世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


8月 4, 2015

Green500発表!日本のExaScalerがトップ3を独占

HPCwire Japan

年に2回、世界のスーパーコンピュータランキングを競うTOP500に合わせて行われるエネルギー効率のランキングであるGreen500が7月31日にようやく発表された。今回の目玉は日本の国産であるPEZY Computing社およびExaScaler社の共同開発であるExaScalerシステムがどの程度上位に入るかが注目されていたが、結果としては1位から3位を独占することとなった。

今回1位になったのは理研和光に入っているのは最近インストールされたShoubu(菖蒲)で、ワット当たり7GFLOPSを超え断トツで首位となった。前回1位であったドイツの5.271 GFLOPS/ワットと比べると大きな飛躍である。また2位および3位となった高エネルギー加速器研究機構に設置されている同社のSuiren Blue(青睡蓮)およびSuiren(睡蓮)もそれぞれワット当たり6.8GFLOPS、6.2GFLOPSと高い値となっている。

green500-201506

8月3日に別府で開催された当社主催の「HPCwire Japan Day 2015 Summer」において、ExaScaler社のCTOである鳥居淳氏が「独自メニーコアプロセッサと液浸冷却技術によるスーパーコンピュータExaScaler-1の開発と今後の方向性」と題してこれまでの開発と今後の計画について講演を行った。

鳥居氏はまずExaScaler社を含むPEZYグループ全体の構成を説明した。PEZYグループはメニーコアチップを開発するPEZY Computing社、液浸冷却技術の開発とシステム開発を行うExaScaler社、そして高速メモリ開発を行うUltraMemory社で構成されており、3社の技術を統合してスーパーコンピュータの開発を行っているとのことだ。

今回Green500で首位をとった「菖蒲」システムであるExaScaler-1.4については、TOP500では412.67TFLOPSで160位となっているが実は本来は1PFLOPSを超える予定であったそうだ。性能を上げることができなかった理由としては、初の大規模システムとなったため、セットアップに時間を要し、計測のための時間に余裕がなかったことが主な要因だったそうで、当初の予定であったクロック700MHzに対して、計測時には500MHzで計測したことと、全ノードの6割程度までしか稼動させることができなかったそうだ。次回のTOP500でどの程度まで性能を上げることができるか注目される。

また、メニーコアプロセッサについてはすでに次世代のPEZY-SC2の開発に着手していることを公表した。PEZY-SC2が現在のPEZY-SCのコア数で4倍の4,096コアとなり、動作周波数も733MHzから1GHzに上がる予定だ。そのため、演算性能は倍制度浮動小数点演算において現状の1.5TFLOPSから5倍以上の8.2TFLOPSとなる。

冷却技術についても引き続き開発を継続し、自然放熱機構を利用してPUEを1に近づける努力を続ける。また、今後のスーパーコンピュータの問題となるメモリについては、UltraMemory社が最近獲得した慶応大学で開発された「磁界結合技術」を使って低消費電力で超高速な帯域幅を持ったメモリを使って、独自のメニーコアプロセッサを独自の技術で接続するそうだ。開発時期については公表されていない。

ハードウェア的には非常に速い開発で進んでいるが、やはりソフトウェア環境はまだまだであると、鳥居氏は考えている。現在提供されているソフトウェア開発環境はOpenCLをベースとしたAPIと、Cコンパイラのみである。スーパーコンピュータで良く利用されるFORTRANがサポートされていないのが弱点になっているようだ。アプリケーションソフトウェアを含んだ今後のソフトウェア開発については同社のみならず、パートナーとの協調が必要となるかもしれないと思われる。

従来の富士通、日本電気、日立を除いて唯一の国産スーパーコンピュータのベンチャー企業が成長していくのを見るのは非常に興味深い。しかし、製品とは顧客があってのものである。やはりスーパーコンピュータの開発には利用者となる顧客とメーカーの二人三脚の体制を組む必要があるのではないだろうか。現在の高エネルギー加速器研究機構と理化学研究所がその一歩となるのは間違いない。

最後に、PEZYグループでは開発の人材が不足しているそうで、一緒にスーパーコンピュータの開発をしたいと思う人は同社に問い合わせて欲しいとのことだ。