世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


5月 26, 2014

スケーリングする衝突バーチャル・テスト

HPCwire Japan

Tiffany Trader

Cray社のブログに、製造産業部門のマネージャGreg Cliffordが、陽解法構造アプリケーションのスケーリング性能について述べている。10,000コアを超えるスケーリングが成り立っているようなCAEアプリケーションの極限的なスケーリングについての記事に続くとなっている。

今回の投稿は、”衝突シミュレーション”として知られる陽解法構造解析についてである。Cliffordは、著しい性能向上をもたらすこの種のアプリケーションへの関心が高まっていると指摘する。

よく知られている陽解析構造解析コードは、Abaqus/Explicit, LS-DYNA, PAM-CRASH, RADIOSSなどである。これらは、自動車、航空、消費物、材料といった幅広い領域の産業はもとより、多くの国防用途にも使われてきた。その幅広さゆえに、 Computer Aided Engineering (CAE)の分野において、これら陽解法コードが大量のHPC需要を牽引していると、Cliffordは指摘する。

陽解法コードは自動車の衝突をシミュレーションするために、主にCray製ベクトル・コンピュータで処理されていた1980年代中ごろからよく使われるようになってきた。その後の成長や衝突・安全性シミュレーションに対する信頼が、自動車産業でのHPC需要を形作ってきた。自動車産業では、HPCを物理的な衝突試験の回数を減らす手段として見てきていながら、その目的は急速に安全性に観点に移っている、とCliffordは指摘する。

”その主な利点は”、Cliffordの見るところによれば、”衝突と安全性シミュレーションのおかげで、自動車会社はより安全な車両を開発し、毎年数千人もの命を助けるという安全性への要求の急速な高まりに対応できるからなのです。”

しかし、安全性への要求は留まるところを知らず、軽量化へのプレッシャーと同様、新しく種類の多い複雑な衝突テストが必須になっているのである。コスト競争力の高いやり方でこれらの現実課題へ対応するために、HPCは、より大規模な計算量や複雑なシミュレーションを必要とする根幹技術になっているのである。この挑戦に立ち向かうには並列性のスケーリングの向上が必要とされる。

”衝突コードに MPIを実装した初期の頃は並列性能が格段に向上しました。"と、Cliffordは書いている。"典型的なSMP版は4から8並列まではよいスケール性を示しましたが、MPI版はSMP版の性能を遥かに凌駕しながら、数十コアまでも対応できるほどでした。数百コアまでスケーリングさせるには、アムダールの法則によれば99%の並列性を必要とします
。陽解法アプリケーションは、数千種類ものオプションを持つ大規模で汎用的なプログラムに成長してきました。スケーリング性を向上させるために何年もの間継続した努力が払われてきており、とりわけ、"接触"領域においてはチャレンジングであることが多く、コードが複雑なせいで数千コアまでスケーリングさせるにはチーム作業を要する一大プロジェクトになるのです。

Cliffordは、数千コアでのLS-DYNAのスケーリング性能を上げるためにLivermore Software Technology Corporation (LSTC) と提携して請け負った仕事の詳細について、説明を続けている。ゴールは10から100倍高速に実行できる実業務モデルを開発することである。大規模で複雑なシミュレーションを実行し数千コアでの性能を推定するという離れ業なのだ。テストでは並列化のボトルネック部分に絞り、アプリケーションのどこに注意を払えばよいかを明らかにする。ほとんどの衝突シミュレーションモデルは、100コア以下しか利用しないのではあるが、4000コア以上にまでスケーリングするほどの"目覚ましい成果"がすでに得られている。他の事例として、大規模な航空機モデルは11,000コアを超えるスケーリング性能を出している。

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Cliffordは言う、"ゴールは数千コアまでのスケーリングを実業務での大規模な衝突モデルの標準にすることなのです。Crayは、大規模コア数でのテストを実施するための実モデルを提供してもらうために、自動車や航空産業のコミュニティと共同で仕事をすることを継続していく予定です。アプリケーション開発者、主キーユーザ、そしてCrayの間での協調作業は、性能を向上し続け次のレベルのシミュレーションを加速するのに相応しい方法なのです。"と、Crayの担当者は述べる。