IBM、カーボンナノチューブ・トランジスタのブレークスルーを報告
John Russell

おそらくムーアの法則はまだ運命づけられていないようだ。多分。IBMリサーチ(NYSE: IBM)は、低く、サイズに依存しない抵抗を示す小さな(~9nm)接合点を持ったカーボンナノチューブのトランジスタを作成する技術をScience誌の論文で報告した。これは現在の限界を超えてトランジスタのサイズを縮小する大きなハードルを克服するものだ。
「恐らくこのように小さく、低抵抗な接合点を持ったカーボンナノチューブのトランジスタを披露したのは初めてとことだと思います。」と、IBMリサーチのナノスケール科学技術グループのマネージャでこの論文(End-bonded contacts for carbon nanotube transistors with low, size-independent resistance)の著者であるShu-Jen Hanは語っている。
「これはムーアの法則を延長するのに非常に重要なことです。」と彼は続けた。「我々は皆、カーボンナノチューブが優れた電気特性を持っていることを知っています。キャリアーはカーボンナノチューブの中でシリコンよりもより速く動くのです。ですので、IBMを含む我々は皆、興味を持っているのです。大きな課題は接合点のサイズです。それはチャネルよりもトランジスタを縮小する努力において、もっと重要であると今は私は主張しています。」
論文の要約の一部を示す。
「カーボンナノチューブは10ナノメートル以下の高性能なチャネルを提供しますが、シリコンにおいてはサイズの減少による接合点の抵抗の増大は主要な性能障害となります。我々は従来のサイド結合または面接触方式のスケーリングの限界を克服するために、大きさに依存しない接触抵抗をもたらすエンド圧着結合方式による単層カーボンナノチューブ(SWNT)トランジスタ技術を報告しました。高性能SWNTトランジスタはサブ10ナノメートルの接触長を用いて製造され、デバイス抵抗が36キロオーム以下で、オン電流がチューブあたり15マイクロアンペア以上を示しました。炭化物を形成するSWNTでモリブデンの反応により形成されたp型エンド圧着はまた、全くショットキー障壁を示しませんでした。この戦略は、今後、最終的にスケーリングされたデバイス技術を有効にする高性能SWNTトランジスタを約束します。」
この夏の初めに、IBMは7ナノメートルノードのシリコン・テスト・チップを公表してシリコン技術の限界を押し上げ、IBMのシステムとIT産業におけるさらなるイノベーションを確保している。従来のシリコンに取って代わるカーボンナノチューブの研究を進めることで、IBMはポストシリコンの未来への道を開くことを望んでされており、2014年7月に30億ドルの研究開発投資を行うことを公表している。
「これらのチップの技術革新は、クラウド・コンピューティング、モノのインターネット、およびビッグデータの新たな需要を満たすのに必要です。」とIBMリサーチの科学技術担当副社長であるDario Gilは述べている。「技術がシリコンの物理限界に近づくにつれて、コグニティブ・コンピューティングの時代を推進する先進的な技術を提供するために、新素材や回路アーキテクチャを用意しないとならないのです。このブレークスルーは、カーボンナノチューブで作られたコンピュータ・チップが業界が考えているよりも早い将来にシステムを動かすことができるようになることを示したのです。」
予想よりも早いことは直ぐという意味である必要はない。Hanはすべての問題を解決するのに10年くらいかかると言っている。
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出典:IBM |
「これは重要な進歩ですが、ナノチューブを精製する方法や適切にそれを配置する方法のような解決しなければならない他の多くの課題があり、我々はまたそこにも良い進歩がありますが、新技術について話す際には、多くのことをしなければなりません。人はこの技術を素材とデバイスの2つの部分に分離しがちです。接合点のサイズを解決することはおそらくデバイス側の課題です。素材側にはまだ多くの問題があるのです。」とHanは語った。
実際に論文は次のように指摘している、「我々はp型エンド圧着結合を用いてpチャネルのSWNTトランジスタを実証しただけなのです。十分に低い仕事関数を持つ金属が炭素と反応するよりも最初に酸化する傾向があるように、カーバイド形成アプローチを使ってエレクトロンが直接SWNTの伝導帯に注入されるので、エンド圧着n型結合をSWNTに形成するのは難しいでしょう。しかし、ソース電極近傍の静電ドーピングによる高い仕事関数の金属にエンド圧着結合していても、nチャネルのSWNTデバイスの動作を実現することはまだ可能です。」
それはさておき、これは印象的な進歩である。数十年間のプロセッサ性能の向上の後に、シリコンMOSFETがその物理限界に近づくにつれて、クロック・レートは3-5GHzのレンジに留まっている。カーボンナノチューブは半導体におけるシリコンの最も確約された代替物のひとつである。IBMは以前、カーボンナノチューブのトランジスタが10ナノメートル以下のチャネルの大きさで素晴らしいスイッチとして機能できることを示した。これは人間の髪の毛1本よりも10,000倍細く、現在の最先端のシリコン技術の半分のサイズに等しい。
「単層カーボンナノチューブ(SWNT)は、超スケールのFET用のチャネル素材として最適な性能を潜在的に提供します。」とHanと共著者は書いている。「SWNTの飽和速度はシリコンよりも数倍高速で、SWNTの固有の薄さ(直径で1nm以下)は超短いLch(チャネル長)を持つデバイスにために必要とされる優れた静電的制御を提供します。実際に、9nmのLchを持ったSWNTトランジスタは同じようなLchを持つ最高のシリコンMOSFETを凌駕します。」
ウルトラスケールのカーボンナノチューブ・トランジスタ技術への主な障壁は低抵抗でスケーラブルな接合を形成することだ。最近の研究はこれを実現している。初期の研究は再度圧着型接合(ナノチューブのチャネルの長さに沿って堆積された導電金属)と呼ばれるものに依存しており、接触面積が小さくなると抵抗が大きくなるという、接触面積抵抗の挙動を示していた。
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図はサイド圧着型接合(左)でSWNTが部分的にモリブデン(Mo)でカバーされているものと、エンド圧着型接合(右)で、最初はSWNTの部分をカバー していた炭素原子がモリブデンMo電極に出て均一に拡散する一方で、SWNTがカーバイド結合を介してバルク・モリブデン電極に接続されるのを示してい る。出典:IBM |
IBMの研究グループはエンド圧着型接合の開発でこの課題を克服した。「SWNTチャネルが、ナノチューブと堆積されたモリブデン(Mo)電極間の固層反応を通して、金属の電極で出し抜けぬに終わります。キャリアの注入領域は2nm2以内に制限されていますが、正孔輸送のための障壁は観測されておらず、抵抗も低いままでした。」
「どの高度なトランジスタ技術において、トランジスタサイズの縮小による接合抵抗の増加は大きな性能ボトルネックとなります。」とHanは語っている。「我々の新しいアプローチはカーボンナノチューブの端から接合を作り出すことで、これはデバイス性能の劣化を示すことがありませんでした。これはカーボンナノチューブの目標に1歩近づくものです。」
ムーアの法則を延長するのに役立つだけでなく、フレキシブルエレクトロニクスや透明エレクトロニクスのベース素材のように、カーボンナノチューブ・トランジスタのための多くの興味深いアプリケーションをHanは予測している。