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7月 21, 2015

グラフェンがチップ内通信を高速化

HPCwire Japan

Tiffany Trader

グラフェンは、ムーアの法則を延長させる可能性を持つ物質として、期待されている。それは、炭素の単原子層であり、強さ、柔軟性、軽さ、電気伝導率のために、珍重されている。

グラフェンを使う電子工学の研究の多くは、シリコンに代わりうる物質という位置づけだが、スタンフォード大学の研究プロジェクトでは、グラフェンを使う最初の製品の可能性を、別の視点で追求している。

半導体チップには、トランジスター間でデータを通信するための、数百万のナノ・ワイヤーがある。ワイヤーは、トランジスターの性能を損なわないように、被覆する必要がある。スタンフォード大学の技術者、H. S. Philip Wong氏は、ワイヤーを保護層のグラフェンで包む方法で、通信速度を30%上げられると発見した。

Wong氏とチームの実験によると、銅の微細なフィラメントの伝統的な被覆材料である窒化タンタルと比べて、グラフェンの性能が良い。グラフェンは、データ転送速度を最適化するだけでなく、将来において、トランジスターを包む物質として期待される。

Wong氏と、工学部のWillard R. 教授、Kerr Bell教授は、チップの研究開発において、他の分野ほど注目されていない配線に、もっと関心を刺激すると指摘した。

スタンフォード大学のウェブサイトによると、「研究者は、チップ内の他の部分を進歩させましたが、ワイヤーについては最近あまり進歩がありませんでした。」

機能のサイズがより小さくなると、すべての要素が再評価されるべきである。

電線の被覆は、絶縁体と導電体の両方の役割を果たす必要がある。小さな論理ゲートのトランジスターが、それらのスイッチング機能を実行するように、ワイヤーは情報を運ぶ。保護シースは、シリコン・トランジスターと銅線の干渉を防ぐ。

スタンフォード大学の実験は、グラフェンはまた、電子の補助導体として動作しているときに、銅を含めることが可能だと示した。そこで、現在の配線材料の能力に加えて、より多くのデータを運べる配線が可能になる。

グラフェンの別の利点は、現在のマイクロ回路より小さなサイズを実現する可能性にある。トランジスターをより小さくして、高性能のチップを作るのと比較して、ワイヤーを小さくすれば、同じ電流を小さなチャネルに流すために、電気抵抗と発熱量が増大する。この問題が、グラフェンによって、窒化タンタルによる絶縁体と比べて、8倍ほど改善され、配線の直径を減らせる。

現在のチップでは、グラフェンによって、ワイヤーの長さに応じて、4%から17%の通信速度向上を期待できるが、二世代後には、30%向上できると、技術者は予想する。

この目的のためのグラフェン利用は、バンド・ギャップがないような短所を持つ半導体物質の利用と比べて、直接的である。しかし、両者共に、大量生産が壁である。次段階の課題の一つは、半導体製造工程の途中で、ワイヤーの上にグラフェンを成長させる技術の開発である。

Wong氏によると、「グラフェンは長期間に渡って半導体産業への利益を約束します。最初の例は、銅線の絶縁体でしょう。」

チームの何人かのメンバーは、京都を訪問し、 Symposia of VLSI Technology and Circuits において、研究論文を発表した。その結果は「 More-than-Moore and More Moore for IoT」という題名のショート・ペーパーである。