世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


11月 13, 2013

HPCが医療物理学を促進

HPCwire Japan

Tiffany Trader

医療の領域に物理学を適用しようとする場合、臨床的な課題への関連性でみると、二つの分野、画像診断と放射能治療がある。最近のアルゼンチンからの研究論文は、いかにこれらの分野がHPCの恩恵を受けているかを示している。

画像診断と放射能治療は、両方ともコンピュータ性能に大きく依存している。理想的には、計算処理はリアルタイムであるべきだし、患者の利益をほぼリアルタイムに近い方が望ましい、研究者は指摘する。

より高速なCPUの登場により計算時間が短くなる一方、待ち時間にはまだ課題が多いのが実情だ。診断画像修正、内部線量計算、放射線治療計画においては、これらのプロセスを高速化することが、極めて重要である。"生活の質向上が究極の目的であるという意味で患者のためであることはもちろんのこと、病院の多忙な専門職務環境を最適にするためにも"である。

過去数年に渡って、マルチコアやGPUを活用した計算性能の向上により、医療物理学など多くの技術計算の領域が促進されてきた。この研究論文は、医療物理学がHPC、特にGPUコンピューティングの進展により恩恵を蒙ってきた例を調査している。

著者たちは、GPUコアでの並列計算のちょうど良い題材である画像処理プロセス、画像分割と画像登録という二つの典型的な研究の方向性について述べている。

一般的な画像処理に該当する画像分割は、与えられたデータ・セットの異なる構成要素や組織を特定したり詳しく分類するための処理である。生物医学画像の場合には、この特定プロセスは診断と治療のどちらにとっても、鍵を握る要素である。著者たちによれば、GPUに画像分割アルゴリズムを搭載することで、CPU一個に最適化されたコードに比べて15倍も高速化するという目覚ましい結果が得られることがわかった。

画像登録と呼ばれる二番目の処理は、二つ以上のデータ・セットを時空間的に整合させることを目的とする。この技術は様々な場面で使われる。異なる撮影手段による画像を比較した後で、診断の強度を改善したり、病後診察や放射線治療計画の支援などを目的とする。

とても複雑なプロセスなので、512x512x50ボクセルの二つのデータセットを画像登録するアルゴリズムは、30-40分のCPU時間を要する。このアルゴリズムは階層構造型のスキームを用いているため、著者たちは並列計算を行えば大きな効果が得られると確信している。

放射線治療はこの論文で調査された二番目の領域である。“放射線治療において、GPUプログラミングが大きな影響を及ぼす主な領域は、イオン化された放射線による照射量の計算や先端的な手法に基づく最適化アルゴリズムの活用です。”と、著者らは述べている。

照射量を計算するには異なる方法がある。ペンシル・ビーム・アルゴリズムと呼ばれる2D解法と畳み込み/重ね合わせとして知られる3Dアルゴリズムである。著者らによれば、他の研究グループが、GPU処理による200-400倍の高速化を図るために、ペンシル・ビーム・アルゴリズムと畳み込み/重ね合わせ解法の再定式化を行った。

著者の地元の施設である Fundación Escuela de Medicina Nuclear de Mendozaで、彼らはこの技術をGPUの高速化能力で、洗練させていく努力を続けている。モンテカルロ法のようなアルゴリズムが並列計算にとって理想的なのだが、本手法はそのアルゴリズムの複雑さのため高速性に限界が生じるのだ。

この仕事のカギになる部分は、腫瘍に照射すべき放射線量とその周囲を取り囲む健康な組織へ照射される線量との最適バランスを導く処置計画を立てることである。