2016年6月TOP500分析 (1) 国別比較、エントリ台数、性能合計でも中国が首位に
6月20日発表された最新のTop500の結果は世の中を驚愕させた。それから2週間程たって少し落ち着きを取り戻してきたようなので、恒例のTOP500分析をしてみようと思う。

今回のTOP500でエントリ台数、性能の合計値で初めてアメリカが首位を奪われた。もちろん中国にだ。Dongarraリストと呼ばれてアメリカから始まったTOP500リストがついに歴史的な転換点を迎えた。科学的な成果以上に国家の威信をかけ始めるようになってしまったこのリストが今後どのように変化していくのか将来が懸念される。
国別エントリ数
エントリ台数で中国が首位になったのは今回突然始まったわけではない、その兆候は前回特に明らかになっていた。前回で72エントリも増やした中国は今回さらに58システムを増やしたのだ。1年間の通算では実に130エントリの追加だ。逆にアメリカはこの1年間で合計68エントリも失っている。それ以外の国も、のきなみエントリ台数を減らすこととなってしまった。この1年間で、日本とドイツはそれぞれ11エントリを、イギリスは17エントリを失っている。さらにこの1年間でエントリ数をゼロにしてしまった国が10か国もあるのだ。
国名 | 2016/06 | 2015/11 | 2015/06 | 増減(1年通算) |
中国 | 167 | 109 | 37 | +58(+130) |
アメリカ | 165 | 199 | 233 | -34(-68) |
日本 | 29 | 37 | 40 | -8(-11) |
ドイツ | 26 | 33 | 37 | -7(-11) |
フランス | 18 | 18 | 27 | 0(-9) |
イギリス | 12 | 18 | 29 | -6(-17) |
インド | 9 | 11 | 11 | -2(-2) |
韓国 | 7 | 10 | 9 | -3(-2) |
ロシア | 7 | 7 | 8 | 0(-1) |
ポーランド | 6 | 5 | 7 | +1(-1) |
サウジアラビア | 5 | 6 | 7 | -1(-2) |
オーストラリア | 5 | 5 | 6 | 0(-1) |
オーストリア | 5 | 1 | 1 | +4(+4) |
フィンランド | 5 | 2 | 2 | -3(-3) |
イタリア | 5 | 4 | 4 | +1(+1) |
スウェーデン | 5 | 3 | 5 | +2(0) |
ブラジル | 4 | 6 | 6 | -2(-2) |
アイルランド | 3 | 0 | 0 | +3(+3) |
スイス | 3 | 6 | 6 | -3(-3) |
ベルギー | 2 | 0 | 1 | +2(+1) |
デンマーク | 2 | 2 | 2 | 0(0) |
カナダ | 1 | 6 | 6 | -5(-5) |
チェコ | 1 | 1 | 1 | 0(0) |
ニュージーランド | 1 | 1 | 0 | +1(+1) |
ノルウェー | 1 | 1 | 2 | -1(-1) |
シンガポール | 1 | 0 | 0 | +1(+1) |
南アフリカ | 1 | 0 | 0 | +1(+1) |
スペイン | 1 | 2 | 2 | -1(-1) |
ブルガリア | 0 | 1 | 1 | -1(-1) |
クロアチア | 0 | 1 | 0 | -1(0) |
香港 | 0 | 1 | 1 | -1(-1) |
ハンガリー | 0 | 1 | 1 | -1(-1) |
メキシコ | 0 | 1 | 1 | -1(-1) |
オランダ | 0 | 2 | 3 | -2(-3) |
台湾 | 0 | 0 | 1 | 0(-1) |
マレーシア | 0 | 0 | 1 | 0(-1) |
イスラエル | 0 | 0 | 1 | 0(-1) |
ギリシャ | 0 | 0 | 1 | 0(-1) |
過去3回の国別エントリ数
中国のスパコンのエントリ数が増えたのは民間レベルでの強力な支援があったようだ。下の表はこの1年間で増えた中国のスパコンの業界別台数である。これから一目で分かるのは政府系と民間、特に民間の顕著な増加である。産官での強力なプッシュがあることが伺える。実はアメリカがエントリ数でこれまで首位をキープしていたのも民間のエントリの多さであった。
セグメント | 2016/06 | 2015/11 | 増減 |
アカデミック | 5 | 6 | -1 |
政府系 | 23 | 8 | +15 |
民間 | 126 | 84 | +42 |
研究機関 | 13 | 11 | +2 |
中国セグメント別エントリ数
では、中国が元々あった古いスパコンをエントリさせたかというとそうでもない。下の表は過去2回の中国のエントリのインストール年毎の台数である。これからも分かるように今回エントリ数が増加した58システムのほとんどが2016年にインストールされたものである。
インストール年 | 2016/06リスト | 2015/11リスト | 増減 |
2010年 | 2 | 2 | 0 |
2011年 | 3 | 3 | 0 |
2012年 | 0 | 1 | -1 |
2013年 | 4 | 8 | -4 |
2014年 | 9 | 8 | +1 |
2015年 | 90 | 87 | +3 |
2016年 | 59 | – | +59 |
中国インストール年別エントリ数
ペタフロップスマシン台数
ピーク性能がペタフロップスを超えるペタフロップスマシンは全体で183台となる前回から31台増加している。増加した台数の半分が中国だ。また今回新たに南アフリカとシンガポールがペタフロップス・クラブに加入している。
国名 | 2016/06 | 2015/11 | 増減 |
中国 | 63 | 48 | +15 |
アメリカ | 48 | 44 | +4 |
日本 | 16 | 16 | 0 |
ドイツ | 11 | 11 | 0 |
フランス | 10 | 5 | +5 |
イギリス | 7 | 5 | +2 |
イタリア | 4 | 3 | +1 |
ポーランド(2)、サウジアラビア(3) | 3 | 国名横の()内に前回値を示す | |
スイス(2)、ロシア(2)、オランダ(1)、韓国(2)、インド(2)、オーストラリア(3) | 2 | ||
スウェーデン(1)、スペイン(1)、南アフリカ(0)、シンガポール(0)、フィンランド(1)、チェコ(1) | 1 | ||
合計 | 183 | 152 | +31 |
国別ペタフロップスマシン保有数
合計性能
今回コア数、実行性能、ピーク性能を飛躍的に増やしたのはもちろんSUNWAY TaihuLightのおかげで、コア数10,649,600コアで増加分の90%相当、実行性能は93,014,594 GFLOPSで増加分の62%、ピーク性能は125,435,904GFLOPSで増加分の約61%分を増加させている。
2016/6 | 2015/11 | 伸び率 | |
コア数 | 40,997,937 | 29,236,135 | +40.2%(+15.9%) |
アクセラレータコア数 | 7,064,193 | 7,080,687 | -0.2%(+3.4%) |
実行性能合計(GFLOPS) | 566,799,567 | 418,253,988 | +35.5%(+15.1%) |
ピーク性能合計(GFLOPS) | 844,836,905 | 638,924,802 | +32.2%(+24.2%) |
コア数、実行性能合計、ピーク性能合計
国別に見ると次のようになっている。
国 | ピーク性能合計(GFLOPS) | 実行性能合計(GFLOPS) | コア数 |
中国 | 367,075,933 | 211,069,646 | 21,061,392 |
アメリカ | 246,389,839 | 173,222,639 | 10,097,238 |
日本 | 48,714,335 | 39,002,022 | 3,633,964 |
ドイツ | 39,211,960 | 31,112,672 | 1,467,732 |
フランス | 27,511,097 | 21,951,929 | 1,060,732 |
上位5か国の性能合計値
ピーク性能において中国はアメリカの約1.5倍のスパコンを所有していることになる。(もちろん国全体のスパコン台数はTOP500リストには掲載されていないので不明だが) 3位の日本と比べると約7.5倍となっているのは驚異的だ。
実行効率
システム単位で実行効率を見ると、上位5システムでの入れ替えは2位のドイツのマシンが新たに参入しただけであった。
順位 | 国名 | 機関名 | システム | メーカー | TOP500順位 | 実行効率 |
1 | アメリカ | Texas A&M大学 | Ada | IBM | 408 | 99.8% |
2 | ドイツ | Freiburg大学 | NEMO bwForCluster | DALCO | 214 | 98.8% |
3 | ブラジル | SENAI CIMATEC | CIMATEC Yemoja | SGI | 323 | 98.2% |
4 | イギリス | AWE | Spruce A | SGI | 87 | 96.1% |
5 | イギリス | AWE | Spruce B | SGI | 107 | 96.1% |
国毎の平均実行効率は参考までに次の通りであった。エントリ数、演算性能合計では中国に負けているアメリカも実行効率ではかなり差をつけている。
国名 | 平均実行効率 | エントリ数 |
中国 | 57.5% | 167 |
アメリカ | 70.3% | 165 |
日本 | 80.1% | 29 |
フランス | 79.8% | 18 |
イギリス | 88.4% | 12 |
今回は兎に角、中国の勢いに他の国が圧倒された感じであった。アメリカの輸出制限が裏目にでてしまったのではないのだろうか? 次回のTOP500までにアメリカはどのような行動に出てくるのだろうか? そのままLINPACK性能は無視して、HPCGに賭けるのだろうか? これまでの経験からするとアメリカはこのような脅威を巧みに使って国内を扇動し、スーパーコンピュータのための予算を増大させてきた。恐らく現在行われている大統領選挙との兼ね合いになるだろうが、いずれにせよ何かの行動に出てくるのではないかと推測される。それは直接的にTOP500には影響しないかもしれないかもしれない。今後のアメリカの動向を注視する必要がありそうだ。