世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


7月 2, 2013

弾道学を極めよ: スーパーコンピュータで宇宙船と防弾チョッキを守る科学者たち

HPCwire Japan

Alex Woodie

Texas Advanced Computing Center (TACC)の研究者たちは、宇宙船と搭乗者を防護するよりよい方策を探索することを目的として、高速衝突をシミュレーションするためにスーパーコンピュータを使っている。

20130702-TACC地球軌道に浮遊するデブリ(塵)のほとんどは、比較的小さな物体だ。ところが、秒速15kmもの高速で飛んでくるとなると、有人宇宙船や無人衛星にとっては、計り知れない脅威だ。すべての宇宙塵を無くすことは事実上無理であり、研究者たちは宇宙船や衛星を守る強固なシールドを作る方策を探している。

問題は、軌道上の塵の衝突が宇宙船にどのような影響を与えるか予測が困難なことだ。まず基本的な想定をするための実験データが多くない。NASAの研究者たちは、小さな物体(1cmほど)を秒速10kmまで加速させるガス銃を使うことができる。だが、野球ボール大(10cmほど)の21000個の浮遊物が、ほぼ秒速15kmで飛び交っている状況を、地球上に再現するのは物理学の限界を超えている。

さらに、軌道上での衝撃の速度ゆえに、大きな関心を払わなくてはいけないのが、”瞬間”的な衝撃から生じる膨大な熱だ。

研究者がスーパーコンピュータに頼る必要があるのは、この答えを得るためである。オースティンにあるテキサス大学機械工学科のエリック・ファレンショルド教授は、この軌道上の塵が宇宙船に打ち込まれる衝撃物理をシミュレーションするためのアルゴリズムを開発するチームを率いている。

ファレンショルド教授と彼のチームは、TACCのRanger、Lonestar、Stampedeと呼ばれる3つのスーパーコンピュータを使って、数百回もこのアルゴリズムを走らせた。そして、"弾道限界"と呼ばれる一連の曲線を生成した。これらの曲線は、宇宙船のシールドを構成するケブラー繊維、金属、ファイバーガラスをある特定の層構造にすれば、与えられた速度と角度で衝突する特定の大きさの物体を保護することができる、という結果をNASAに提供したのである。弾道限界曲線が超高速衝撃の動的現象を正しく捕捉していることを保証するために、実際のガス銃を使って検証された。

“我々は、実験を実施できる速度領域で我々の方法を検証した上で、今度はより高い速度で起こるであろうことを予測するために、シミュレーションを実施したのです。”と、ファレンショルド教授はTACCのWebサイトの最近の記事で語っている。“シミュレーションでしかできないことがあり、一方実験でしかできないこともあるのです。それらが一緒に力を合わせるときとき、設計エンジニアにとって大きな武器になります。

ファレンショルド教授と彼のチームは、同じアルゴリズムとモデルを使って、防弾チョッキへの弾丸衝撃のシミュレーションを行っている。海軍研究所の資金援助によるこの研究は、両方ともケブラー繊維を使っているという点で、宇宙船シールドの研究と同様の結果を得た。しかしながら、ファレンショルド教授によれば、防弾チョッキの研究を行うために、これまで誰もこのハイブリッド型の方法を採用していなかった。

TACCによれば、ファレンショルド・モデルは、物性の強度、柔性や熱特性といった性能について説明し、繊維型防護システムの多層間の複雑な相互作用を正しく表現している。

“繊維型モデルにハイブリッド技術を適用すればうまくいくのです。”とファレンショルド教授は述べている。“繊維バリアは、宇宙船シールドのように非常に高い速度で撃ち込まれるとき、瞬間型の衝撃となり、機械特性と同じぐらい熱特性が重要になるのです。“