産業利用で活躍する地球シミュレータ
西 克也

巷では「京」コンピュータに続くナショナル・フラグシップマシンの開発先も決まりエクサスケールマシンの開発が本格的に開始されたが、その影ですっかり鳴りを潜めている地球シミュレータは地球科学技術の研究活動を主軸とし、産業利用についても活躍を続けている。地球シミュレータが開発された2002年当時は世界を圧巻しTOP500のトップとなり、アメリカのスパコン開発に火を着けたものだった。
10月23日、「地球シミュレータ産業利用シンポジウム」が開催された。現在地球シミュレータは第二世代のES2となっており、131TFLOPSのピーク性能と20TBのメモリを持った日本電気のSX-9、およびピーク性能49TFLOPS、32TBの大規模共有メモリを持ったSGI UV2000の2つのシステムを提供している。来年にはシステムが更新され日本電気の最新システムであるSX-ACEシステムが導入されペタフロップス級になる予定だ。
シンポジウムでは冒頭に文部科学省科学技術・学術政策局研究開発基盤課長の渡辺その子氏がこれまで長くこのプロジェクトに携わった経験をもとに「地球シミュレータとスパコン開発の概括」としてを振り返り、現在の研究開発基盤が直面する市場の情勢と文部科学省が行っている取り組みについて説明した。渡辺氏は最後に、産学官が共用利用可能な設備の拡大、ネットワークによる利便性の向上、ユーザニーズに基づく機器開発、先端研究基盤施設設備の国家戦略、人材の育成に今後取り組んでいくと締めくくった。
「地球シミュレータ産業戦略利用プログラム」と呼ばれる産業利用プログラムは、公募によって産業界から利用者を募っており、これまでにのべ108課題を超える成果がある。地球シミュレータの運用管理を担当している海洋研究開発機構地球情報基盤センターの浅野俊幸氏は、これらの多くの成果から蓄積したデータをビッグデータとして利用し、今後は新たな価値の創出を目指したいと新たな試みについて述べた。
利用は有償(一部負担)で成果の公開が原則だが、最大2年間の非公開期間も選択可能だ。さらに無償利用のトライアルユースも提供されており、導入を検討している利用者にも門戸を開いている。また、専門家による利用技術支援も提供される。近年は商用アプリケーションもソフトウェアベンダーの協力の下にアプリケーションの提供も始めており、利用の敷居を下げている。シンポジウムでは協力しているソフトウェアベンダーである、SCSK社、CD-Adapco社およびエムエスシーソフトウェア社から提供ソフトウェアの説明も行われた。
地球シミュレータに限らず、いくつもの大学や国立研究機関がスーパーコンピュータの産業利用に取り組んでいるが、大きな成果にはつながっていないのが現状だ。数値シミュレーション技術の民間への普及は今後の日本のものづくりを考えると非常に重要である。今後は文部科学省にのみ依存するのでなくオールジャパンでの取り組みが重要ではないだろうか。
(タイトル画像 地球シミュレータ 写真提供:海洋研究開発機構)