米国のスーパーコンピューティングのリーダー達が中国に立ち向かう
編集者注:米国政府の報告書である「米国のHPCにおけるリーダーシップ」は、「米国の積極的な行動がなければ、米国はHPCの自らの将来をコントロールできなくなるだろう。」と結論づけている。

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中国がTop500リストを通じてスーパーコンピューティングの意欲を証明し続けており、2020年までに他の世界のハイテクリーダーより1〜2年先駆けてエクサスケール・マシンを立ち上げるという野心的な計画を進展させている。米国からはこれに競争できる対抗策がでてきていない。多くの政府と業界の代表者は、世界のスーパーコンピューティング・パワーの中にある米国の立場について懸念を表明する(通常はオフレコ)が、 公式のルートから前向きの発言がでてこない。
NITRD(Networking and Information Technology Research and Development)プログラムによって出版された米国政府の報告書は、米国のスーパーコンピューティング競争力へのインパクトを与え、そして国家の経済的繁栄、科学的リーダーシップさらに国家の安全保障に対する影響を与えるグローバルな圧力の増大について、公然と話す新たな意欲をみせている。
この報告書は、2016年9月28-29日に開催されたDOE-NSA合同技術会議の結果をまとめたものである。その3ヶ月前(2016年6月)に中国のSunway TaihuLight(神威 太湖之光)が93ペタフロップスでTop500のトップを獲得した事を受けて、米国HP Cコミュニティの約60名の専門家とリーダーが集まり、米国の計画を評価を行った。私たちが知っているように、それはただの最新のショーであった。中国はすでに、Tianhe(天河)-2により、2013を年6月から2016年11月までの6回の繰り返しでTop500の首位の座を保持していた。現在、中国はTaihuLightを加えて、第1位と第2位を占め、その二つのシステムでTOP500の総FLOPS値の19%を提供している。米国、EU、日本の「実行アプリケーション性能」に焦点を当てて、中国のFLOPS中心のアプローチの有用性に疑問を投げかける議論は、有効かもしれないが、ひとつの論点に過ぎない。
中国のマシンは張り子のトラではない。レポートはこれについて明確に指摘している。
「TaihuLightは張り子のトラではない。 中国にとってTaihuLightは性能面における重要なステップアップである。Titan, Sequoia, Mira, Trinity (Haswell)など、今日DOEで利用可能な累計フロップス値よりも93ペタフロップスが大幅に大きい。さらに重要なことは、以前の中国HPCシステムではベンチマーク(LINPACKテスト)以外にみるべきものはなかったが、TaihuLightではリアルワールドのアプリケーションが大規模に実行され、最先端の研究に使用されている。今年、ゴードン・ベル賞(付録A参照)のファイナリスト6名のうち3名が中国人による取り組みであった。中国はこれまでファイナリストまで進んだことはなかった。」
報告書にはまた、会議の出席者は中国製プロセッサアーキテクチャとその革新的なデザインに感銘を受けたと、記されている。
Top500におけるシステムシェアと累積性能の両面で、もはや中国は米国と同水準にある。2016年以前には米国は1993年に始まったTop500ランキングにおいて明確なリードを持っていた。
報告書はこの感情を反映している:「これらの結果は、HPCにおいて中国が米国とほぼ同等の地位を得たことを示している。米国は、2015年7月に国家戦略コンピューティング・イニシアチブ(NSCI)を推進する大統領令において、HPCにおけるリーダーシップの地位を維持する意向を表明した。今その米国のリーダーシップは中国によって挑戦されることは明らかである。2012年版の外国HPC資産評価は、中国のHPC能力の積極的な発展、特に中国がこれらの分野で行っている投資の加速率を指摘していた。」
国家安全保障は優先課題だった。「HPCは、現代の兵器システムや国家安全保障システムの多くを設計、開発、分析する上で重要な役割を果たしている。」と報告書は述べ、「国家安全保障は最善のコンピューティングを必要としている。HPCにおけるリーダーシップの喪失は、我々の国家安全保障を大きく損なうだろう。」と報告書は結論付けている。
しかし、報告書の著者はまた、中国の動機についての思慮に富んだ見解を提供している。
参加者(特に産業界からの参加者)は、中国人研究者やスーパーコンピューティングセンターとの個人的な接触から、彼らはコンピューティングが第一義的に国を改善するための戦略的能力である、という考え方を示していることを強調した。十億もの人を貧困から救い出す為、より良い製品の製造そして橋梁や鉄道網を建設しようとしている企業を支援する為、世界のローコスト・メーカーの役割からの転換する為、そして「Made in China」から「Made by China」経済に移行させる為。
しかしそうは言っても、HPCシステムとコードを使用して高度な原子炉やジェットエンジンを構築する事に重点を置いていることから、ハイテク製造業でリーダーシップを発揮する積極的な計画が示唆されている。それは、米国経済の利益部門を弱体化させることに繋がる。そして、そのようなコードと科学的な試みは、多くの異なる兵器システムを設計するのに必要なツールの役割を果たすことができる。
提言
NSCI、そしてエクサスケール・コンピューティング・プログラム(Exascale Computing Program)の拡張が、世界経済、科学、軍事における競争力を確保する米国の計画の中心的要素である。また、 IARPAや他の機関が率いるポストムーアの法則の挑戦は、米国の戦略のもう一つの重要な要素である。
「一度失ったリーダーシップの位置を回復するには非常に費用がかかる。 HPCで米国のリーダーシップを維持するためには、HPCに優先的に取り組む米国政府の大幅な投資と行動が必要である。」と報告書は述べている。
さらに、
2012年版の外国HPC資産評価は、米国(減速)と中国(加速)の間での研究開発投資の相違を指摘していた。 NSCIの目標#1、#2、#3(報告書の付録Eを参照)は、今後30年以上にわたり健全なHPCエコシステムを支えるために必要なUS政府の投資を明らかにするものと見なすことができる。これらの投資の想定上のタイムラインは次のとおりである。
+ 現在から2025年まで – 米国政府の投資によって助成されたHPCエコシステムはエクサスケール・システムに到達する
+ 2025年〜2035年 – HPCエコシステムは、アーキテクチャーの革新に関して米国政府のリーダーシップを活用する(下記参照)
+ 2035年以降 – HPCエコシステムは、米国政府の「ポストムーアの法則」時代への投資により、持続する
米国のスーパーコンピューティングの専門家および関係者が「投資の急増」を呼び掛け、現状の資金調達水準が引き起こす成り行きに危惧を表明する一方で、トランプ政権は、右翼系シンクタンクであるHeritage財団の青写真に基づいて、DOEの予算を2008年レベルまでカットすることを提案している。新しいDOE長官である元テキサス州知事のRick Perry氏は、DOEのスーパーコンピューティングに対する支持を表明しているが、Heritage財団の計画を否認していない。
結論:「これらの投資が行われなければ、米国ではHPCの能力格差が出現し、10年以内に拡大する。」と同報告書は警告している。
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NSCIの目標(ソース)
1)政府関係のニーズを体現する種々のアプリケーションに対して、現在の10ペタフロップのシステムの100倍の性能を引き出すハードウェアとソフトウェアを統合したエクサスケール・コンピューティングシステムの提供を加速させる。
2)モデリングやシミュレーションに使用される技術基盤とデータ分析コンピューティングに使用される技術基盤との間の一貫性を向上させる。
3)今後15年間で、現在の半導体技術が限界に達しても、将来のHPCシステムを実現可能とする道筋を確立する(「ポスト・ムーアの法則の時代」)。
4)ネットワーク技術、ワークフロー、下方スケーリング、基礎的アルゴリズムとソフトウェア、アクセシビリティ、要員育成などの関連する要素を含む包括的アプローチを採用することにより、HPCエコシステム全体の能力と機能を向上させる。
5)研究開発の成果が最大限に米国政府と産業界および学術部門との間で共有できるように、永続的な官民協力体制を構築する。