世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


10月 21, 2013

HPC信望者のために必須の喩え話

HPCwire Japan

Andrew Jones, NAG

現在HPC(スーパーコンピューティング、もしくは大規模データ処理、あるいは先端研究コンピューティング、など名前はどうであれ、ネーミングにケチをつけるのはやめましょう。)に関与している誰にとっても最も重要な仕事のひとつが、「HPCとは何か?」を他の人にきちんと説明できることです。

他の人とは種々雑多な人であり、政治家、名無しの権兵衛、HPCに興味を持つかもしれない新卒者、HPCがITシステムや研究開発に適合するか見極めようとしている企業の管理職、あるいは「いったいどんな仕事を実際にやっているの?」と何度となく聞くあなたの家族かもしれません。

HPCやそのコンセプトを説明するのによく使われる喩え話がいくつかあります。そこでそれらの喩え話のどこがHPCの側面をうまく言い当て、どこが見当はずれなのかを見てみましょう。

テストステロンのお気に入り:フォーミュラ1
(訳注:代表的な男性の性ホルモン)

この喩えは、HPCが通常のITとどう関係するかと言う観点を説明するのによく用いられています。通常のITとはあなたの家族の車です。車はあなたをA地点からB地点へ運びます。車は一般な部品を使って作られています。

殆どの人は車の運転を習います(中には大丈夫かと思う人もいますが)。HPCはフォーミュラ1(正式なカーレーススポーツです。NASCARについては定かではありませんが。)のようなものです。ある制約(F1では規則、HPCでは電力)の下で最高性能を達成するために高額な予算が許される世界であります。特殊な部品が使われ、数少ない人のみがF1を効率的に運転できるように学べ、その中でも数少ない人がF1を運転できるようになります。F1と車、HPCとITの関係は以下の様に言い古されてきました。F1(HPC)は自動車(計算)の最先端技術を駆使して実現され、その技術移転により大量生産の一般車の性能が向上する。しかしながらこの喩えは技術にフォーカスするものの、HPCの目的と便益には触れられていなません。

またこの喩え話は少数な人々向けのニッチな活動というイメージを固定化する傾向にあります。しかしそれはHPCが認知される際に払拭すべきイメージでもあります。こういった事から、個人的にはこの喩え採用する事ができません。

シンプルだが強力:鍬

穴を掘る必要があるの?適切なツールを使いなさい、鍬とか。もっと大きな穴もしくはコンクリートのように堅いところ穴を開けるの? もっと強力なツールを使いなさい、掘削機械(キャタピラ、J.C.B.、・・・・)を。

さてここで、穴を掘る代わりにモデリングやシミュレーションを考えてみましょう。もし、モデルが大きすぎたり、シミュレーションが複雑過ぎたら、もっと強力なツールを使いましょう。それがHPC。明解でシンプルです。HPCにより通常のコンピューターでは扱えない様な複雑なあるいは大規模なモデル/シミュレーションに取り組むことができます。さらにこの喩えにはいくつかのすばらしいアナロジーがあります。鍬あれば、誰に渡しても色々説明しなくとも穴を掘ってくれます。しかし掘削機械のキーを素人に渡しても、それなりのトレーニングや経験を経なければ効果的に機械を運転してくれそうもありません。

同様に、HPCもその強力なツールを効果的に使うためにはトレーニングが必要です。掘削機械を購入するには、鍬を買うより経験が必要です。それは技術そのものよりHPCの目的と便益に注目しています。もしあなたが最近の私の話を聞いたことあるのなら、これが現状ではHPCの喩え話として私の一番のお気に入りだということをご存知でしょう。

高いモラルの地平:科学/工学機器

私は時折偽善だらけであるとHPCコミュニティを非難したことがあります。「何より大切なのは科学だ。」というショーを演じ、そして残りの話題としてハードウェアの議論に移る(少し後ろめたい時は「しかしソフトウェアも重要だ。」という話になる)。しかし、この中にも重要な真実があります。HPCを考える時には、科学的(もしくは工学的)可用性がなにより大切だという事です。私はいつもこの見解を取ります。スーパーコンピュータは単にコンピュータではありません。それはまさにコンピュータ技術を使って作られた重要な科学機器なのです。

一般向けサーバーと殆ど同じ部品で作成されているからといってそれは必ずしもその利用形態、運用スキル、利用者の期待が同じとは限りません。この事は人の心にHPCを正しい文脈で伝える上で効果があります。巨大望遠鏡や風洞、CERNのLHCと比較してみて下さい。繰り返しになりますが、それらから派生する喩え話も有効です。単に科学が機器を使うというのでなく、機器技術そのものに専門知識が必要なのです。確かにスキルはオーバーラップしますが、でもそれらは明らかに違うし、双方とも重要なのです。この喩え話はHPCの目的と便益に焦点を当てているだけでなく、大規模コンピュータに依存していると点も含んでおり有効です。