世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


12月 16, 2013

TOP500トレンド 2013年11月

HPCwire Japan

11月にTOP500が発表されて少し時間が経過したがさらなる解析をしてみよう。

TOP10のシステムについて6月との比較を表1に示す。

大きな変化はないが、スイスのPiz Daintが6位に浮上してきた。このシステムは前回42位であったが相当なシステム増強をしたことにより、6位に浮上してきた。その他については変化はなく、TOP10においてはIBM BlueGene/Qが4システムで前回と変わらず、アクセラレータ利用は4システム(Phi:2、NVIDIA:2)でこれも前回と変わっていない。

順位    2013年6月発表    2013年11月発表
1 Tianhe-2
NUDT/NUDT
中国 33,862,700 Tianhe-2
NUDT/NUDT
中国 33,862,700
2 Titan
ORNL/Cray XK7
アメリカ 17,590,000 Titan
ORNL/Cray XK7
アメリカ 17,590,000
3 Sequoia
LLNL/IBM BGQ
アメリカ 17,173,224 Sequoia
LLNL/IBM BGQ
アメリカ 17,173,224
4 K Computer
RIKEN/Fujitsu
日本 10,510,000 K Computer
RIKEN/Fujitsu
日本 10,510,000
5 Mira
ANL/IBM BGQ
アメリカ 8,586,612 Mira
ANL/IBM BGQ
アメリカ 8,586,612
6 Stampede
TACC/DELL
アメリカ 5,168,110 Piz Daint
CSCS/Cray XC30
スイス 6,271,000
7 JUQUEEN
FZJ/IBM BGQ
 ドイツ  5,008,857 Stampede
TACC/DELL
アメリカ 5,168,110
8 Vulcan
LLNL/IBM BGQ
 アメリカ 4,293,306 JUQUEEN
FZJ/IBM BGQ
 ドイツ  5,008,857
9 SuperMUC
LRZ/IBM iDataplex
ドイツ 2,897,000  Vulcan
LLNL/IBM BGQ
アメリカ  4,293,306
10 Tianhe-1A
NSCT/NUDT
中国 2,565,000  SuperMUC
LRZ/IBM iDataplex
ドイツ  2,897,000

表1 TOP10前回との比較

TOP500全体としては理論最大性能がペタフロップスとなったのは前回の33システムから40システムに増加しており、着実にペタフロップス・マシンが普及している事が見える。今回ペタフロップスとなった7システムは、スイス:Piz Daint(6位)、アメリカ:Cascase(13位)、イギリス:Archer(19位)、アメリカ:Garnet(25位)、ドイツ:Max-Planck(31位)、日本:九大(36位)、アメリカ:RPI(38位)

アクセラレータを利用したシステムは53システムあり、全体の約1割となっている。(前回54システム)内訳は、AMD:2、Xeon Phi:12、NVIDIA:37、Phi&Nvidia:2

TOP500においては、毎回新たな高性能なシステムの出現により、既存システムは毎回ランクを落としたり、リストから消滅していく。今回新たにリストに掲載されたシステムは127システムあり、全体の約四分の一が入れ替わった事になる。その中でもランクを上げるシステムも存在している。今回ランクアップしたシステムは22システム存在した。ランクアップした上位システムは次のようなものがある。

システム 国名 今回順位 前回順位
Piz Daint スイス 6 42
TSUBAME 日本 11 21
Pleiades アメリカ 16 19
Garnet アメリカ 25 88
RPI アメリカ 38 76
Endevaor アメリカ 43 71
Triolith スウェーデン 79 96
Palmetto2 アメリカ 81 115
Airain フランス 96 192
Tomado ロシア 127 249

表2 今回ランクアップした主なシステム

最後にTOP500リストに入る最低ラインはRmaxで118 TFLOPS必要だった。(前回97 TFLOPS)

 

============================

日本のスパコン

============================

さて、日本の状況はどうだろうか?表3にTOP500中の日本のスパコンを示す。

順位 前回順位 機関名 システム アクセラレータ 性能GFLOPS
4 4 理化学研究所 K Computer  10,510,000
11 21 東京工業大学 TSUBAME 2.5  NVIDIA K20x 2,843,000
24 20 IFERC Helios 1,237,000
30 26 東京大学 Oakleaf-FX 1,043,000
36 新規 九州大学 HA8000-tc NVIDIA K20/K20x+ Xeon Phi 905,370
54 47 電力中央研究所 SGI ICE X 582,100
57 50 KEK SAKURA 536,633
58 51 KEK HIMAWARI 536,633
73 62 筑波大学 HA-PACS NVIDIA 2090 421,600
74 63 国立天文台 Aterui 420,400
108 新規 名古屋大学 PRIMERGY CX400 Xeon Phi 317,900
134 新規 筑波大学 HA-PACS TCA NVIDIA K20x 277,100
152 118 核融合研 Plasma Simulator 253,000
155 121 京都大学 Camphor 251,700
162 124 東北大学金属研  SR16000 243,900
168 129 分子研 PRIMERGY CX250 237,900
178 138 通信会社 HP DL160 227,236
211 162 原研 BX900 191,400
229 178 IT企業 HP B460c 186,782
264 208 九州大学 FX10 166,700
272 213 東京大学物性研  SGI ICE 8400EX 161,800
311 新規 東京工業大学 TSUBAME-KFC  NVIDIA K20x 150,400
364 274 電力会社 IBM iDataPlex 139,255
378 283 京都大学 Laurel 135,400
443 319 通信会社 HP DL360p 126,446
459 335 金融企業 IBM xSeries 125,503
472 342 海洋研 Earth Simulator 122,400
476 345 北海道大学 SR16000 121,600

表3 TOP500中の日本のスパコン順位

今回の日本のエントリ数は前回の30から28に減少した。内訳は新規システムが4、リストから消えたシステムが6システムだ。新規のシステムでは、九州大学のHA8000-tcが本年11月より稼働、名古屋大学にはHPCI用に設置された552ノードシステムが設置されている。また筑波大学では同大学が進めているスパコン開発のプロトタイプがランクインした。東京工業大学のTSUBAME-KFCはコンテナ型の省電力システムで、GREEN500で首位のシステムだ。前回から消えた6システムは、九州大学のCX400システム(まだ運用中のようだが・・・)、JAXA FX1、JAIST Cray、東大T2K、東大医科研HA8000、理研RICCであった。

 

 

============================

国別対抗ランキング

============================

TOP500リストの各値を国別に集計してみると、その国のスパコンの傾向が見えてくる事がある。国としてスパコンに力を入れると、やはりそれは数字として現れる。何が見えてくるかは各回で異なるのだが、さて今回は何が見えてくるだろう。

 

国別エントリ数

===========

国名 今回エントリ数 前回エントリ数
アメリカ 264↑ 252
中国 63↓ 66
日本 28↓ 30
イギリス 23↓ 29
フランス 22↓ 23
ドイツ 20↑ 19
インド 12↑ 11
カナダ 10↑ 9

エントリ数のランキングは相変わらずアメリカー中国ー日本の順位であり、ヨーロッパは全体としてかなりのエントリを持っている事がわかるだろう。その中でインドが少しずつではあるが着実にエントリ数を増やしているようだ。今回エントリ数が増加した国は、アメリカ+12、カナダ+1、ドイツ+1、香港+1、インド+1、アイルランド+2、韓国+1、オランダ+1、スイス+1。逆に減少した国は、イギリス-6、中国-3、ロシア-3、日本-2、スウェーデン-2、フランス-1、イタリア-1、ポーランド-1、サウジアラビア-1、スペイン-1。

 

コア数

===========

国名 Core数(前回値) 伸び率 Acclerator
Core数(前回値)
伸び率
アメリカ  9,837,537
(9,058,352)
 +8.6%
(+10.5%)
1,072,792
(884,351)
+21.3%
(+23.9%)
中国  4,925,804
(4,818,068)
+2.2%
(+200.2%)
2,978,392
(2,944,428)
+1.2%
(+1325.7%)
日本  1,558,880
(1,386,354)
+12.4%
(-0.2%)
247,800
(76,978)
+222.0%
(+4.5%)
ドイツ  1,033,252

(939,626)

+10.0%
(+7.4%)
9,240
(5,768)
+60.2%
(0%)
フランス  720,416
(722,376)
-0.3%
(+16.4%)
9,100
(9,380)
-3.0%
(0%)
イギリス 627,120
(639,312)
-1.9%
(+12.7%)
3,584
(5,952)
-39.8%
(0%)
全体 20,720,693
(19,346,396)
+7.1%
(+30.0%)
4,585,300
(4,131,481)
+11.0%
(+248.5%)

 

前回は中国のTianhe-2の登場により、コア数は全体的に驚異的な伸びを示したが、今回は通常通りの平均した伸び率となったようだ。Tianhe-2のため、相変わらずアクセラレータのコア数では中国が断トツで1位である。日本は前回若干コア数が減少したが今回はコア数、アクセラレータコア数共に平均よりも伸びている。

その中イギリスのアクセラレータが減少しているが、これは単にシステムが入れ替わり以前のアクセラレータ搭載システムがエントリから消滅し、新たにアクセラレータを搭載したシステムがエントリしたために単にコア数が減少しただけだ。

 

システム性能

===========

国名 Rpeak GFLOPS
(前回値)
伸び率 Rmax GFLOPS
(前回値)
伸び率 実行効率
アメリカ 169,500,200
(152,700,502)
+11.0%
(+18.3%)
118,261,596
(106,833,638)
+10.7%
(+20.0%)
69.8%
(70.0%)
中国 89,432,561
(85,176,357)
*5.0%
(+274.3%)
48,549,093
(47,485,018)
+2.2%
(+284.5%)
54.3%
(55.7%)
日本 28,925,862
(24,500,641)
+18.0%
(+4.9%)
22,472,218
(20,307,189)
+10.7%
(+4.4%)
77.7%
(82.9%)
ドイツ 16,426,807
(13,521,056)
+21.5%
(+9.0%)
13,696,834
(11,351,754)
+20.7%
(+11.5%)
83.4%
(84.0%)
フランス 11,228,571
(10,880,921)
+3.2%
(+37.9%)
9,489,912
(8,938,486)
+6.2%
(+394.%)
84.5%
(82.1%)
イギリス 11,380,215
(11,031,508)
+3.2%
(+17.4%)
9,058,329
(8,082,237)
+12.1%
(+11.3%)
79.6%
(73.3%)
全体 364,558,528
(325,851,464)
+11.9%
(+42.1%)
250,080,467
(223,654,338)
+11.8%
(+37.9%)
68.6%
(68.6%)

 

性能に関してもコア数同様に前回中国のTianhe-2の登場によって飛躍的に全体性能が増加したが、今回は理論性能で+11.9%、実行性能で+11.8%と落ち着いた伸びとなっている。

性能全体では理論性能で現在364 PFLOPSであり、 1EXA-FLOPSまではまだ時間がかかりそうだ。右欄に平均実行効率を示した。アクセラレータ付きが多いと基本的に実行効率は下がる。今回日本はアクセラレータを付加したシステムが増えたために実行効率も落ちている。

 

実行効率トップ10

==============

今回の500システム中で実行効率が高かった上位10システムは次の通り。

順位 機関名 システム TOP500順位 実行効率
1 ドイツ Universitaet Eriangen Emmy – NEC LX2400 210 97.1%
2 アメリカ SGI SGI ICE X 387 96.6%
3 日本 原研 BX900 211 95.7%
4 ドイツ T-Systems CASE-2 SGI ICE X 159 95.3%
5 アイルランド Irish Centre for High-End Computing Fionn – SGI ICE X 358 95.2%
6 ドイツ Universitaet Paderborn OCuLUS 224 94.5%
7 アメリカ TOTAL Laure – SGI ICE X 140 94.5%
8 日本 海洋研 Earth Simulator 472 93.4%
9 日本 理研 K Computer 4 93.2%
10 イタリア Centro Euro IBM iDataPlex 316 93.1%

 

このリストから言える事は実行効率ではアメリカが独占しているという訳ではないということだ。もちろん中国も入っていない。首位はドイツのシステムだが、NEC社製だ。またTOP500上位のシステムはK computerしか入っていない。しかも日本製は4システムも10位 内に入っている。これは日本がいかにシステムの設計の技術力の高いかを伺える。もちろんSGI ICE Xも10位内に4システム入っている。

 

以上、今回のTOP500の状況を分析してみた。来年にはTOP500のベンチマークにHPCGと呼ばれる方法も導入され、LINPACKとHPCGの2つのリストが出てくる予定だ。次回2014年6月がどうなるか楽しみだ。