富岳、津波監視のための学習AIモデル
Oliver Peckham

昨年、理研は世界最速のスーパーコンピュータ「富岳」を1年前倒しで立ち上げた。日本を脅かす災害であるCOVID-19に対抗するため、早期に打ち上げたのだ。パンデミックが終息しつつある今、「富岳」のようなスーパーコンピュータの助けもあって、この巨大システムは、日本を常に脅かすもう一つの災害である「津波」に対処することになった。
今からちょうど10年前、マグニチュード9.0の地震が発生し、東北地方の沿岸部を壊滅的な津波が襲った。1万6,000人近くが亡くなり、数千人が負傷し、数千人が行方不明になっている。人的被害だけでなく、数千億ドルの被害も発生し、人類史上最も高額な自然災害となった。
言うまでもなく、何らかの警告があってしかるべきだったのだ。
「富岳」を理研と共同開発した富士通は、東北大学災害科学国際研究所および東京大学地震研究所と共同で、この新しい取り組みを開始した。この3機関の連携により、津波による浸水を 「ほぼリアルタイム」で予測するAIモデルを開発した。
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富岳 | |
このモデルは、沖合の津波波形の受信データを処理し、海岸線の高解像度データと組み合わせることで、建物や道路への影響を含め、特定の津波が特定の地域にどのように浸水するかを、正確かつほぼ瞬時に予測する。
モデルのトレーニングデータは「富岳」上で作成された。158,976ノード、415 Linpackペタフロップスの計算機で、2万回の津波とそれに伴う波形、それに伴う陸地の浸水をシミュレーションした。これらのシミュレーションは、「富岳」に搭載されているAI機能と最適化によって加速された。
この2万回のシミュレーションのデータを使って、研究者は次に、波形と洪水の関係を理解するようにAIモデルを訓練する。実際にモデルを導入してみると、一般的なコンピューターでも数秒で学習が完了し、内閣府の津波モデルとの比較でもその成果が確認されている。
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内閣府のモデル(左)と富岳で学習したモデル(右)の比較 |
このように、初期の波形をもとにした迅速な浸水予測は、それに応じた迅速な避難勧告や災害対策に利用できる。これは、地震や洪水に関する粗いデータベースに頼っていた従来の方法を大きく変えるものだ。
今回の津波プロジェクトでは、理研が事前に募集した「先行利用プロジェクト」によって「富岳」の利用が認められた。