世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


7月 18, 2013

Green Flash、気候モデルのブレイクスルーか? -エクサスケールの世界へ向けて –

HPCwire Japan

Alex Woodie

横断的な領域で活動している研究者たちは、より大きな複雑なモデルを扱うことができるエクサ・スケールのシステムを欲している。それが、気候モデルや気象予測の場合、研究者たちは、新しいHPCアーキテクチャを採用することでその望みを叶えようとする。たとえば、エクサ・スケールにほぼ匹敵するGreen Flashクラスタで使われるシステムもその一つである。

Green Flashは、より詳細な気候モデルを実現させる方法を示すために特別に設計されたスーパーコンピュータである。システムには、iPhoneに搭載されているものと同様の、カスタマイズされたTensilica社製のプロセッサが使われ、データの移動をさせないコミュニケーション最少化アルゴリズムが適用されている。こういった技術により、電量消費量を抑えながら、従来よりも高い解像度で地球上の雲の動きをモデル化することができる。

高解像度の気候モデルを実現するために克服する必要がある計算性能と電力消費量の問題は、Berkeley Science Reviewの別の記事で解説されている。端的に言うと、科学者たちは、200Kmの解像度を持つ現在の気候モデルシステムを改良したがっている。1kmから2km離れた格子点で構成されるモデルがあれば、素晴らしく有用になるだろうし、より正確な気象予測結果を得ることができ、気候モデルの背景にある科学を理解することが容易になると期待しているのだ。

問題なのは、高解像度の気候モデルが要求する計算機能力は、モデル規模に比例して増えるわけではなく、幾何級数的に増えるということだ。より細かな格子を生成するメッシュだけではなく、方程式の計算精度を確保するためにはより細かな時間ステップも必要になるからである。LBL(Lawrence Berkeley National Laboratory) の研究者、マイケル・ヴェナー博士が計算したところ、200kmのモデルの時に比べて、2kmのモデルは100万倍の計算能力を必要とすることがわかった。

現実世界での数値に換算してみよう。BSR (Berkeley Science Review) の想定に基づけば、そのレベルの高解像度システムは、27ペタ・フロップス(浮動小数点計算)の実行性能と200ペタ・フロップスのピーク性能を要求する。この理論上のシステムは、これまで開発されてきたものより遥かに大きく、一つの都市全体の需要と同じ程度の50から200メガワットの電力を必要とする。電力費用にすると、毎年数百億円に相当するので、明らかに別の方策と取る必要がある。

汎用的なスーパーコンピュータを作るのではなく、ヴェナー博士とUCバークレー校の電気工学・コンピュータ工学学科、RAMP (Research Accelerator for Multiprocessors)プロジェクトの共同研究者たちが決断したのは、ハードウエアとソフトウエアを一緒に設計することができるカスタマイズ・システムの開発にトライすることである。

設計は、Green Flashと一緒に行われ、コミュニケーション最少化アルゴリズムで省電力化されたTensilica社製のプロセッサと結合させるというものだ。今のところ、“iPod スーパーコンピュータ“と呼ばれるGreen Flashは、4km格子のモデルを計算することができる。この方式を使えば、高々4メガワットで2km格子まで計算できる性能に引き上げることができると試算されている。これは、同規模のモデルを従来型スーパーコンピュータで計算させた場合の12から40倍もの省電力に相当する。

一方、このアプローチには短所もある。Green Flashは、気候モデルの仕事をするために特別設計されたので、他のタイプのHPCアプリケーションには向かない、たとえば、遺伝子や金融情報処理など。(実を言えば、このモデルと異なる他のどんな気候モデルも動かないのだが。)HopperやBSRといったLBLにあるスーパーコンピュータのような柔軟さはほとんどないと言っていいだろう。

とはいえ、一般的なアプローチを採用したときに想起されるエネルギー問題の壁を考えれば、特定のHPC問題を解くための次世代スーパーコンピュータを設計する方法としてのカスタム型アプローチは、エクサ・スケール方程式を解くために欠かせないかもしれないのだ。