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3月 26, 2021

カナダ、量子技術促進のためにD-Waveに4,000万ドル投資へ

HPCwire Japan

Tiffany Trader

カナダ政府は、1億2,000万ドルに及ぶ量子コンピューティング技術への投資の一環として、4,000万ドルを量子の重鎮であるD-Wave Systems社に拠出することを発表した。カナダ政府は、このような技術が、経済成長と雇用創出を促進し、グローバル市場での技術的・戦略的優位性を提供するために不可欠であると考えている。

 
  D-Wave社の主力システム 「Advantage」
   

D-Wave社は、古典的なコンピュータに対する量子アプローチの優位性をさらに高めるために、より強力な量子プロセッサを搭載した次世代システムの開発に資金を投入する。また、今回の資金は、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビーを拠点とする同社のクラウドベースのサービスへのアクセスを向上させるのにも役立つ。クラウドベースのサービスは、自社でハードウェアを購入することができないカナダの中小企業にとって、特に有用であると考えられている。

1999年に設立されたD-Wave Systems社は、特定のクラスの最適化問題を解決する断熱アニーリング法により、早くから量子コンピューティングの分野に参入していた。同社は2011年に、128量子ビットのチップセットをベースにした最初の量子システムをロッキード・マーティン社に販売している。2018年、D-Wave社は、クラウドサービス「Leap」の開始により、同社の量子ハードウェアおよびソフトウェアツールへのアクセスをクラウドで提供し始めた。現在のLeapでは、D-Wave 2000Qシステムのほか、2020年9月に発売されるD-Waveの5000量子ビットシステム「Advantage」へのリアルタイムアクセスを提供している。D-Wave社によると、Advantageの量子システムは、5,000個以上の量子ビットと15ウェイの量子ビット接続を売り物にしており、また、最大100万変数の問題を実行できる拡張されたハイブリッドソルバーサービスも提供している。

今回発表された資金調達プロジェクトの一環として、D-Wave社は、研究開発に4億8,000万ドル以上を投資し、200名の雇用を創出・維持し、年間最大10名のCo-op学生を雇用することに合意した。また、このプロジェクトは、カナダの量子コンピューティング・エコシステム全体のコラボレーションを促進し、その成長と繁栄を支援する。

今回の資金調達の大部分は、カナダ全土で質の高いビジネス投資を支援するカナダの戦略的革新基金(SIF)を通じて行われる。D-Wave Systems社のCEOであるAlan Baratzは、「D-Waveは、戦略的革新基金が投資した技術の中に自社の技術が含まれていることを誇りに思っています。カナダ政府の支援により、D-Wave社は、カナダのイノベーションの力を示す世界的な量子エコシステムを構築していきます」と述べている。

「我々は、ヘルスケア、材料科学、財務分析、製造、物流などの多様な分野に早期の量子ハイブリッド価値をもたらすことに注力しており、新たな革新的なアーキテクチャとデザインによる量子コンピューティングシステムとサービスのプロトタイピング、開発、本格的な実装と展開に引き続き注力していきます。」

D-Wave社は株式非公開で、ベンチャー企業が出資している。Baratzは、長年D-WaveのCEOを務めたVern Brownellの後任として、2020年1月にCEOに就任した。

近年、D-Waveは、IBM、Google、Microsoft、Intelなどの大手ハイテク企業だけでなく、急増する量子スタートアップ企業との競争激化に直面している。

先月、D-Wave社の科学者たちは、Googleの科学者たちと共同で、D-Wave社の特別目的プロセッサ(2000Q)で実行したシミュレーションが、従来のコンピューティングハードウェアと比較して300万倍の速度を達成したという研究結果を『Nature』誌に発表した。D-Wave社は、2016年のノーベル物理学賞の背景にあるトポロジカル現象のシミュレーションという実用的なアプリケーションで成果を上げたと報告している