世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


10月 5, 2022

次世代スーパーコンピュータ「富岳」NEXTのフィジビリティースタディが始まる

NishiKatsuya

日本のトップスーパーコンピュータである「富岳」がデビューして2年が経過し、新型コロナ対策のシミュレーションなどで数々の成果をあげているのはすでに知られている。一方、文部科学省はすでに「富岳」の次のスーパーコンピュータの検討を開始しており、今年度「富岳」NEXTのためのフィジビリティスタディ(実行可能性、採算性などを調査する。FSと呼ばれる。)の公募を開始し、7月に採択された4つのチームを公表した。(応募は7件)このFSは2022年8月から開始され2023年度まで行われる。

採択された4つのチームは次のとおりである。全体の予算規模は4.5億円となっている。今回のFSでは「京」や「富岳」で指向してきた計算科学重視、国産重視とは少し路線が異なっているようだ。特に政府が進めているSociety 5.0を強く意識していることが伺える。

 

チーム

代表機関

システム研究調査チーム

理化学研究所

システム研究調査チーム

神戸大学

新計算原理調査研究チーム

慶應義塾大学

運用技術調査研究チーム

東京大学

 

システム調査研究チーム(代表機関:理化学研究所)

このチームは、「アーキテクチャ調査研究」、「システムソフトウェア・ライブラリ調査研究」および「アプリケーション調査研究」の3つのグループに分かれている。「アーキテクチャ調査研究」グループは理研、富士通、AMD、インテルから構成されているところに注目される。ARMは入っていない。「システムソフトウェア・ライブラリ調査研究」グループは理研、東北大学、筑波大学、大阪大学、九州大学である。「アプリケーション調査研究」は北海道大学、横浜市立大学、物質・材料研究機構、海洋研究開発機構など8つの機関から構成されている。

このシステム調査研究チームにはこの他に「協力機関」としてDDN、NVIDIA、ヒューレットパッカードなども参加している。事業代表者は慶應義塾大学教授で理研計算科学研究センターの「次世代高性能アーキテクチャ研究チーム」のチームリーダーを兼任している近藤正章氏である。2022年度の研究費総額は1億5千万円。

システム調査研究チーム(代表機関:神戸大学)

このFSプロジェクトにもうひとつ同じ「システム調査研究」チームがある。代表機関は神戸大学で、事業代表者は重力多体問題専用計算機GRAPEの開発で著名な牧野淳一郎教授である。さらにチームの中核にはPreferred Networks社が入っている。Preferred Networks社が開発しているAI用のプロセッサである「MN-Core」は牧野教授のとの共同研究で開発されたものだ。そうなると勝手に想像してしまうが、このチームの目的はメニーコアプロセッサを中心としたAI用のアーキテクチャを開発することが目的だと伺える。それに対して理研が代表機関であるシステム調査研究チームは恐らく、これまでの汎用プロセッサを中心とした次世代メニーコアプロセッサの開発に向かうことが推測できる。

このチームのメンバーには東京大学、国立情報学研究所、会津大学、松江高専、順天堂大学などが入っている。因みに順天堂大学は2023年度に健康データサイエンス学部を開設する計画で、「京」コンピュータの開発携わった姫野龍太郎氏が教授として在籍している。2022年度の研究費総額は1億5千万円。

新計算原理調査研究チーム(代表機関:慶應技術大学)

このチームの目的は次のように記されている、「次期フラグシップシステムと、量子コンピュータをはじめとする新たな計算原理(ニューロコンピュータ等)の連携について実現可能性を検討する」とある。代表機関は慶應義塾大学でメンバーは理研、九州大学、東北大学、日本電気、そして協力機関として富士通がいる。これらのメンバーはすべて量子コンピューティング技術を開発している機関であるので、チームの目的にかなった面子であろう。特に慶應義塾大学はIBM社との連携で量子コンピューティングセンターを有している。

このチームの事業代表者は慶應義塾大学理工学部の天野英晴教授である。天野教授は計算機アーキテクチャでは著名な研究者で、古くから動的再構成可能なマルチコア型の計算機の開発を行っている。ここで興味深いのは天野教授は、理研が代表機関を務める「システム調査研究チーム」の事業代表者である近藤氏と慶應義塾大学で共同で研究室を運営するほどの仲であることだ。今後どのようなシナジー効果が表れるのか期待される。2022年度の研究費は5千万円。

運用技術調査研究チーム(代表機関:東京大学)

「運用技術調査研究チーム」の目的は、「デジタルツイン技術の進化を支え、世界をリードする研究成果の創出やSociety5.0の推進、SDGsの達成に貢献するプラットフォームとして、運用技術に関して、評価指標として考慮すべき項目の検討を行い、達成すべき目標とその優先順位を提案する」と記されている。代表機関は東京大学で事業代表者は情報基盤センターの塙敏博教授である。チームのメンバーは東京大学の他に、理研、東京工業大学、国立情報学研究所で、協力機関として名古屋大学、大阪大学、九州大学、そして産業技術総合研究所となっている。2022年度の研究費は1億円。

以上の4チームで「富岳」に続く次世代フラグシップ計算機の方向性を模索していく。このフィジビリティスタディの結果を以て、2023年度から実際の開発を行うかどうかが決定されるそうだ。今後の各チームの動向が注目される。