Titan、分子動力学による発見を拡大
Tiffany Trader

Oak Ridge National Laboratory (ORNL) とJoint Institute for Computational Sciences (JICS:University of Tennessee (UT)とORNLの共同研究所) の研究者が、スーパーコンピューティングのパワーのおかげで、細胞の挙動を制御する受容体の分子「スイッチ」を発見した。細胞の挙動を制御する基本分子スイッチのさらに詳細なシミュレーションを行い、その理解を深めるために、科学者たちは、オークリッジ リーダーシップ コンピューティング施設(OLCF)に設置された27ペタフロップスのスーパーコンピュータTitanを乗っ取った。
この研究の詳細は、「Nature Communications」ジャーナルに発表された。OLCFのWEBサイトの特集記事によると、細胞の挙動を制御できる事は、疾病治療に貢献できる大きな可能性を秘めている。このように細胞の活動や成長の機能を制御することができたら、次のステップは病気の原因である細胞の武装解除を行う事や特定の病原体を攻撃する細胞の製造である。
最初の発見は、 高速分子動力学シミュレーションを実行するためD.E. Shaw Researchにより設計され、構築された特殊な超並列スーパーコンピュータAntonの計算から生まれた。チームメンバーは、分子スイッチを識別するためにまず14万原子からなる分子をシミュレートした。それは、大腸菌の運動を制御する同一のレセプター分子二つからなる複合体(Tsrレセプター二量体)のシグナル伝達部分であった。Tsrレセプターは他のレセプターと同じように、 細胞膜に働きかけ細胞内のタンパク質と外部環境の危険度と好機レベルに合わせてシグナルのやり取りを行う。具体的にどのようにしてレセプターがこれらの信号を送信するのか、という問は分子細胞生物学における最も魅力的な未解決テーマの一つである。
「タンパク質が信号を送ると言った場合、殆どの場合その立体構造がどのように変化するかは我々は知らなかった。」と、ORNLコンピュータサイエンス・数学部門のR&Dスッタフメンバー兼ユタ大学微生物学部共同学部の教授であるIgor Zhulin氏は述べている。「タンパク質は何十年もの間、静的な分子と見られており、我々の知見のほとんど全てはX線結晶学などを用いて得られた静的なイメージ由来のものであった。しかし、シグナルは動的なプロセスであり、スナップショットだけでは全てを理解することは困難である。」
そのチームは特殊用途のスーパーコンピュータAntonを使用して、「レセプターの先端におけるPhe396呼ばれるフェニルアラニンアミノ酸のペアが見せる一見不規則な立体構造の切り替えこそがスイッチとして機能して、レセプター全体の形状に影響を与えている。」という事を発見した。
「我々の知る限りでは、このスイッチ機構の詳細が明らかにされたのは今回が初めてだ。」と、主執筆者のDavi Ortega氏は述べている。
チームの研究は大きく進展をしていたが、二量体は独立して動作していないため、まだ全体像が掴めていなかった。二量体は、三つで一つのグループを形成している。二量体の三量体。 一度に三つの二量体の相互作用をシミュレートするには、40万原子のモデルをさらにより長い期間の計算が必要となる。この計算は、唯一超並列ペタフロップス・スーパーコンピュータで可能になるであろう。そこで研究者達は18,000 個以上のNVIDIA GPUアクセラレータを装備した米国の最も強力なスーパーコンピュータTitanに転進した。Titanを使って研究者達は、タンパク質のシグナル伝達を担うアミノ酸を正確に特定するに十分な大規模分子系のシミュレーションを実行することができた。
論文の著者の一員であり研究チームリーダーの一人でもあるUT生化学及び分子細胞生物学部門のJerome Baudry准教授(分子生物物理学UT- ORNLセンター兼務)は以下のように指摘している。「実際に細胞内で行われている複雑さのレベルでシミュレートする我々のシステムには、Titanレベルの計算リソースが必要である。この研究は、その科学的な関心に加えて、生物学における数値実験の重要性の高まりを裏付けている。」
チームがTitanでのシミュレーションを進めるにつれ、科学はまだ栄光の地に至っていない事が明らかになる一方で、三量体よりも大きなレセプター複合体をシミュレートするためには、どれほどの計算能力が必要とされるかを探索することとなった。