世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


12月 12, 2013

SC13まとめ

HPCwire Japan

今年のSupercomputing 2013は米国デンバーで11月18日から22日まで開催された。今回25周 年ということもあり、会場には過去の会議の展示や25回皆勤賞の授与など特別イベントも設けられた。デンバーは”Mile High”と 呼ばれるように約1600mの高地にあり寒いように感じられるが最初の3日 間程は日本とほぼ変わらない気温だった。だが20日木曜日からは時折小雪が降り、気温も最高マイナス3度、 最低マイナス13度とさすがに高地であることが理解できる。デンバーでのSupercomputing会 議は前回9.11テロが起こった年に開催され、その際には日本からの来場者は数名しかいなかったようだ。しかし今回日本からの 参加者は例年通りとなり、まさにデンバーに数日間だけリトル・トウキョウが現れたような錯覚にとらわれる程で、街中どこでも日本人を見か けることができた。(特に夜は・・・)

Colorado Convention Center SC History
会場となったコロラドコンベンションセンター 会場に展示されたSCの歴史

さ て、今年のSC13のまとめをしようと思う。

 

【参加者数】

今 年の来場者数はSC13主催者発表で10,550人、58か国から参加があり、まさに国際会議である。ここで主要各国の参加者数を見てみよう。もちろん主催者のアメリ カが一番であるが、2番目は我が日本である。総数から見ると約四分の三が地元アメリカ、四分の一が海外勢ということになる。日本の 参加者の数は海外勢の約2割と占めることになり、その多さが理解できると思う。

参 加者総数順 上位5か国

アメリカ 8,039
日本 563
ドイツ 235
フランス 206
イギリス 182

 

そ の他のアジア系の参加者:

韓国 102
台湾 89
中国 85
シンガポール 16
インド 12
タイ 10
マレーシア 3

【展示会】

展 示は350あり、日本の展示は35で 以下の通り。

産業技術総合研究所、筑波大学、富士通、GRAPE、日立ケーブル、日立製作所、北海道大学、ITBL、 海洋研究開発機構、北陸先端科学技術大学院大学、宇宙航空研究開発機構、科学技術振興機構、関西大学、高エネルギー加速器研究機構、神戸 市、神戸大学、京都大学、九州大学、奈良先端科学技術大学院大学、日本電気、情報通信研究機構、東京大学情報基盤センター、PCクラスタコンソーシアム、高度情報科学技術研究機構、高度情報科学技術研究機構神戸センター、理化学研究所計 算科学研究機構、理化学研究所情報基盤センター、埼玉工業大学、埼玉大学、統計数理研究所、東京大学平木研究室、東北大学、東京工業大 学、東芝、会津大学

【Committee への協力】

次に主催者側 commiteeへの日本からの貢献を見てみよう。

SC13のcommiteeには日本から数名が協力している。その中でもトップなのは東工大の松岡教授だ。SC13のプレスカンファレンスに おいても今回の主催者代表より特に国際的な協力者として名前を挙げられた。松岡教授はcommitteeの中でTechnical Program Chairとなっている。今ではSupercomputingも展示が主となってきてはいるが、元々、この会議はスパコンに関する研究や技術を発表する場 であり論文の採択率は約20%と非常に敷居が高い会議である。そのTechnical Program全体のChairを日本人が務めているのは誇るべきことだ。

Technical ProgramCommittee Chair 東京工業大学 松岡聡 教授
Doctoral Showcase Review Commitee member 筑波大学 高橋大介 教授
ACM Gordon Bell Prize Commitee member 筑波大学 朴泰祐 教授
BoFs Commitee member 東京工業大学 佐藤仁 特任助教
Invited Talks Committee member 産業技術総合研究所 関口智嗣 副研究統括
Technical Papers Committee
Chair 東京大学 中島研吾 教授
Algorithms member 京都大学 岩下武史 准教授
Applications member
東京工業大学 青木尊之 教授
アブドゥラ王立科学技術大学院 大学 横田理央
Grids&Clouds member
筑波大学 建部修見 准教授
Analysis&Tools member
富士通研究所 成瀬彰
東京大学 須田礼二 教授
筑波大学 高橋大介 教授
Programming Systems Area Co-Chair 東京大学 田浦健次郎 教授
member
IBM 井上博
理化学研究所 丸山直也
筑波大学 佐藤三久 教授
九州工業大学 八杉昌宏 教授
Sate of the Practice member
京都大学 中島浩 教授
System Software Area Co-Chair 筑波大学 朴泰祐 教授
member
理化学研究所 堀敦史
富士通 住元真二
東北大学 滝沢寛之 准教授
Test of Time Award Commitee member
国立情報学研究所 三浦謙一
Tutorial Committee
Deputy Chair 理化学研究所 丸山直也
member
東京工業大学 青木尊之 教授
東京大学 田浦健次郎 教授
Workshop Committee
member

筑波大学 建部修見 准教授

【各種表彰】

Supercomputing Conferenceでは毎年各種の表彰を行っている。日本人に有名なのはセイモア・クレイ賞で過去にも日本人が受賞している。
ここでは主な表彰について取り上げる。

  • Ken Kennedy賞

Ken KennedyはHPCで世界的な有名なアメリカのコンピュータ科学者であり、ライス大学の教授でコンピュータ科学部の創設者である。Ken Kennedy賞は、計算分野におけるプログラム化可能性と生産性における相当な貢献、および相当な地域奉仕活動または指導貢献に対する賞である。受賞者 には副賞として5,000ドルが授与される。2013年度の受賞者はTOP500の創立者でもあるテネシー大学のJack Dongarra氏が受賞した。

  • Seymour Cray賞

スパコン業界で知らな い人はいないスパコンの父であるSeymour Crayの衝撃的な交通事故による没後創設された賞である。Seymour Cray賞は、Seymour Crayの創造的な精神を最も実証するHPCシステムへの革新的な貢献に対して授与される。賞は1999年より開始され、これまでに日本人も2名(三浦謙 一氏、渡辺貞氏)受賞している。2013年の受賞者はアルゴンヌ国立研究所のMarc Snir氏に授与された。受賞者には副賞として10,000ドルが授与される。Marc Snir氏は2001年までIBMのワトソン研究所に勤務していた時代にIBM RS/6000 SPおよびBlue Geneの開発を担った功績が認められた。

  • Sydney Fernbach賞

Sydney Fernbachは1952年から1979年に退職するまでローレンスリバモア国立研究所に勤務していた物理学者である。退職後、個人コンサルタントとし てコントロールデータ社のスパコン開発に携わっていた。Sydney Fernbach賞は問題解決における革新的なHPC利用に対して授与され、副賞として2,000ドルが渡される。2013年度の受賞者はユタ大学の Christopher R.Johnson氏である。Johnson氏はユタ大学の「Scientific Computing and Imaging (SCI) Institute」の創設ディレクターでもある。

  • ACM-W Athena Lecturer賞

この賞はACMの賞であり、コンピュータ科学における基本的な貢献を行った女性研究者に授与される。2013年度の受賞者はカリフォルニア大学バークレー校のKatherine Yelick女史に送られた。

  • Gordon Bell賞

Gordon Bell賞はACM主催の賞であり、ハイパフォーマンスコンピューティングにおける優れた功績に対して授与される。賞は重要な科学・エンジニアリング課題 におけるスケーラビリティおよび解決時間において、ピーク性能や特別な功績に対して授与されると説明されている。これはこの賞のCommitteeのメン バーでも筑波大学の朴教授によれば「アプリケーションのピーク性能だけでなく、如何に問題を解決し、その技術が今後のHPCの課題に対してどれだけ貢献でき るかが重要」であるということだ。日本もこれまで数度受賞している。2013年のGordon Bell賞は、”11 PFLOP/s Simulations of Cloud Cavitation Collapse”で、流体計算で13 兆要素を計算したローレンスリバモア研究所のチームが受賞した。計算はSeqooiaで計算され、15,000の泡をシミュレートしたそうだ。

 

【スパコンリスト】

TOP500

今や知らない人はいないと思うがTOP500は世界のスパコンの性能リストだ。「2位ではだめなんですか?」という言葉で一気に有名になった。
毎年2回開催されるスパコン会議で発表され、今回は2013年度の2回目の発表となる。今回のリストは前回の2013年と比べてあまり変化はなかった。

順位
国名
機関名
システム名
実行最大性能
TFLOPS
理論最大性能
TFLOPS
1
中国
National Super Computer Center in Guangzhou
Tianhe-2
33,862.7
54,902.4
2
アメリカ
Oak Ridge National Laboratory
Titan
17,590.0
27,112.5
3
アメリカ
Lawrence Livermore National Laboratory
Sequoia
17,173.2
20,132.7
4
日本
理化学研究所
K Computer
10,510.0
11,280.4
5
アメリカ
Argonne National Laboratory
Mira
8,586.6
10,066.3
6
スイス
Swiss National Supercomputing Center
Piz Daint
6,271.0
7,788.9
7
アメリカ
Texas Advanced Computing Center
Stampede
5,168.1
8,520.1
8
ドイツ
Forschungszentrum Juelich (FZJ)
JUQUEEN
5,008.9
5,872.0
9
アメリカ
Lawrence Livermore National Laboratory Vulcan
4,293.3
5,033.2
10
ドイツ
Leibniz Rechenzentrum
SuperMUC
2,897.0
3,185.1

余談ではあるが、TOP500ではこれまで計測に利用されてきたLINPACKの他にHPCCGと呼ばれる新しいベンチマーク手法が採用される予定 である。今回の発表によると、LINPACKが無くなる訳ではなく、新たにHPCCGという性能値が加わるということだ。恐らくTOP500の順位が LINPACKとHPCCGで2種類出てくる形式となると考えられる。

TOP500 China
TOP500の1位を受賞した中国側代表

GREEN500

GREEN500はTOP500のシステムにおける消費電力当りの性能を競うリストだ。既にニュースになったように今回は東京工業大学のTSUBAME-KFCが2位以下を大きく引き離した格好となった。

順位
国名
機関名
システム名
性能比
MFLOPS/W
TOP500
順位
1
日本
東京工業大学
TSUBAME-KFC
4,503.17
311
2
イギリス
Cambridge University
Wilkes
3,631.86
166
3
日本
筑波大学
HA-PACS
3,517.84
134
4
スイス
Swiss National Supercomputing Centre
Piz Daint
3,185.91
6
5
フランス
ROMEO HPC Center
romeo
3,130.95
151
6
日本
東京工業大学
TSUBAME-2.5
3,068.71
11
7
アメリカ
アリゾナ大学
iDataPlex Dx360M4
2,702.16
336
8
ドイツ
Max-Planck-Gesellschaft MPI/IPP
iDataPlex Dx360M4 2.629.10
49
9
アメリカ
Financial Institution
iDataPlex Dx360M4 2,629.10
328
10
オーストラリア
CSIRO
CSIRO GPU Cluster
2,358.69
260

 

Graph500

このGraph500リストは2010年より開始され、TOP500のような計算集約型ベンチマークでなく、データ集約型ベンチマークであ るグラフ処理による性能を競うリストだ。Graph500と言ってはいるが、現在のところ160システムが掲載されている。普及はこれからといったところ だろうか。性能値としては「TEPS」が使われ”Traversed Edges Per Second”で、1秒間にたどるグラフのエッジ数で表される。

順位
国名
機関名
システム名
性能
GTEPS
1
アメリカ
Lawrence Livermore National Laboratory
Sequoia
15363
2
アメリカ
Argonne National Laboratory
Mira
14328
3
ドイツ
Forschungszentrum Juelich (FZJ)
JUQUEEN
5848
4
日本
理化学研究所
K Computer
5524.12
5
イタリア
CINECA
Fermi
2567
6
中国
Changsha, China
Tianhe-2
2061.48
7
フランス
CNRS/IDRIS-GENCI
Turing(BG/Q)
1427
8
イギリス
Daresbury Laborator
BlueGene/Q
1427
9
イギリス
University of Edinburgh DIRAC(BG/Q)
1427
10
フランス
EDF R&D
Zumbrota(BG/Q)
1427

Green Graph500

GREEN500はTOP500における単位消費電力当りの性能であるが、同様にGraph500における消費電力当りの性能を競うのがGreen Ggraph500だ。
Green Graph500の場合、スケールサイズにより”Big Data”と”Small Data”に分けてリストが掲載されている。
“Big Data”の今年の1位はGREEN500と同じく東京工業大学のTSUBAME-KFCとなった。”Small Data”のリストはある意味言葉を失ってしまう。1位から10位まで日本勢であり、それも中央大学を中心としたCREST組がぼ独占してい る。”Small Data”は21位まで掲載されているが、内14システムが中央大学だ。”CREST”プロジェクトのホームページ上でも独占に関するリリースが行われている。

Big Data上位

順位
国名
機関名
システム名
性能比
MTEPS/W
1
日本
東京工業大学
TSUBAME-KFC
6.72
2
ドイツ
Forschungszentrum Julich (FZJ)
JUQUEEN
5.41
3
アメリカ
Argonne National Laboratory
Mira
4.42
4
日本
東京工業大学
EBD-RH5885v2
4.35
5
アメリカ
Lawrence Livermore National Laboratory
Sequoia
3.55
6
日本
北陸先端科学技術大学院大学
altix
1.89
7
アメリカ
Mayo Clinic
grace
0.73

Small Data上位

順位
国名
機関名
システム名
性能比
MTEPS/W
1
日本
中央大学
GraphCREST-Xperia-A-SO-04E
153.17
2
日本
東京工業大学
GraphCREST-NEXUS7-2013 129.63
3
日本
筑波大学
kitty6
73.57
4
日本
中央大学
GraphCREST-Tegra3 64.12
5
日本
中央大学
GraphCREST-Intel-NUC 53.82
6
日本
中央大学
GraphCREST-Mac-mini 53.47
7
日本
中央大学
GraphCREST-MBA13 52.02
8
日本
中央大学
GraphCREST-Retina15 51.62
9
日本
中央大学
GraphCREST-4Way-SandybridgeEP-2.4GHz 45.43
10
日本
中央大学
GraphCREST-Sandybridge-EP-2.7GHz 41.01

 

 

【その他】

HPC Challenge

SCの公式行事ではないが、市場調査会社のIDC等を中心としたスポンサー等がHPC Challengeという賞を出している。目的は生産性の高いHPCハードウェアおよびHPCソフトウェアの開発を奨励することにある。

賞の種類は大きく2種類あり、合計4つの賞が表彰される。

Class1: 性能の評価
Global HPL、Global RandomAccess、EP STREAM per system、Global FFTの4項目毎に賞が授与される。

Class2: 生産性の評価
HPC Challengeのホームページによると、4つから5つのベンチマークを最も”エレガント”に実行させることを競うらしい。
要はプログラム言語のトータルな性能を見るとのことだ。
2013年の受賞は次の通り。

Class1
Global HPL
理化学研究所、筑波大学チーム

Global RandomAccess
IBM Development Engineering

EP STREAM per system
理化学研究所、筑波大学チーム

Global FFT
理化学研究所、筑波大学チーム
Class2

理化学研究所、筑波大学チーム

1つを除いてすべて理化学研究所と筑波大学のチームが賞を獲得した。理化学研究所は昨年もClass 1で首位をとっており、今回初のClass 2での受賞となった。使われたのは理化学研究所と筑波大学が共同開発中の「XcalableMP」と呼ばれるプログラミング言語である。

1週間という会期ではあったがSupercomputing会議は非常に内容の濃い国際会議だ。会議の内容もさることながら、1年に1度世界中のHPC研 究者やベンダーが一堂に集い、今後のHPCについて熱く語り合える絶好の機会でもある。来年はニューオリンズで開催される予定である。