世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


1月 12, 2024

スパコンの夢を再び Supercomputing Japan 2024開催に向けて

HPCwire Japan

西 克也、一般社団法人スーパーコンピューティング・ジャパン 副会長

皆さんは過去に3回しか開催されなかった「Supercomputing Japan」というイベントをご存じだろうか?1990年から1992年まで3回開催され、最後は1992年4月にパシフィコ横浜で開催された。(HPCwire Japan連載「新HPCの歩み(第105回)-1992年(b)-」)当時1993年に4回目も計画されていたが、日本のバブル崩壊などで運営会社も倒産してしまい、それっきりとなった。当時私もこのイベントに参加したが、このイベントだけで数千人の参加があり、その活気に圧倒されたものだった。

あれから30年、スパコンのイベントで数千人も集客できるイベントが国内にあるだろうか?海外では11月に開催される米国のSupercomputingは1万人越え、6月にドイツで開催されるISCは4千人程度あり、アジアではシンガポール政府が主導するSCAsiaなどが1,000人以上の規模で開催されている。日本のスパコンはどこにいってしまったのだろう?日本の「失われた30年」と共に消え去ってしまったのだろうか? スパコンでは世界的に歴史のある日本がもう終わりなのだろうか?HPCwire Japanのメディアをやっている私から見ると、いや!そんなことはない!と断言することができる。

日本はこの30年でスパコン業界が分断してしまったのだ。特にアカデミアと民間企業のギャップが大きいと感じる。アカデミアが主導するイベントには民間企業の参加は少ないし、逆に民間企業が主導する例えばCAE関連のユーザ会などにはアカデミアの参加が少ない。アカデミアはHPCIを中心とするフラグシップを含むハイエンドコンピュータの話題が中心だし、民間企業はアプリケーションを使ったソリューションの話が中心だ。これからの日本を考えるのであれば、この両者が支えあってスーパーコンピューティングを盛り上げていくしかないと考えている。

もちろん、このギャップを埋めるような活動は見られる。例えば「スーパーコンピューティング産業技術応用協議会」も活動されているが、政府主導の活動には限界がある。トップダウンではなく、ボトムアップ的な活動が必要だ。産業とアカデミアの協調という面では他に一般財団法人高度情報科学研究機構、いわゆるRISTもあるし、神戸には公益財団法人計算科学振興財団FOCUSもあり、スーパーコンピューティング技術を民間に普及すべく素晴らしい活動をされている。だが、やはり個々の団体の活動には限界がある。オールジャパンとしてスーパーコンピューティングを盛り上げるには、日本のスパコン・コミュニティのすべてのステークホルダーが一堂に会する場所が必要だ。

昨年 スパコン・コミュニティの形成を掲げて設立したのが「一般社団法人スーパーコンピューティング・ジャパン」だ。会長はNECの陶理恵さんが就任している。運営委員のメンバーは20名でアカデミア系、ベンダー系、CAE系から参加して頂いている。主な事業は「スーパーコンピュータ博物館運営事業」、「資格認定事業」そして「普及・教育事業」だ。今回、「普及・教育事業」の一環として往年の「Supercomputing Japan」を復活させるべく、2024年3月12日、13日の2日間、東京・タワーホール船堀において「Supercomputing Japan 2024」を開催する。

今回の「Supercomputing Japan 2024」のテーマは「最先端シミュレーションとAI これからのスーパーコンピューティング」である。講演は、基調講演2件、招待講演18件、企業講演24件を予定している。アカデミアと民間の講演をバランスよくまとめていると考えている。また、展示会も開催される。さらにカンファレンスの最大の目的が「コミュニティの形成」であるので、開催日の夕方に毎日、交流会を開催する予定だ。是非ご参加頂ければと思う。

「スーパーコンピュータ」は日本のお家芸であることを忘れてはならない。ハードウェアはアメリカに独占され、アプリケーションはアメリカとヨーロッパに独占されている。日本が生き残るには国内のコミュニティが一丸となって新たな価値をスーパーコンピューティングで作り出すしかない。もう一度、日本のスパコンの夢を見ようではないか。

「Supercomputing Japan 2024」イベントHP:https://scj2024.supercomputing-japan.org/
「Supercomputing Japan 2024」参加登録:https://forms.gle/QojKbPVY3mKj585B9