世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


8月 5, 2015

【リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(2)】

工藤 啓治

前回は、シミュレーション技術のライフサイクルを、「開発期」「発展期」「高度期」で、眺めるということを紹介し、「開発期」「発展期」について話しました。今回は、「高度期」で何ができるといいかを語ってみましょう。

試作と実験を減らしながら、すなわち”モノを作らずとも、モノを知り、設計する”という一見禅問答のような難題の状況の中で、その点を解決できる妙味にこそ、シミュレーションのさらに高度な活用の仕方があるのではないかと、最近強く感じています。現実への対応という問題だけではなく、実は製品開発用のシミュレーションのゴールがここにあるのではないかということなのです。

言い換えれば、シミュレーションのリアル性の追求、リアルとバーチャルが区別できなくなる状態ということになるでしょうか。従来から、まさにVirtual Realityという技術世界がありますが、ただ表向きの印象では、3次元立体性や没入間の表現に重きが置かれていて、シミュレーションの結果を評価する技術はVirtual Realityの対象外に置かれていたように思います。では、シミュレーションのリアル性とはなんでしょうか?一番進んでいる領域は、航空機のフライトシミュレータや自動車のドライブシミュレータ、船の操船シミュレータなどの訓練用のシミュレーション領域かもしれません。もっとも重要な視覚はもちろん、動作感、反応速度といった、感覚経験をリアル的にさせることを目的にしているからです。

バーチャルでリアルと同様の感覚経験をできること、これこそがリアルとバーチャルの区別をなくすことができるキーではないでしょうか。

例えば、材質表現(テキスチャー)をいかに本物に近づけるかにあるのではというのが一つです。レンダリング技術はかなり進んでいて、製品の様々な状況や光での見栄えの検証は普通に開発業務の中で活用されていますし、実物写真と区別の付かない自動車のデジタル画像などはパンフレットにそのまま使われています。このレンダリング技術を、解析シミュレーション、例えば部品が折れる様子の可視化でフル活用し、従来の等高線図表現とうまく組み合わせることで、リアル性と物理量の定量表現をうまく共存させることはできないものでしょうか。自分の設計によって、材質と形をもったモノが壊れる、変形する、音がする、熱くなる、を感覚的にリアルに感じれるようにすることで、多様な試作経験を積むことが可能にならないか、そんなことを考えています。

このようなバーチャルとリアルの垣根を取り払った融合ができれば、”最近の設計者はモノを知らない”という言葉をシニア世代から言われることはなくなるでしょう。いくらでも、試作して何度でも失敗を経験できるという、むしろ従来はできなかったとても贅沢なことができる、そういうものづくり世界を想像しています。今のシニア世代が10年で経験したことを、5年あるいは3年で経験できる可能性を秘めていますし、際めて稀な現象をいつでも経験できて、ベテランを凌ぐ断トツに優秀な技術者が育ってくるのではないか、そんな未来を語りたいものです。明確な目標があれば未来は楽しく明るいのです。

と、ここまで、書いていて記事を出そうかと思っていたら、実はすでに実現されていたことを発見しました!それも、自社製品で。こちらのURLの7枚の絵を1枚1枚じっくりとご覧ください。これは、実物写真ではなく、衝突シミュレーション結果をリアル・レンダリングした結果なのです。まさに、「 photorealistic quality to leverage one common “visual understanding”」と記述されています。一部の図は、デジタル的な表現とリアル表現が混在していますね、こういうことが自在にできてしまうのが、垣根の無さのいいところだと思います。しかもすでに、設計の中で使われているということですから、まさに「高度期」に到達していたのですね。驚きました。他の様々なシミュレーションもこの例のようになっていくでしょうし、まったくこの記事を知らずに上記の記事を書いていましたから、私の見立てもまんざらではないなと自画自賛しているしだいです。

20150804-J1(画像: Dassault Systems Webページより)

*本記事は、Facebookページ「デザイン&シミュレーション倶楽部」と提携して転載されております。