NERSCユーザMartin Karplus氏にノーベル化学賞
Linda Vu

2013年10月9日、生化学システムの複雑な化学構造と反応のより深い理解をもたらし、計算化学を開拓した業績により、3人の科学者がノーベル化学賞を受賞した。その成果によって、非常に複雑な分子がどのように機能し、非常に複雑な化学反応がどのような結果をもたらすのか、正確に計算して予測できるようになった。
受賞者の一人、Harvard大学のMartin Karplusは、米国エネルギー省のNational Energy Research Scientific Computing Center (NERSC)のスーパーコンピュータを1998年から使っている。残りの受賞者は、Stanford大学のMichaerl Levitt氏とSouthern California大学のArieh Warchel氏である。
スウェーデン王立アカデミーによると、他の方法では解決不可能だった問題を解決できるように、これらの成果が理論と実験の重要な協調を開いたものである。
「化学者にとって、試験管が重要な道具であるのと同様に、現代ではコンピュータが重要な道具です。シミュレーションは、伝統的な実験の結果を予測するほど現実的なのです。」と、王立アカデミーは受賞者についてコメントした。
スーパーコンピューターと現代の化学
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長い間、化学者はプラスチック製のボールと棒を使って分子模型を組み立てていたが、その歴史は過ぎ去った。現在、モデリングはコンピュータを使って行われており、Karplusの功績は、化学プロセスを理解・予測するために、強力なプログラムの基盤を提供した。これらのモデルは、現代の化学の進歩に重要である。
化学反応は超高速で起こるため、化学反応過程におけるあらゆる途中経過を観察することは不可能である。反応の仕組みを理解し、詳細に研究するために、化学者はこれらの事象のコンピュータ・モデルを作る。モデルの縮尺によって、原子内スケールの電子と原子核から、大きな分子まで扱える。
Karplus、Levitt、Warshellは、計算化学の古典的方法に革命をもたらした。古典ニュートン力学と量子物理学の併用によってである。以前には、研究者は古典力学と量子力学のどちらか一方だけをモデル化できた。古典力学モデルは、大きな分子のモデル化に理想的であったが、化学反応を扱えなかった。化学反応を扱うためには、量子力学モデルを使う必要があったが、計算量が大きくなるために、小さな分子しか計算できなかった。
古典物理学と量子物理学の最高の組み合わせによって、薬物がその目標タンパク質に相互作用するような、複雑な反応過程をシミュレーションできるようになった。例えば、量子論的計算によって、目標タンパク質中の原子がどのように薬物と相互作用するか求められる。他方、残りの部分の大きなタンパク質をシミュレーションするために、古典物理学的計算が使われる。
KarplusとNERSC
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Karplus氏、1998年にNERSCにおいて、エネルギー省のグランドチャレンジ課題に採択されてから、計算機利用し始めた。グランド・チャレンジ・アプリケーションは、科学と工学によって、HPCと通信技術と計算機資源を使い計算集約型の基本的な問題に対処した。。
その頃、KarplusとNorthwestern大学にいた同僚のPaul Bashは、酵素触媒作用の化学的メカニズムを研究しており、ウェット実験による解明は不可能であった。そこで、生体分子の力学、構造、機能の間の関係を完全に理解するために、NERSCのコンピュータを使った。
酵素の一つは、ベータラクタマーゼという種類の物だった。これらの酵素が、抗生物質がバクテリアの増加を阻害する原因になることは解っていたが、正確な化学的メカニズムは解っていなかった。そこで、KarplusとBashは、原子レベルでメカニズムを解明するために、NERSCスーパーコンピュータを使ってシミュレーションした。
NERSCでの15年間で、Karplusと研究グループは、ATPシンターゼ分子が細胞にエネルギーを与える仕組みから、ミオシンが筋肉を動かす原理までの、すべてを調査した。現在、Karplusのグループは、いつか人工物を動かす動力になるかもしれない分子機械、日光から生物燃料を得る方法に取り組んでいる。小さな「分子モーター」の研究は、化学分析に利用可能な「lab-on-chip」につながるだろう。さらには、ナノデバイスでさえ、「人間が製造する」ことになるだろう。
20年間に渡ってNERSCで行われたKarplus氏の業績を列挙する。
1998: タンパク質の力学と生物触媒
2000: タンパク質酵素とリボソームによる触媒作用の理論的研究
2001: タンパク質酵素、リボソーム、分子モーターでの触媒作用に関する理論的研究
2002: トリオースリン酸イソメラーゼが触媒する反応のQM/MM研究
2005: スーパーコンピューターの大画面上でのタンパク質力学
2010: 筋肉が動く仕組みの発見