セレブラス社、分子動力学シミュレーションで毎秒110万回の新記録を樹立
Doug Eadline オリジナル記事「Cerebras Sets New Record in Molecular Dynamics at 1.1M Simulations per Second」

ウェハースケール処理のパイオニアであるセレブラス社は、サンディア国立研究所、ローレンス・リバモア国立研究所、ロスアラモス国立研究所の研究者と共同で、分子動力学(MD)シミュレーションにおいて、また新たな世界記録と重要な進歩を達成した。この分野の歴史上初めて、研究者は1秒あたり100万以上のシミュレーションステップを達成した。セレブラス社のウエハースケールエンジン1台で1秒あたり110万ステップ以上を達成し、これは世界トップクラスのスーパーコンピュータ「Frontier」の748倍の速さである。
さらに、セレブラス社は分子動力学専用の世界トップクラスのスーパーコンピュータであるAnton 3を上回る性能を達成した。Anton 3は512個の専用プロセッサと400キロワットの電力を使用している。それに対し、セレブラス社のシステムは1つのアクセラレータと7%の電力で、Anton 3を20%上回る性能を達成した。
![]() |
|
「この新しい世界記録は、科学者が毎日、GPUベースのシミュレーション作業を2年分こなせることを意味します。これにより、分子シミュレーションから得られるイノベーションの速度が大幅に加速されるでしょう」と、セレブラス・システムズ社の共同創設者であり、先進技術部門のチーフアーキテクトであるマイケル・ジェームズ氏は述べた。「この重要な進歩により、物質の構造と機能に関する知見が得られるでしょう。私たちの研究を生体分子にまで拡大すれば、タンパク質の折りたたみ、医療、医薬品開発の分野で新たな可能性が開けるでしょう。」
スーパーコンピューティングのパフォーマンスは、ウィーク・スケーリングまたはストロング・スケーリングによって達成できる。ウィーク・スケーリングはシミュレーションの規模を拡大し、ストロング・スケーリングは速度を向上させる。既存のスーパーコンピュータの設計では、シミュレーションの規模を同じ速度で拡大するために多くのGPUを使用している。これに対し、セレブラス社はストロング・スケーリングを実現している。つまり、シミュレーション速度を現在の主流のスーパーコンピュータの数百倍に高速化しているのだ。高速化により、科学者はより長い時間、材料のシミュレーションを行うことができ、その将来を効果的に予測することができる。
ストロング・スケーリングなしでは、既存のスーパーコンピュータは原子レベルでの物質のシミュレーションを数マイクロ秒間行うのが限界であった。セレブラス社と米国国立研究所の科学者による今回の画期的な成果により、研究者はミリ秒単位の時間軸で重要な物質を調査する新たな科学的手段を手に入れ、現在の1000倍の解像度で物質を観察することが可能になる。
「NNSA研究所とセレブラス社の連携は、エクサスケール・スーパーコンピュータを2025年までに40倍高速化することを目指す先進メモリ技術(AMT)プログラムの一環です。セレブラス社の現在展開中のウェハースケールコンピューターにより、チームは材料科学におけるこの画期的な進歩と、AMTプログラムの目標を4倍以上上回る高速化を達成しました」と、技術スタッフの特別研究員であり、AMTプログラムのリーダーであるジェームズ・H・ラロスIII氏は述べた。「この経験は、今後のプログラムへの影響と科学的進歩の可能性を大いに期待させるものです。」
長時間のシミュレーションにより、科学者はこれまでアクセスできなかったさまざまな領域の現象を探索できるようになる。
- 材料科学者は、金属における結晶粒界の進化など、複雑な材料の長期的な挙動を研究し、より強靭で耐久性のある材料の開発につなげることができる。
- 製薬研究者は、生理学的に関連性の高い時間軸でタンパク質の折りたたみや薬物標的の相互作用をシミュレーションし、救命治療の発見を加速させることができる。
- 再生可能エネルギーの専門家は、原子レベルのプロセスを長時間にわたってシミュレーションすることで、触媒反応を最適化し、より効率的なエネルギー貯蔵システムを設計することができる。
最近、サンディア国立研究所は、将来のAIワークロード用に最先端のセレブラス社CS-3テストベッドを導入したことを発表した。
この研究は、ACMゴードン・ベル賞の最終選考に残っている。この分子動力学シミュレーションに関する詳細は、Arxivに掲載されている論文を参照されたい。