世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


7月 30, 2015

【リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(1)】

工藤 啓治

設計シミュレーションはいわば、仮想試作と仮想実験の世界をつくることです。そして、ほとんどの企業の開発目標には、試作削減、一発試作、試作レスと言った言葉が並びます。コストを下げ、開発期間を短くし、試作品の品質を上げるのに、”会社として”効果があるからです。

一方では、個々の設計者やエンジニアにとっては、直接モノに触れ、試す機会が減ることでもあります。経験不足という意味で個人の技術品質が下がっていくという矛盾を生じさせているわけです。お客様の声として、”最近の設計者はモノを知らない”、”解析結果を鵜呑みにしてしまう”等々よく聞く話ですね。会社としてはバーチャル化を進める一方で、設計者や解析担当者にはモノに触れることを求めるという厄介な状況を、うまいこと解決する方策はないものでしょうか。そのことを語る前に、シミュレーション技術がどのように活用されていくべきかを、ライフサイクル的に眺めて見ましょう。これからのことも含めた数十年のライフサイクルを考える必要があるでしょう。

20150730-J1

• 開発期
ものと体験しながら、シミュレーション技術を構築する時代
試作・実験が主でシミュレーションは補佐的
• 発展期
ものとの体験が減り、シミュレーション技術を活用する時代
シミュレーションが主で、実験試作で検証
• 高度期
シミュレーション技術でものを体験する時代
リアルとバーチャルの垣根が無くなる世界

 

シミュレーションを適用するには必ず、「開発期」を通過する必要があります。この期間は、シミュレーション精度を高め、試作・実験から置き換えるようになるための基盤技術を開発する時期ですから、モノにも十分触れながら、たくさんの失敗を経験し、シミュレーションを理解することも求められます。今日実用化されている、多くのシミュレーション技術を立ち上げてきたのは、この時期で仕事をされてきたシニア世代の方々です。リアルの重要性とバーチャルの価値の両方をバランスよく経験するという、今日の状況からみると実に恵まれた時代だったのではないか、実に羨ましく思います。

「開発期」を体験してきた方々から見ると、「発展期」はその成果であるとともに、モノを知らない世代が増えてきていると映るのも当然のことかと思うのです。そういった矛盾を抱えているという意味では、「発展期」は、来るべき「高度期」に向けた過度期にあるという見方もできるでしょう。ですので、来るべき「高度期」のあるべき姿を想定してその方向を目指すことが重要なのです。
次回は、「高度期」について語ってみたいと思います。
-つづく-

*本記事は、Facebookページ「デザイン&シミュレーション倶楽部」と提携して転載されております。