(33,600) |
±0% |
オーストラリア | 436,507
(395,283) |
+10.4% | 175,851
(157,635) |
+11.6% |
ロシア | 226,302
(251,502) |
-10.0% | 116,690
(116,690) |
±0% |
全体 | 25,223,048
(23,144,173) |
+9.0% | 6,848,258
(5,520,383) |
+24.1% |
コア数を見る意味が何かと言うと、その国の取り組み方が少し見えて来るかもしれませんが、あまり意味はありません。やはり日本の伸びが今回は突出しています。特にアクセラレータ約3倍で、100万コア以上増えています。この原因はPEZY Computing社のシステムです。新たに162位に入った理研和光のShoubuはアクセラレータが786,432コア、また392位に入ったKEKのSuiren Blueが262,144コアで、この2台で増加分のほとんどとなります。
システム性能
国名 | ピーク性能GFLOPS | 伸び率 | 実行性能GFLOPS | 伸び率 | 平均実行効率 |
アメリカ | 230,938,169
(195,094,995) |
+18.4% | 161,268,343
(136,696,802) |
+18.0% | 69.8%
(70.1%) |
中国 | 86,277,350
(99,712,562) |
-13.5% | 49,567,686
(52,105,183) |
-4.9% | 57.5% (52.3%) |
日本 | 43,506,246
(32,541,972) |
+33.7% | 33,696,616
(25,027,460) |
+34.6% | 77.5% (76.9%) |
ドイツ | 34,164,253
(25,420,880) |
+34.4% | 26,697,524
(20,090,183) |
+32.9% | 78.1% (79.0%) |
イギリス | 19,951,947
(19,811,567) |
+0.7% | 15,802,333
(15,366,533) |
+2.8% | 79.2% (77.6%) |
フランス | 16,571,710
(17,081,688) |
-3.0% | 13,872,718
(14,120,724) |
-1.8% | 83.7% (82.7%) |
サウジアラビア | 13,249,526
(2,744,515) |
+382.8% | 9,979,864
(1,981,894) |
+403.6% | 75.3% (72.2%) |
スイス | 10,869,832
(11,105,800) |
-2.1% | 8,631,418
(8,904,372) |
-3.0% | 79.4% (80.2%) |
全体 | 514,365,615
(453,502,503) |
+13.4% | 363,316,936
(308,850,512) |
+17.6% | 70.6% (68.1%) |
驚くのはサウジアラビアの増え方です。実に5倍の増加です。もちろん要因のひとつは今回7位に入ったKAUSTのShaheen IIです。また今回新たに28位に入ったSaudi ARAMCOのMakman-2も性能が高く、この2台の合計でピーク性能が10PFLOPS以上あります。
ドイツは日本と同じくらいの比率で性能を伸ばしています。これは新たにペタフロップスマシンが3台増えたことが要因です。21位のLRZ SuperMUC Phase 2、56位DKRZのMistral、66位ドレスデン工科大学のTaurusの3台です。この3台のピーク性能合計は約6.5PFLOPSで、今回増加分である約9PFLOPSの7割をカバーしています。
また、日本はアメリカ、中国よりも高い平均実行効率を達成しています。
実行効率トップ10
順位 | 国名 | 機関名 | システム | メーカー | TOP500順位 | 実行効率 |
1 | アメリカ | Texas A&M大学 | Ada | IBM | 198 | 99.8% |
2 | ブラジル | SENAI CIMATEC | CIMATEC Yemoja | SGI | 167 | 98.2% |
3 | ドイツ | エアランゲン大学 | Emmy | NEC | 407 | 97.1% |
4 | 日本 | 統計数理研究所 | システムI | SGI | 374 | 97.0% |
5 | アメリカ | IBM | IBM | 396 | 96.7% | |
6 | アメリカ | IBM | IBM | 397 | 96.7% | |
7 | フランス | IBM | IBM | 398 | 96.7% | |
8 | アメリカ | IBM | IBM | 399 | 96.7% | |
9 | イギリス | AWE | Spruce A | SGI | 74 | 96.1% |
10 | イギリス | AWE | Spruce B | SGI | 91 | 96.1% |
実行効率は日本のお家芸だったはずなのですが、日本からは統数研の1台のみがトップ10に入っています。また上記の全てのシステムがGPGPU等のアクセラレータを持たない普通のクラスタで、コア数も比較的低く上位8システムまでのコア数は1万台です。
逆に実行効率の悪いシステムを見てみると驚異的です。リストにはしませんが、ワースト3の実行効率は18%台です。コア数は4万コア以上ありますが、ネットワークはギガビットイーサネットです。同じプラットフォームでも効率に差があるので、恐らくTOP500にエントリさせるだけのために性能測定をしたのでしょう。これらのシステムは少し真面目に性能測定するだけで、倍以上の性能アップになりそうです。
以上国毎の状況を見てきました。今年の特長は何と言っても日本の活躍と中国の凋落です。これもHPCを地道にやってきた日本の活動がようやく表に出てきたものだと思います。「継続は力なり」です。