世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


2月 12, 2015

理研、シャンパンでシミュレーションの新年を告げる

HPCwire Japan

Chelsea Lang
(訳注:この記事は2015年1月7日に発行されたものです)

元日から1週間経った今日、2015年のお祝いを最後に思い出させるようにシャンパンボトルがまだリサイクル箱に多く並んでいる。しかし、ある物理学者にとっては、50年以上にわたる流体力学の理論を確認するのに役立ったために、今年のシャンパンは特に意味深いものがある。

シャンパンの「気泡は私達の毎日の生活のなかではとても一般的なものです。」とフランスのランス大学の物理学者であるGérard Liger-Belairは語っている。「これらは多くの自然の中だけでなく、産業プロセスの中でも重要な役割を演じています。- 物理、化学・機械工学、海洋学、地球物理学、テクノロジーや医学の中でさえも。それにも関わらす、その挙動は驚くべきことに、そして多くの場合、いまだ完全には理解されていないのです。」

主な謎は、どのくらい速く液体の中で異なる大きさの気泡が形成されるかに関する中心を解くことであり、それによって、エンジニアが蒸気動力炉用のより効率の高いボイラーを設計する助けになることができるのだ。

この研究の基礎は19世紀のドイツの化学者Wilhelm Ostwaldの研究から始まっており、彼は溶液中の小さな粒子がエネルギー的により安定している大きい粒子に道を譲ることを観察したのだ。

「シャンパンボトルのコルクを抜いた瞬間に多くの気泡が現れた後に、気泡の数は減少し始めます。」と、研究の共著者で東京大学の物理学者である渡辺宙志助教は語っており、「大きい気泡は小さい気泡を食べてさらに大きくなり、そして最終的に1個だけの気泡が生き残るのです。」

同様にこの原理は、再凍結したアイスクリームが何故最初の滑らかな質感を失うのか説明している。 – 混合物が溶融し固まる際に、我々が冷凍焼けを連想する大きな氷の結晶を自然と好むのだ。

しかしOstwaldの研究を構築するために、研究者達は台所から出て発電所に行ったのだ。そこでは気泡が熱交換を減少させ、金属表面を浸食することが問題を引き起こしている。そこで、渡辺助教の研究ではいつの日かより良い機器を設計することを助けたいのだが、気泡の形成を研究して理解するのは、かなりの数の気泡が存在するために特に難しい。

最初の一歩を踏み出すには、渡辺助教と九州大学と理化学研究所の研究室の仲間達は日本のトップクラスの京スーパーコンピュータに数百万の仮想分子をシミュレートさせ、密閉された環境でどのくらい速く気泡が形成されるか研究した。

百万ノード時間と7億個のシミュレートされた分子で、この科学者達はどのように気泡が一斉に進化するかを観察することができた。このシミュレーションのスケールダウン版が以下に示されており、いかに多くの小さい気泡が最後にひとつに統合されるかが示している:

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写真: 稲岡創氏/理化学研究所

渡辺助教と彼のチームにとって、気泡の挙動がLifshitz-Slyozov-Wagner (LSW)理論と呼ばれる1960年代の数学的フレームワークによってモデル化されているのを確認するのにこのモデルは役立った。

気泡が最初に形成されることを許可された瞬間に、(シャンパンのコルクを抜いた時ように) 気泡形成率は液体分子が気体になる事ができる速度で制限されているが、気体がさらに形成され、気泡が大きくなるほど、液体が気泡表面に辿り着くことができる速度が支配力となる、とこの理論は説明している。

今のところ、この研究がより良いボイラーの設計を助ける準備はできていない、と渡辺助教は言う。「…しかしこれは泡が分子レベルから形成される間に、どのように気泡が現れ、そしてどのように気泡が相互作用し合うか理解する最初のステップです。」

この結果は化学物理学会誌の2014年12月号に掲載される。