世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


1月 31, 2022

スーパーコンピュータによる解析で明らかになったトンガ噴火の大気中への到達度

HPCwire Japan

Oliver Peckham

フンガ・トンガ島とフンガ・ハアパイ島の火山で発生した大規模な噴火は、太平洋を揺るがした。6,000マイル離れたアラスカでも聞こえたこの爆発は、トンガで全海域に約50フィートの津波を引き起こし、巨大な灰の雲と強力な衝撃波のおかげで宇宙からも確認することができた。しかし、この火山は、目に見えない別の障害も引き起こした。それは、噴火現場から何千マイルも離れた場所に広がった大気重力波の大規模な波紋で、ドイツのユーリッヒ・スーパーコンピューティング・センターのスーパーコンピューティングによって検出された。

 
  気象衛星「ひまわり8号」が捉えたトンガの噴火。画像提供:気象庁
   

Lars Hoffmanは、Forschungszentrum Jülich(FZJ)の気候科学のシミュレーション・データ研究所(SimLab)を率いている。HPCwireのインタビューに答えて、「私たちには2つのタスクがあります。」と語った。「私たちにはサポートの仕事があります。つまり、私たちのスーパーコンピュータを使って、気候コードや数値気象予測コードを実行したい人たちをサポートすることです。一方で、残りの50%の時間を使って、自分の興味のある研究活動を自由に行うことができます。」

Hoffmanにとって、それはしばしば、気柱が垂直方向に乱されたときに発生する大気重力波を意味する。15年ほど前、ボルダーに勤務していたHoffmanは、地球観測機器から重力波の観測データを抽出するための放射伝達モデルと解析コードを開発した。その興味はFZJでの仕事にも引き継がれ、数年前には衛星の重力波データをほぼリアルタイムで処理するツールの開発にも成功した。

「そしてちょうど今週末、英国の同僚たちが…噴火に気づき、成層圏に重力波を引き起こすのではないかという疑問を投げかけてきたのです。」とHoffmanは語っている。

大気中の重力波を検出する

「基本的に、私たちがやっていることは、NASAのデータサーバーから運用中の放射輝度測定値を継続的にダウンロードすることです。」とHoffmanは言う。「データ量的には、この20年間で200テラバイト程度です。非常に多くのデータというわけではありませんが、私たちが扱うには十分なデータです。」

「次のステップは、コードを実行して、放射測定値から重力波の情報を抽出することです。基本的には、これを実行するためのCコードとスクリプトを用意しており、ユーリッヒのスーパーコンピュータで定期的に計算ジョブを起動するように設定しています。」

問題となっているスーパーコンピュータは、Atos社が製作したJUWELSクラスタ・モジュールで、ヨーロッパで最も強力な公的にランキングされたシステムとして知られるユーリッヒの巨大スーパーコンピュータの一部だ。2,500ノードを超えるこのクラスタ・モジュールは、5,000個以上のIntel Xeon CPUと270ペタバイト以上のメモリを使用して、6.2 Linpackペタフロップスの性能を実現している。(姉妹モジュールであるJUWELSブースターはGPUベースで44.1 Linpackペタフロップスを達成しているが、Hoffmanによると、重力波のコードはまだGPUに移植されていないそうだ。)

そのため、ユーリッヒのHoffmanのチームが運用する仮想マシンが、定期的に新しいデータをダウンロードし、JUWELS上の計算ジョブを初期化し、得られたデータを研究者などのユーザ向けのフロントエンド・インターフェースに配信している。

トンガ火山の噴火を分析する

「ここでは、成層圏の重力波に注目しています。」とHoffmanは言う。「これは、高度30〜40kmで光学的に厚くなる大気からのスペクトルを赤外線で測定したものです。ですから、地上では何も見えません。雲なども見えません。ただ、大気中の温度変動を見ているだけなのです。」

この変動は、上のアニメーションで見られるような音波の伝播とは異なるものだという。「重力波は、さまざまな原因で成層圏に存在します。」と説明する。「例えば、嵐のシステム、大気中の潜熱の放出、山の上の気流などによって引き起こされ、大気に振動を与えます。」

「そしてここでは、火山(おそらく火山からの高温の灰)が重力波を引き起こす原因となっています。通常、大気中で見られる他のタイプの(重力)波は、数百キロ程度の広がりを見せますが、今回のトンガの噴火による強力な発生源では、水平方向の伝搬距離が1万キロにも及ぶことがわかりました。この意味で、非常にユニークな研究です。約20年分の衛星データを解析してきましたが、このようなことはこれまでになかったことです。」

トンガの噴火で発生した重力波。画像提供:Lars Hoffman/FZJ.

 

火山が地球科学者や気候学者にとって興味深いのは、さまざまな理由があるからだ。たとえば、火山の噴火によって二酸化硫黄が大気中に放出されると、地域や地球の気候を大幅に冷やす効果がある場合がある。(これも、Climate Science SimLabの研究対象である。)

Hoffmanは、「短期的には、火山によってどのような波が引き起こされるのか、その特徴は何か、火山が重力波の発生源としてどの程度活発なのかを理解したいと考えています。しかし、もっと長期的には、おそらく数ヶ月から数年に渡って、大気モデルが高解像度の数値気象予測コードをテストするための自然実験のようなものになると思いますし、(気候モデルにとっては)モデル内でこのような事象を再現できるかどうかを確認するための実験になると思います。」

「思うのですが、これは長期間、我々を忙しくさせてくれるでしょう。」と締めくくった。

また、FZJはEuroHPCの次期エクサスケールシステムの主要な候補の一つになると予想されており、彼は多くのコンピューティングパワーを自由に使えるようになるだろう。