世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


7月 8, 2019

米国の競争力が(再び)疑問に

HPCwire Japan

Tiffany Trader

アメリカのTask Force on American Innovation(TFAI)は最新の報告書において、米国は技術、科学、イノベーションにおける主導的地位を失う危険にさらされていると主張している。 「ベンチマーク2019年:2位のアメリカ?米国の科学的リーダーシップへの挑戦の増加(原題“Benchmarks 2019: Second Place America? Increasing Challenges to U.S. Scientific Leadership”)」というタイトルの報告書には、競争力を評価するための指標の1つとして、スーパーコンピューティングのグローバルな状態の概要が含まれている。

以下、報告書から抜粋する。

1980年代から1990年代にかけて、米国はスーパーコンピュータの物理的インフラストラクチャと関連するスーパーコンピューティングの研究分野の両方に莫大な投資をした。米国は、コンピューティング分野の世界的リーダーであり、インターネットを含むいくつかの新製品を投入することによって、この投資の恩恵を享受してきた。しかし、この地位が揺らいでいる。

■ TFAIの2005年ベンチマークレポート以降、米国は、世界のトップスーパーコンピュータの主導権を放棄した。世界最速のスーパーコンピュータのトップ500リスト(GRAPH 5.21を参照)では、2005年に米国が世界のトップスーパーコンピュータのほぼ半分を占め主導権を握っていたものの、現在では4分の1以下となり、中国の最速スーパーコンピュータが最大数を誇っている。

■ ベンチマークを上位100台のスーパーコンピュータ(GRAPH 5.22を参照)に変更すると、米国の牽引力は低下傾向にあることが分かる。過去20年間の米国の投資不足は、2010年に中国がリストの最高位を獲得したことによって顕著になり、米国は2018年までその地位を取り戻すことができなかったのだ。

明確にしておきたいのは、中国のTop500上位のロングランは、2013年6月にTianhe-2A、2016年にSunway TiahuLightが導入されたことから始まったということである。米国はSummitで2018年6月に最上位のスポットを取り戻したが、2012年6月(Sequoia)と2012年11月(Titan)にもナンバーワンシステムを持っていた。

 
   

低調が続く中、この報告書は2021年にエクサスケールクラスのスーパーコンピュータを搭載するというエネルギー省の意向に注目し、強力な米国のエクサスケールコンピューティング戦略について言及している(AuroraFrontierは競争の激しい時期にある)この報告書では、昨年法律で承認された、今後10年間での量子情報科学および技術アプリケーションの開発を加速するための枠組みを制定したNational Quantum Initiative Actも引用している。

「アメリカの世界的なリーダーシップの地位を維持することは、国家の安全保障ならびに将来の経済成長と繁栄にとって極めて重要です」と、報告書の著者は主張している。「しかし、研究開発(R&D)の世界的シェアにおける米国の存在感の低下は、国の科学企業にとって脅威であり、国防総省(DOD)およびエネルギー省(DOE)、国立科学財団(NSF)、国立衛生研究所(NIH)、国立航空宇宙局(NASA)、および国立標準技術研究所(NIST)などの機関における科学研究プログラムに対する連邦政府のコミットメントの欠如を示しています。このコミットメントの欠如は、経済的競争力の低下や国内の労働力や産業への悪影響につながる可能性があるのです。」

本稿では述べられていないが、政府の閉鎖、継続的な決議、そして政権交代によって悪化した年間の資金調達サイクルの課題はあるが、米国の先進的なコンピュータ投資は、超党派の努力により民主党政権下では基礎研究に多く利用される傾向にあり、共和党主導の議会下では軍事的使用に充てられているより多くの資金が投入されている。しかし、実際の資金調達レベルにかかわらず、世界規模の技術競争において潜在的な欠点を克服することが、次のラウンドに向けた科学技術資金調達への強いコミットメントを動機付けるためのワシントンの現実政策である。

この研究報告は、TFAIが2004年の創立以来発表した4回目の「ベンチマーク」報告書である。ハイテク分野(スーパーコンピューティング、人工知能、ナノテクノロジー、航空宇宙、電気通信およびバイオテクノロジー)を網羅するほか、ベンチマークの範囲も研究開発投資、知識創造と新しいアイデア、教育、労働力の4つの分野にまたがっている。

Computing Research Association(CRA)のPolicy Analystおよびこの報告書の共著者であるBrian Mosleyは、次のように述べている。「2005年の元のベンチマークレポートとそれに続く2つのフォローアップレポートに見られる傾向は継続しており、米国は科学、技術、そして才能への投資において他の国々より形勢が不利な状況が続いています。」

「この報告書では、米国がその途方もない資産を利用し、技術的優位性を国の優先事項とする必要があることを明らかにしています。これは、科学的研究と人的資源開発のための資金の増加、そして国内外のSTEMの才能を伸ばし惹きつけ維持する、そのための新しいプログラムへの的を絞った投資を含む国家戦略を通じて、達成できるのです。」

Task Force on American Innovation(TFAI)は、アメリカの大手企業と企業団体、研究大学協会、そして科学社会の非党派的同盟であると自負している。Semiconductor Industry AssociationとIBMの幹部が組織の会長を務め、会員名簿にはグーグル、IEEE、HPE、インテル、マイクロソフト、クレイを含む約60にも及ぶ組織が名を連ねる。 CRAは最初のメンバーの一人であり、一連の報告書の作成と発表において重要な役割を果たした。

報告書へのリンク:http://www.innovationtaskforce.org/wp-content/uploads/2019/05/Benchmarks-2019-SPA-Final4.pdf