世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


12月 8, 2025

AI時代のデータ活用:第2部 – 核、核融合、そしてコンピューティング主権争奪戦

HPCwire Japan

オリジナル記事「Powering Data in the Age of AI: Part 2 – Nuclear, Fusion, and the Race for Compute Sovereignty

AIは規模が重要だと言われるが、その「規模」の意味が変わりつつある。長年、それはGPUを増設し、ストレージを追加し、より大きなデータセットを処理することだった。しかし、もっと根本的なもの――電力――を養えなければ、どれも役に立たない。本シリーズ「AI時代のデータ活用」第1部では、エネルギーが単なる経費からAI進歩の絶対的な上限へと変わった経緯を学んだ。第2部では、業界がこの問題を単なる技術的制約ではなく、制御の問題だと認識する段階から話を進める。

最も野心的なAI企業は、電力の効率的な利用を目指しているのではない。電力そのものを所有しようとしているのだ。この変革はインフラ戦略の全書簡を書き換えている。新たなフロンティアは、AI専用に構築されたエネルギーシステムである。

小型モジュール炉、核融合契約、私有マイクログリッド、長期間蓄電システム、垂直統合型エネルギースタック――これらはもはや概念ではない。必須要件だ。これは「コンピューティング主権」の到来を意味する。将来、知能を支える電力を所有する者が、知能そのものを掌握する時代が来るのだ。

エネルギー問題からエネルギー制御へ

エネルギーはもはや背景的な問題ではなくなった。技術企業が、電力網がそもそも自分たちの目的のために設計されたものではないと気づいたからだ。何十年もの間、その論理は単純明快だった。データセンターを建設し、電力網に導入され、冷却を維持する。それは機能していた――機能しなくなるまでは。

AIモデルの規模が拡大し、トレーニング実行が数時間ではなく数日、さらには数週間を要するようになると、状況は一変した。予算上の単なる項目から、鋭い刃のように突き刺さる存在へと変貌したのだ。企業は効率化で問題を追い越そうと長年取り組んだ。高性能チップ、精密冷却、スマートなスケジューリング——これらは全て、新たな効率化がより負荷の高いワークロードの余地を生むはずだった。しかし彼らが得た節約分は、より巨大なモデルと途切れない計算需要によって即座に食い尽くされた。結局のところ、ボトルネックはデータセンターの壁の内側にはなかった。それはソケットそのものだったのだ。

メタ社の新ハイペリオンデータセンターをニューヨーク・マンハッタンの地図に重ねた図(画像提供:メタ社)

 

この認識がきっかけで、エネルギー問題は施設管理チームのスプレッドシートから、取締役会の戦略資料の最優先課題へと静かに移行した。議論の焦点は変わった:実際にどれだけの電力を引き出せるのか? それを決めるのは誰か? 来年その量を倍増させる必要が生じた時はどうなるのか? そしてなぜ、他の全てに依存する唯一の資源――計画している未来を構築できるかどうかの鍵となる資源――を他者に管理させているのか?

ビッグテックが電力網を信用しなくなった理由

電力網の失敗が業界にエネルギー問題への真剣な取り組みを迫った。2024年、北バージニアのデータセンター拠点に電力を供給する公益事業会社ドミニオン・エナジーは、州規制当局に対し「AIデータセンターが電力網の大規模アップグレード費用の一部を分担することに同意しない限り、新規電力供給を保証できない」と通告した。それ自体が警告の弾丸だった。

次にバージニア州ラウドン郡が動き出した。同郡には複数のデータセンターが立地しているが、既存の変電所が容量限界に達したため、承認済みまたは計画中のプロジェクトにブレーキをかけ始めたのだ。電力会社が言わんとしているのは、生成AIの急成長を支えるだけの電力が単純に不足しているということだ。

 
   

これは世界的な問題だった。2024年、アイルランドのエネルギー規制当局は、ダブリンに新設されるデータセンターは、国家送電網から電力を引き出すのではなく、発電または蓄電能力の大部分を自前で確保しなければならないと明言した。シンガポールも、敷地内発電または超高効率電源を備えたプロジェクトのみにデータセンターの認可を再開した。

オランダは交渉すら拒否した。政府は2024年、過剰な電力需要を理由にメタ社の巨大データセンター計画を却下した。これらは新興市場だけでなく、世界的なAIネットワークの主要拠点だ。つまりAIデータセンターの電力供給は保証されておらず、テック大手や先進市場でさえ例外ではないことが示されたのである。

また、公共インフラが生成AIの急成長に追いつけなかったことも浮き彫りになった。AIワークロードの拡大に対応できなかったのだ。これが転換点だった。AI企業はエネルギーを単なる購入品ではなく、自社の存続手段として制御し、あるいは所有すべきものと見なすようになった。

戦略としての原子力:小型モジュール炉と核融合が主役に躍り出る

AIインフラにおける原子力の復活をクリーンエネルギーの物語と捉えがちだが、そうではない。真の狙いは、コンピューティング大手とフルスタック制御の間に残る最後の外部依存を断ち切り、支配力を強化することにある。

マイクロソフトが休眠中のスリーマイル島1号機を復活させる20年契約を結んだのは、太陽光発電のキロワット時単価を上回る計算が成立したからではない。その理由は、同施設が835メガワットの安定したベースロード電力を供給するからだ。つまり変動性なし、出力抑制リスクなし、送電網運営者への依存なし。エネルギーは事前割り当て済みで、特定サイトに固定され、政治的影響を受けない。これこそがAI時代における真の資産なのだ。

 
  トカマク装置内で起こる核融合反応の図解(画像提供:国際熱核融合実験炉)
   

小型モジュール炉(SMR)はさらに一歩進んでいる。発電とコンピューティング実行の距離を縮めるのだ。近くに設置でき、コンテナ化も可能だ。そしておそらく最も重要なのは、制御できる点だ。だからこそAmazonはワシントン州東部のクラウド拠点でSMRの導入を積極的に検討している。

米国エネルギー省(DOE)はSMRとAIのコロケーションモデルを公に支持しており、AIインフラ向けの「高信頼性負荷」を保証する手段と見なしている。しかしSMRをプロトタイプから実稼働インフラへ移行させるには、一朝一夕ではいかない。

認可取得だけでも数年を要し、初期の建設は費用がかかる。特に燃料から製造プロセスまで全てを並行して開発しなければならない場合だ。米国では、多くの先進炉が必要とする高濃縮低濃縮ウラン(HALEU)の安定した国内供給体制が未だ整備中である。

さらに、こうした設備が電力網とどう連携するかという問題もある。計量の問題が障壁となり得る。Amazonがサスケハナ発電所との共同設置契約を結んだ際、規制当局が計量規則について検討を中断したことで壁にぶつかった。データセンターが送電システムを利用しながらその費用を負担しない可能性があるという懸念があったからだ。

核融合は別の役割を担う。規制回避の手段となるのだ。核融合システムは連鎖反応を持続せず、長寿命の放射性廃棄物を生成しないため、原子力規制委員会の認可制度の対象外となる。この法的区別が極めて重要だ。核融合はより迅速に進められ、政治的なボトルネックに直面する機会が少なく、1980年代以降すべての従来型原子炉計画を葬り去った数十年に及ぶ認可の行き詰まりを回避できる。

ワシントン州のサム・アルトマン支援の核融合企業ヘリオンは、2028年までに電力供給を約束している。さらに同社は従来の制約を超えたエネルギー源の構築を目指している。成功すれば、その電力は単にクリーンで安価なだけでなく、主権的なものとなる。送電網の許可は不要だ。出力抑制も不要だ。外部ゲートキーパーも存在しない。これは持続可能性のために電力を所有することではない。知能を構築できる者と許可を求める者を決定する、唯一の資源を所有することなのだ。

核エネルギーは、核分裂と核融合の両形態において、コンピュータ主権の静かな基盤となりつつある。先手を打つ企業は賭けをしているのではなく、自らの未来を強化する方向へ確実に進んでいるのだ。

AIエネルギー基盤の構築

電力網がもはや信頼できるパートナーと見なされなくなった今、AI企業はインフラ設計者のように振る舞い始めている。戦略は単にエネルギーを購入することではなく、それを基盤に構築することだ。土地、エネルギー源、冷却システム、レイテンシーがすべて統合された計画に組み込まれている。データセンターの設計は公益事業規模の問題となり、最も賢明な企業はそれをそのように扱っている。

現代のAIエネルギー基盤は、太陽光発電への導入やPPA購入をはるかに超えている。それは階層化され、支えるべきワークロードに合わせて調整されている。現地発電には、利用可能な資源と計算リソースの要求に応じて、太陽光、水力、原子力が含まれる可能性がある。Googleはネバダ州のデータセンター近くに強化型地熱システムへの投資を進めている。

他の地域では、ハイパースケーラーが水力発電所と隣接して設置したり、将来を見据えたベースロード電源として小型モジュール炉(SMR)の活用を検討している。蓄電システムはリチウムイオン電池から鉄空気電池、水素燃料電池まで多岐にわたる。さらにスマートな運用管理も進んでいる:炭素排出量を考慮したスケジューリング、予測に基づく負荷シフト、さらにはAIモデルが自らの需要を予測して送電網を事前調整するケースさえある。

さらに踏み込んだ企業も現れている。プライベートマイクログリッドや、いわばエネルギー島を構築する動きだ。例えばケベック州のQScaleは水力発電とAI最適化冷却を組み合わせている。マイクロソフトのHelionによる核融合エネルギーへの野心は、発電・コンピューティング・スケジューリングが同一敷地内に集約される最終形態を示唆している。

特に目新しいのは、AIがエネルギー使用曲線を形作り始めている点だ。グリッド信号に反応する代わりに、ワークロードのタイミングを炭素強度や地域供給に合わせて調整している。Googleは既に複数地域でこれを実施中だ。Gridmaticは市場信号を活用し、負荷を最も安価な時間帯に分散させる。DeepMindはグリッドの不均衡を事前に予測するモデルまで訓練している。その結果、微妙な逆転現象が起きている。かつてAIは電力網にとって問題だった。今や安定化装置のように振る舞い始めており、この点を理解する企業が将来を見据えたコンピューティング体制を構築できるだろう。