世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


6月 28, 2021

「富岳」、COVID阻害の分子メカニズムを解明

HPCwire Japan

Oliver Peckham

この1年間、理研のスーパーコンピュータ「富岳」(ヘッダーの写真)は、442 Linpackペタフロップスという驚異的な演算能力を発揮し、Top500のトップを維持してきた。このシステムは、パンデミックの初期にCOVID-19の研究に拍車をかけるという非常に特殊な目的のために、予定よりも約1年早く登場した。それ以来、COVID-19の重要な研究がほぼノンストップで行われている。そして今回、東京大学と富士通は、「富岳」を使ってCOVID-19の感染に対抗する低分子の開発を行うことになった。

今回の研究は、富士通と東京大学先端科学技術研究センター(RCAST)との10年にわたるパートナーシップの延長線上にある。両機関は、がんをはじめとするさまざまな病気に効く低分子化合物の創出に取り組んでいる。具体的には、経口摂取が可能で、化学合成が可能で、低コストの薬剤の開発を目指してきた。

多くの効果的なワクチンがあるにもかかわらず、ワクチンを受けていない何十億もの人々が、ウイルスに感染すると壊滅的な影響を受ける可能性があり、強力な効果を持つ治療薬がまだ見つかっていないことを考えると、この研究をCOVID-19の治療薬に応用することは非常に重要であると研究者たちは考えている。

 
  SARS-CoV-2のウイルスタンパク質に結合する阻害剤化合物の例。画像提供:富士通
   

薬剤開発には、もちろん、分子動力学シミュレーションを多用する。研究者たちは、ドッキングシミュレーションを用いて、可能性のある阻害化合物の可能性を調査し、検索で特定された各ウイルスタンパク質と候補化合物の3D構造モデルを作成することを目指している。

次に、さらに分子動力学シミュレーションを用いて、各タンパク質と化合物のペアの動的挙動を追跡し、シミュレーションの知識の範囲内で、それらが人体内でステープル結合状態で存在しうることを確認する。この2つのステージを通過した化合物は、現実世界でのさらなるテストに進んでいく。

医薬品の開発がパートナーシップの主な目的であるが、研究者たちは、2021年のパンデミックのもう一つのホットなトピックである変異と突然変異にも目を向けている。SARS-CoV-2のウイルスタンパク質内のさまざまなアミノ酸配列を変異させ、改変されたウイルスの新たな挙動を観察することで、「富岳」の計算能力を用いて、将来の変異、さらには新しいタイプのコロナウイルスを予測することを目指しているのだ。この研究は、理論的には、予測される懸念株に対する先制的な薬剤開発を可能にするものである。

様々なスーパーコンピューティング機関が様々な取り組みを行っている中で、COVID-19に強い効果を発揮する治療薬の特定に成功した機関があるかどうかは、今後の課題となる。また、ISC21でTop500の更新が予定されているが、「富岳」が新年もその栄冠を維持できるかどうかは未知数である。

COVID-19に対する「富岳」の戦いについては、以下の記事をご覧ください。

「富岳」vs.COVID-19:世界トップレベルのスーパーコンピュータが、私たちの新しい常識をどのように形成しているか

ISCではCOVID-19との戦いが舞台となり、そこには「富岳」も

スーパーコンピュータ「富岳」がCOVID-19対策に活用