みんなの量子コンピューティング
Tiffany Trader

量子コンピューティングはまだ黎明期であるが、近いうちにWebブラウザーから誰でもこの強力な計算技術の初期の姿にアクセスできるようになるだろう。英国科学祭(British Science Festival)において、ブリストル大学のJeremy O’Brien教授は、インターネットを通じて誰もが量子コンピューターにアクセスできる、Qcloudと呼ばれる画期的なプロジェクトを紹介した。
量子コンピューティングは、量子ビットという情報の単位をベースにしている。量子ビットは、重ね合わせという現象により同じ時間に複数の状態を保持する。量子ビットの振る舞いの意味するところは、複数の答えを同時に計算できるということだ。計算の並列化の本質的な形式だと言えるし、(0かそれ以外かの)バイナリー状態では、従来型計算よりも指数関数的に高速だと考えられている。
最初の商用量子コンピューターは、カナダの企業であるD-Wave Systemsによって開発された。D-Wave機の初期ユーザはロッキード・マーチン、南カリフォルニア大学、NASA、グーグルといったところであった。D-Wave社の技術が量子コンピューティングとみなされるかどうかは、未だに議論の余地があるにしろ、このような議論を横に置いたとしても、アクセスは制限されているが、量子システムは存在している。
ブリストル大学の科学者たちは、現在の量子技術があまりにも少ないユーザに限定されていることに課題を感じている。彼らは、健全なエコシステムを創造するには、より多くの人々にもアクセス可能な道具立てになっていなければならないと信じている。
9月20日の時点で、ブリストル大学の量子フォトニクス・センターに設置された量子フォトニクス・プロセッサが、インターネットを通じたリモートアクセスにより、世界中のどこにいる研究者にもアクセス可能になる予定だ。
誰でもが量子計算機を操作できる機会があるわけではないし、どのみち、最初の段階ではそうだ。 最初に、量子シミュレータにアクセスできるのは、公共機関の関係者だろう。(ユーザ・ガイドとマニュアルで原理を理解できる助けになる。)初心者の量子プログラマーでも一たび動くシミュレータを開発しさえすれば、本当のMcCoy上で実行できるよう提案を申請することができる。
プロジェクト・リーダーである Jeremy O’Brien 教授は次のように語っている。「この技術は我々の研究を加速する手助けをしてくれるし、これまで考えもしなかったようなことを実現させることも可能になります。すでに研究活動をしている最良の頭脳にとってだけではなく、次世代の才能たちにも開かれることで実現するかもしれないことを考えると本当に興奮してしまいます。英国科学連盟といっしょに活動し、この技術にアクセスできるよう学校を支援することで、量子コンピューティングに関する教育内容を提供できれば、信じられない成果がでてくるはずです。」
Qcloud コンピュータは、シリコン製チップを基盤に持つ。小さなワイヤーに流れる電流の代わりに、フォトンと呼ばれる光の量子状態を用いる。フォトンがチップを通過する時、一つに作用した動作が、他にも影響を与えるという意味で、お互いにもつれ合う。
ナノスケールという限界に近いプロセッサ製造技術と、来るべく攻撃に対応するための暗号技術を要する量子コンピューティングは、研究者や政府機関にとって大きな魅力になるだろう。
だが、このような黎明期の技術に多くを期待しすぎてはいけない。オンラインで使うことのできるのは、たかだか2量子ビット版だ。PCより早くはない、とプロジェクト・リーダーのO’Brienはいう。ブリストル大学の研究者たちは、6から8量子ビット版を使えるが、まだまだ開発途上なのである。
参加してみたいって?そういう方は、プロジェクトのアクセスポイントbristol.ac.uk/quantum-computingに行くといい。シミュレータは立ち上がっており動いている。9月20日以降であればリモートアクセスが可能になっているだろう。
TEDMEDに寄稿されたJeremy O’Brienのビデオでは、量子物理学の奇妙な振る舞いや健康管理面の領域での広い影響のことが語られている。