世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


3月 12, 2014

スーパーコンピューターで進むブラックホール研究

HPCwire Japan

Tiffany Trader

プロの天文学者にとってもそうでない人々にとっても魅力的なブラックホールは、名前が意味する「ホール」ではない。全く反対に、極めて密度が高いものである。NASAによると、これらの天体は、極めて狭い空間に詰め込まれた大量の物質から成る。太陽をニューヨーク市に押し込んだよりも10倍密度が高い。その結果の重力場により、光さえも含む何物も逃げ出せない。

科学者は直接的な手段でブラックホールを観察できないが、事象の地平線の外側にあるガスと物質に対する影響を精密に調べることによって、ブラックホールの存在を議論できる。ブラックホールは、熱とエネルギーと光を放出する。

ブラックホールについての知識は、近年、間接的な探査方法によって、ものすごく成長した。周辺部で起きている複雑な力をシミュレーションするために、詳細な数値モデルと強力なスーパーコンピューターを使ってである。正確さを追求するために、この複雑なシナリオのシミュレーションは、曲がった時空、ガス圧力、電離放射線、磁化されたプラズマを含む、多数の現象の要素を考える必要がある。

ロチェスター工科大学の Scott Noble氏に率いられる天体物理学者のチームは、成長しているブラックホールが生産する光を予測する新しいツールを開発した。降着円盤と知られているブラックホールの周りの円盤において、光子がどのようにガス粒子と衝突するか、モデル化している。そして、超強力な望遠鏡で観察可能な光、特にX線の発生をモデル化する。

研究者は、ブラックホール・シミュレーションから光信号のイメージを得るために、オースチンにあるテキサス大学計算センター(TACC)から、強力な計算機資源を借りた。計算機Ranger (2014年2月引退)の計算能力によって、大質量ブラックホールをX線で観察して得られる大部分の要素について、初めて説明できるようになった。

ブラックホール・シミュレーションから現実的な光信号を作り出す能力は、天体物理学の新しい時代をマークする。このプロジェクトのために考案された新しい技術に基づいて、研究者は、過去40年間に複数のX線天文衛星が観察した結果を説明できる。

ブラックホールの研究者にとって、この何年間は、宇宙の創成について多くの詳細が明らかになる、熱い時代である。ジョンズ・ホプキンス大学で物理学と天文学の教授を務める Julian Krolik氏によると、「大部分の適度な大きさの銀河中心には、大質量ブラックホールがあります。」何百万年以上の期間にわたって、ブラックホールにガスが降着し、ものすごいエネルギーになる。この期間に発生するエネルギーは、ブラックホールを含む銀河の全ての星が発生するエネルギーの100倍にもなる。

「そのエネルギーの一部分は、イオン化されたガスの小さいが高速な噴射により、銀河の外にまで出て行きます。その結果、多くの熱が、銀河の周囲を旋回しているガスの中に預けられ、それによって新しい星が作られる仕組みが劇的に変わります。大きな銀河がどのくらいの星を所有するかという問題について、このようなプロセスが大きな役割を果たすと、広く考えられています。」

計算機Rangerは、TACCに置かれた Sun Constellationシステムで、2008年から2013年まで使われた。2015年前半には、NSFの支援を受けて、 Wranglerビッグデータ・ドリブン・システムが導入され、世界で最も強力なスーパーコンピューターのひとつである Stampedeと組み合わされて利用される予定である。