世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


11月 13, 2018

TOP500 2018年11月版発表 ABCIは5位から7位に

HPCwire Japan

編集者注:

本記事リリース時に誤った情報がありました。訂正してお詫び申し上げます。関係者の皆様には大変ご迷惑をお掛けしました。

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TOP500の今年2回目のリストが発表された。早速状況を見てみよう。

TOP10の状況

今回の大きな特徴のひとつはアメリカがかなり頑張ったことだ。前回首位を奪還したアメリカは、今回2位も奪還することに成功した。それもアメリカの場合、1位のSummit、2位のSierra、6位のTrinityの3台がシステムを増強している。例えば1位のSummitの場合、コア数を2,397,824個から2,282,544個と5%増強させたばかりでなく、実効性能は18%も増大させている。2位のSierraはコア数はそのままだが、実行性能を32%も大きく伸ばしている。SummitもSierraもIBM社製の同じシステム(クロックは違うが)であるので、プログラム的およびシステム的なチューニングが施されたと考えられる。6位のTrinityは面白いことにコア数は若干減少しているのに前回の9位から大きく躍進している。このシステムは唯一TOP10でIntel Phiを搭載したマシンだ。

次に目立つのはスイスのPiz Daintだ。Piz Daintは今回システムを増強し、コア数を361,760個から387,872個と約7%増大させ、実行性能を約8%増大させ順位を6位から5位に上げることに成功した。

最後に1台の新しいシステムがTOP10に入った。ドイツのSuperMUC-NG(記事参照)である。このシステムはドイツに最近導入されたドイツ最強のシステムである。これにより、アメリカのCoriシステムが追い出さればかりでなく、今回11位に初めて入ったSummit、Sierraの姉妹機であるLassenのTOP10への参入が阻止されてしまうこととなった。

順位

前回

マシン名

LINPACK TFLOPS

ピーク

TFLOPS

1

1

Summit

オークリッジ国立研究所

アメリカ

144,500

200,795

2

3

Sierra

ローレンスリバモア国立研究所

アメリカ

94,640

125,712

3

2

Sunway TaihuLight

無錫スーパーコンピューティングセンター

中国

93,015

125,436

4

4

Tianhe-2A

広州スーパーコンピューティングセンター

中国

61,445

100,679

5

6

Piz Daint

スイス国立スーパーコンピューティングセンター

スイス

21,230

27,154

6

9

Trinity

ロスアラモス国立研究所

アメリカ

20,159

41,461

7

5

ABCI

産業技術総合研究所

日本

19,880

32,577

8

SuperMUC-NG

ライプニッツ研究センター

ドイツ

19,477

26,874

9

7

Titan

オークリッジ国立研究所

アメリカ

17,590

27,113

10

8

Sequoia

ローレンスリバモア国立研究所

アメリカ

17,173

20,133

 

世界の状況

さて世界的な動きはどうだろうか?まずはシステム数で見てみる。システム数では引き続き中国が圧倒している。TOP500に掲載されたシステムを所有しているのは27か国で前回と変わらず。今回も中国がシステムエントリを増やした分だけ他の国のエントリ数が減少している。

国名

システム数

()内は前回

中国

229 (206)

アメリカ

108 (124)

日本

31 (36)

イギリス

20 (22)

フランス

18 (18)

ドイツ

17 (21)

アイルランド

12 (7)

カナダ

8 (6)

イタリア、韓国、オランダ

6

オーストラリア

5

インド、ポーランド、スウェーデン

4

ロシア、サウジアラビア、シンガポール

3

南アフリカ、スペイン、スイス、台湾

2

ブラジル、チェコ、フィンランド、ニュージーランド、

ノルウェー、

1

 

次に実行性能の合計値で国を比較してみると面白いことが分かる。

国名

実行性能合計値

TFLOPS

ピーク性能合計値

TFLOPS

アメリカ

532,180

754,332

中国

439,977

809,978

日本

109,436

170,880

ドイツ

60,503

86,334

フランス

43,580

66,599

TOP500合計

1,414,043

2,211,025

 

ご覧のように中国のエントリ台数はアメリカの2倍の229システムであるが、ピーク性能の合計値ではかろうじて上回るものの、実行性能の合計値ではアメリカを下回るのである。エントリ台数1台当たりの平均実行性能を比較するとアメリカは4,928TFLOPS/システムに対して中国は1,921TFLOPS/システムと半分にも満たない。これは中国にとってTOP500に入る性能を持ったシステムではあるが、順位的には下位のシステムが多いことを意味している。

日本の状況

では日本のスパコンはどうだろうか? 今回は10台のシステムがTOP500から外れ、新たに5台が加わることとなり、前回の36システムから31システムのエントリとなった。

順位

前回

マシン名

LINPACK TFLOPS

ピーク

TFLOPS

7

5

ABCI

産業技術総合研究所

19,880

32,577

14

12

Oakforest-PACS

最先端共同HPC基盤施設

13,555

24,914

18

16

K Computer

理化学研究所

10,510

11,280

22

19

TSUBAME 3.0

東京工業大学

8,125

12,127

28

25

Cray XC/50

気象庁

5,731

9,125

29

26

Cray XC/50

気象庁

5,731

9,125

37

32

ITO Subsystem A

九州大学

4,541

6,912

56

50

SORA-MA

宇宙航空研究開発機構

3,157

3,481

60

54

Camphor 2

京都大学

3,057

5,484

63

56

PRIMEHPC FX100

名古屋大学

2,910

3,244

68

61

JFRS-1

量子科学研究開発機構

2,787

4,190

69

62

TSUBAME 2.5

東京工業大学

2,785

5,736

84

77

Plasma Simulator

核融合科学研究所

2,376

2,612

91

83

ATERUI II

国立天文台

2,090

3,072

95

Grand Chariot

北海道大学

2,000

3,054

101

89

SGI ICE X

日本原子力研究開発機構

1,929

2,410

113

93

Molecular Simulator

分子科学研究所

1,786

3,073

126

AFI-NITY

東北大学流体科学研究所

1,691

2,581

193

134

HOKUSAI BigWaterfall

理化学研究所

1,601

2,581

227

143

MN-1

NTTコミュニケーションズ

1,391

4,918

236

HPE SGI 8600

電力中央研究所

1,326

2,028

279

171

RAIDEN GPU Subsystem

1,213

3,245

292

180

Sekirei

物性研究所

1,178

1,521

340

Lenovo C1040

ソフトウェア会社

1,123

1,413

374

359

Shoubu system B

理化学研究所

1,063

1,353

408

254

QUARTETTO

九州大学

1,018

1,502

426

271

Shoubu

理化学研究所

1,001

1,534

430

275

HOKUSAI GreatWave

理化学研究所

990

1,092

431

276

PRIMEHPC FX100

気象研究所

990

1,092

444

287

AIST AI Cloud

産業技術総合研究所

961

2,149

460

HPE SGI 8600

統計数理研究所

941

1,327

 

新たに加わった5システムは、95位の北海道大学、126位に入った東北大学流体科学研究所の富士通のシステム、236位に入った電力中央研究所のHPEシステム、340位の民間企業のLenovoシステム、最後に460位に入った統計数理研究所のHPEシステムである。当初予想していた東北大学金属材料研究所のシステムはエントリされていないようだ。

今回日本のエントリで注目すべきなのは、374位に入ったShobu Subsystem Bである。前回は359位だったので、そのままいけばリストから外れる予定だが、順位を少し下げたものの、まだエントリに入る能力を持っている。このシステムは今年早々の事件で有名になってしまったExaScaler社製のシステムである。今回コア数を前回の794,400個から953,280個と1.2倍に増やして、実行性能を1.063PFLOPSと前回の1.24倍に増大させている。例の事件で活動がどうなっているのか心配されているが、この記録からまだ頑張っていることが伺われる。

以上、次のTOP500リストは来年2019年6月のISC2019で発表される予定である。