世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


5月 9, 2018

2017年スパコン政府調達、ベンダーの勝者は?

HPCwire Japan

HPCWire Japanでは政府系研究機関が実施するスーパーコンピュータシステムの調達情報を読者の皆様にお伝えしているが、さて2017年の覇者はどのベンダーだったのだろうか? 日本で活動するスーパーコンピュータベンダーの大手と言えば、富士通、日本電気、日立製作所、クレイ、SGIを吸収したHP、IBMそしてDELLがある。

世界的な市場に目を向けると、米国Hyperion Research社の調べでは2016年のベンダーシェアは以下のようにHPがダントツで1位である。その後にDELLが続き、IBMのサーバ部門を吸収したLenovo、そしてIBM、その後にクレイが続き、富士通は7位、日本電気は9位となっているのが現状である。

(米国Hyperion Research社調べ)

さて日本の場合はどうなっているだろうか?HPCの民間市場は調査がまだ行き届いていないためデータが無いが、政府系の調達は公開が原則であるために把握することが可能だ。今回、2017年中に開札が行われた政府調達でのスーパーコンピュータ案件について集計してみた。取得したデータの条件は次のとおり。

・2017年1月から12月の間に開札もしくは随意契約が実施され、落札情報が公開されている案件(借入期間の延長は含まない)
・政府調達手続きの中でスーパーコンピュータ導入手続きを実施した案件

以上の案件で17件が存在した。実際にはスパコンと言えるシステムはその数倍規模で導入されていると考えられる。しかし政府が示す性能スペック(50TFLOPS以上)に満たないシステムであったり、50TFLOPS以上であっても特殊装置として導入される場合にはスパコン調達とはならないため把握が難しいのだ。

さて今回、各調達案件毎の売上規模を比べるのに借入案件と購入案件について、計算方法は次のような条件とした。
・借入案件については月額料金に借入予定期間の月数を掛けた金額。これにはシステム価格と保守料金が含まれている。
・購入案件については落札金額。これには次年度以降の保守料金が含まれていない。

一方には保守料金が含まれており、もう一方には保守料金が含まれていないが、単純に売上総額を計算することとした。

以下が2017年の政府系スパコン調達のベンダー別売上と案件数である。

順位 ベンダー 売上総額(円) j受注件数
1 富士通 16,340,702,000 6
2 HP(SGI) 4,488,865,600 3
3 日立製作所 4,347,560,000 2
4 日本電気 3,153,540,000 3
5 クレイ 1,505,200,000 1
6 その他 291,771,667 2
合計 30,127,639,267 17

 

全体としては総額で約301億円の調達があった。1システムあたり平均 約18億円となっている。首位はダントツの富士通で売上総額は約163億円で全体シェアの54%と半分以上を占めている。2位はHPで約45億円でシェアは15%、3位は日立で約43億円でシェアは14%。続いて日本電気は約32億円でシェアは11%、クレイは15億円でシェアは5%となっている。

2017年政府系スパコン調達ベンダー売上

富士通はもちろん政府のポスト京スーパーコンピュータを開発する主体としてその基盤を確固なものにしてきている。富士通が受注した6案件中で一番売上が大きかったのは九州大学であった。総額で55億円と推定される。もちろんこれには5年間の保守料金も含まれている。純粋なシステム売上として大きかったのは産業技術総合研究所のABCIのシステムで46億円であった。富士通はこの他に東北大学流体科学研究所、国立天文台、理化学研究所のAIスパコンなどを受注した。

2位のHP(SGI)は東京工業大学のTSUBAMEシステムを受注したのが大きかった。これで約35億円だ。この他に東京大学の情報基盤センターと物性研究所から受注している。

3位の日体製作所はすでにスパコンは製造していないが、インテグレーターとして最近は活躍している。最近特に興味深かったのは日立製作所とクレイとの共同販売による気象庁へのスパコン導入であった。元々の強豪同士が手を組むことになったのだ。日立は以前より東北大学に非常に強く、今回の受注した2件とも東北大学であった。昔から日立の牙城である金属材料研究所と創立から食い込んでいる東北メディカル・バンクのシステムである。金材研のシステムは30億円、メディカルバンクのシステムは約13億円であった。

日本電気は惜しくも4位となった。今回はあまり大物のシステムは無かったが、業界を驚かせたのは分子研の受注だ。ここはまさか日本電気が取るとは誰も考えていなかったようだ。他には大阪大学などを受注している。

クレイは1件だけの受注で国立天文台のシステムだ。こちらが約15億円となっている。

以上、2017年の政府系スパコン調達のベンダー別勝敗を紹介した。2018年も各ベンダーの動向が注目される。