Top500トレンド:トップの動きと最低の更新率
Tiffany Trader

55回目のTop500リストは、トップ10に4台もの新システムが登場し、1位のARMベースのマシンである富岳(理研/富士通)が圧倒的な成績をあげており力強い活躍を示したが、リスト全体においては更新率が記録的に低かった。
今回のリストから落ちたシステムはわずか51台であった(リストのエントリーポイントである1.23ペタフロップスを下回った)。Top500の共同著者であるErich Strohmaierによると、これは1993年のプロジェクト開始以来で最も低いリフレッシュ率であった。
Strohmaierは、ISC 2020のプログラムの一環として、月曜日にTop500セッションを開催した際に、リフレッシュ率が低下した理由として2つ挙げている。「過去5年間で、一般的にリフレッシュ率が低下してきています。なぜなら、以前より頻繁にアップグレードし、その後より大きなシステムにアップグレードすることが少なくなったからです。これは、Dennardのスケーリングダウンの効果や、進歩やチップの性能が以前よりもずっと遅かったことによるものです。」
2つ目はCOVID-19の影響であり、導入が遅れたあるいは中止されたことによります。「どのシステムがそれで、恐らくただ単に遅ればかりなのか、そうでないのか、明らかにするのは難しく、今後再び追いつくかもしれませんが、今後見て行く必要があります。ですので、リプレース率は過去最低水準なのです。」と述べた。
しかし、Strohmaierは、過去20年間に観測されたもう一つのトレンドが変わっていないと述べている。そのトレンドとは、経費の支出がハイエンドにますます偏る中で、上位のパフォーマンスの蓄積が増えていることである。
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Top500 システムの性能比率(出典: Top500) | |
Strohmaierによって提示されたこのチャートは、27年前のリスト開始以来、全500システムの平均に対するトップシステムの性能を示している。ベンチマークで415.5ペタフロップの性能を誇る新しいナンバーワンマシン「富岳」は、全体をリードしており、全体の合計パフォーマンスの過去最高である18.7%を占めた。
その結果として、性能の合計値で日本は第3位(23.7%)となり、中国(25.5%)に少し遅れるまで押し上げたのだ。米国は28.7%で首位を維持している。富士通は、システム・シェアで2.6%しか占めていないが、性能合計値ではLenovo (16%)やIBM (16%)よりも高い、21.5%のシェアを占めている。
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2020年6月チップアーキテクチャ別上位100リサーチ・システム-パフォーマンスシェア合計(出典: Top500) | |
ほんの一年半前にリストに入ったばかりのARMアーキテクチャーは、上位100のリサーチ・システムによってリストを細分化すると、現在ではPower/Nvidia(21%)とIntel(17%)よりも高く、31%のパフォーマンス・シェアで支配的になっている。
同様に、日本も上位100台のリサーチ・システムのスライスで見ると33%を占め、アメリカ(32%)と中国(12%)を突破しているのだ。
55回目のTop500リストはリフレッシュ率が記録的に低いかもしれないが、上位10位については非常に低いリフレッシュ率の長い期間を経て、ハイエンドのリフレッシュ率が再び上昇し、4台の新しいシステムとなった。6カ月前は、上位10システムに新しいマシンは存在せず、上位20システムに入った唯一の新規システムは自然減によるスライドアップだった(日本の「京」コンピュータ、ORNLの「Titan」が撤去された)。
新リストの上位10 は以下のようになっている:
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右端の列のラベルは、HPL (ペタフロップス)と消費電力(メガワット)である。富岳: 415.5ペタフロップス、28.3MW (出典: Top500、June 2020) | |
富岳。415.5ペタフロップスを搭載した新No.1機は、富士通の48コア「A64FX」SoCに搭載されている。リスト上では史上4番目のARMマシンであり、初めてナンバー1のスポットになる。実際、理化学研究所計算科学研究センターに設置されている富岳は、ハイパフォーマンス・リンパック(HPL)だけでなく、HPCG、Graph500、HPL-AIの新ベンチマークでも記録を残しており、最高評価を獲得した。富岳はGreen500においても上位に位置し、1ワットあたり14.67ギガフロップスで9位に入る。
HPC5。デル製、イタリアのエネルギー会社Eni S.p.Aに展開されている。HPC5は、35.5ペタフロップのLinpack性能を出している。これは欧州では最も速いシステムとなり、民間における最高速のスーパーコンピュータとなる。エネルギー業界のスーパーコンピュータはランキングで上昇を続けており、HPC5は上位10位に入る最初のシステムとなる。
Slene。27.58のHPLペタフロップスで7位入り込んでいる。テクノロジー業界ではあるが、もう1つの民間のスーパーコンピュータである。Nvidiaが製造しており、Seleneはハードウェア設計、モデル構築、その他のプロジェクト用のNvidiaの社内システムである。米国内に設置されており、SeleneはAmpere A100 GPUとAMD Epyc Rome CPUが搭載されたDGX SuperPODである。このシステムはGreen500で2位にランクされ、1ワットあたり20.51ギガフロップスの性能を実現した。
Marconi-100。Linpackのスコアは21.6ペタフロップスで9位に入った。CINECA研究センターに設置されたMarconiは、IBM Power9プロセッサとNvidia V100 GPUを組み合わせて、IBMによって構築された。Marconi-100は、イタリアおよびヨーロッパにおける最大のアカデミック・スーパーコンピュータであると言われている。
そして・・・5番目に最高ランクに入った新しいシステムGadiは、Linpackで9.3ペタフロップスで25位に登場した。Lenovoと提携した富士通が構築し、NCIオーストラリアに設置されたGadiは、Intel Xeon Cascade LakeプロセッサとNvidia V100 GPUによって構成されている。Gadiは南半球で最も強力なスーパーコンピュータである。
今回のリストは、上位100システムのみによってHPL性能がエクサフロップスを超えた最初にリストとなる。前回のリスト(2019年11月)では、この境界値をほぼ超えていたのだが、989ペタフロップスとわずかに届かなかった。現在、上位100システムは1.5エクサフロップスを達成しており、もちろん、これら新規に入った4システムのひとつである富岳が寄与している。上位10システムだけでは942.6ペタフロップスとなっている。
500システム合計での総合Linpackパフォーマンスは2.22エクサフロップスで、6カ月前の1.65エクサフロップから上昇した。リスト全体のLinpack効率は3ポイント以上上昇しており、6カ月前の60.0%から63.6%に上昇している。同じ期間、上位100セグメントのLinpack効率は68.1%から71.3%に上昇した。ナンバーワンのシステムである富岳は、80.87%という非常に健全な計算効率をもたらしている。
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