世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


6月 1, 2015

ISC基調講演プレビュー:メルセデス・ベンツがHPCを使う理由

HPCwire Japan

Nages Sieslack

品質と安全性で世界的に有名なダイムラーのメルセデス・ベンツ車は、また非常に革新的でもあります。今年のISC High Performanceにおいて、「ハイパフォーマンス・コンピューティング、高効率開発、メルセデス・ベンツ車」と題するオープニングの基調講演を行う予定のNVH CAE部門の責任者であるJürgen Kohler博士にお話しを伺いました。

ISC:メルセデス・ベンツは、車を設計するための高性能コンピューティングをいつ頃採用したのでしょうか? そして、何がダイムラーをCAEおよびHPCベースのシミュレーションに向かわせたのでしょうか?

Kohler:メルセデス・ベンツは、まず研究開発におけるシミュレーション活動を1960年代に始めました。最初は、有限要素法のプログラムを社内で開発し、例えば、車両構造の弾性・静的計算に利用していました。後になってそれは初めて市場に提供された商用有限要素法プログラム、NASTRANに切り替えられました。現在では利用可能な様々なバージョンが存在し、私たちはNX NASTRANを使用しています。関連するすべての詳細設計を検討するために、より詳細なモデルが使用されるのに伴い、HPCへのアクセスは私たちにとって必須のものになりました。同時に解析結果が許容される時間内に手にできる事も必要でした。過去には、数日も待たなければならない時もありましたが、今では一晩待てばで結果を見ることができます。

ISC:シミュレーションの利用により、自動車の開発製造はどのように変化しましたか?

Kohler:所謂「デジタルプロトタイピング」が、メルセデス・ベンツの車開発に不可欠な要素になってから10年を越えました。複雑な車両設計は、正確かつ相補的な実験との緊密な連携作業を通して、シミュレーションツールの集中的な活用により達成できるという事を、会社は早くから認識していました。今日では、CAEは私たちにとって近代的な開発プロセスの不可欠な一部となっています。そしてそれは設計、実験、および試作とならんで必須の構成要素になっています。これは間違いなく、これまで以上に複雑な車の設計を、許容される時間内に、高い完成度で、かつ高価な試作段階なしで行う、という挑戦により引き起こされたものです。

ISC:メルセデス・ベンツが車両開発に使用している計算クラスタは、どれ程強力なものですか?

Kohler:計算モデルは、日々大きく複雑になっていきます。何故ならローカライズされた詳細情報を幾何学的および物理的にマッピングしようとするからです。このモデルの複雑化が、日々の開発作業におけるターンアラウンドタイムに影響を与えないように、コスト的に最適化された高性能コンピュータが設置され、これらの計算需要に対応しています。これがメルセデス・ベンツ車両開発が十分なメモリを備える多数のマルチCPU計算機から構成される大容量の計算クラスタを使用する理由です。例えば、NVH(騒音、振動、ハーシュネス)の解析では、30MDOFのマトリックスで8,000モードの計算を行うフルビークルの解析ジョブを一日あたり400本以上実行することができます。

ISC:車両の開発者はそのようなシステムへのアクセスする事によりは、より強力なコンピュータから何を得ることができるのでしょうか?

Kohler:得られたものは、もちろん、よりロバストなシミュレーション、より多くの最適化の実行、そしてより詳細なモデルです。メルセデス・ベンツ車両開発では、CAEエンジニアが車の開発プロセスのスケジュールに合わせて実施すべき分析作業を行うのに十分なコンピュータ能力へのアクセスを保証しています。計算は、主として社内のコスト的に最適化された、大容量のコンピュータ・クラスタ上で行われます。必要に応じて、外部HPC資源へのアクセスが可能です。

ISC:これらのシミュレーションに使用されるソフトウェアは、ISVから調達したものか、オープンソースに由来するものか、あるいは自社開発したものか、いずれでしょうか?

Kohler:使用している主なアプリケーションは、市販されている商用のものです。例えば、衝突解析にはLS-DYNA、NVHのためにはNX NASTRANとCDH/AMLS、CFDにはSTAR CCM+、シャーシシミュレーションにはLMS Virtual Labを使用しています。私たちは、アプリケーションに新機能を追加できるようにISVと密接な協力関係にあります。例えば私たちの使うモデルに新素材のデータの取り込みを行ったり、コードの効率化を進めています。さらにASCS(Automotive Simulation Center Stuttgart)では、経験豊富なISV、ハードウェアメーカー、エンジニアリング会社やHLRS(High Performance Computing Center Stuttgart)のような大学からのパートナーに加え、ポルシェやオペルのような他のOEMとも前競争的な研究で協力しあっています。私たちは20以上のパートナーと一緒に、よりロバストな衝突シミュレーション、燃焼の最適化、および電池の熱シミュレーションの手法を開発しています。

ISC:ドイツの技術力は、機械設計と力学に焦点を 当てられています。あなたのご意見では、これはドイツの強さなのでしょうか? それとも、電子工学とロボット工学に依存している日本から教訓を学ぶ必要があるのでしょうか?

Kohler:今年1月、ラスベガスでのコンシューマー・エレクトロニクス・ショーで、メルセデス・ベンツは最新のコンセプトカー「F 015 Luxury in Motion」を出展しました。ラスベガスを自動運転し、ショー会場に到着した自動運転車は多く観客の注目を集めました。私はさらなる教訓を学ぶ必要があるとは感じていません。私たちは、私たちの将来のため設定した野心的な目標を実現するために課された仕事を成し遂げなければなりません。