CAEシリーズ:第1回 CAEとは
先日、HPCwire Japanの編集部の方から「CAE入門」ということで記事を書かないかとお誘いを頂いたのでCAEに関して1年間、いろいろな話題提供をさせて頂きます。私はCAEに関しては専門家ではありません。しかしCAE懇話会や多くのCAEユーザの方とCAEに関してお話をし、CAEで利用するシステムやソフトウェアにも関係しているので、広く浅く記事をかけるのではないかと考えて本シリーズを書かせて頂くことにしました。 個別に詳しい情報が必要な方は私の周囲に詳しい方がいますので、その際は別途ご紹介をさせて頂きます。
CAEとは「コンピュータ支援工学」で工学的手法により製品の力学、伝熱工学、流れ工学、電磁気学等の諸理論を解析的に扱い、製品の開発、設計に必要な力、熱、変位等の情報を得て、設計した構造物が要求性能を満たすか否かを調べる手法です。
CAEという用語は1980年に米国のSDRC社が、新規製品の開発・設計を推進・支援する総合的なコンピュータシステムの構築を製造業の企業に提案する際に使ったのが最初です。同様の用語にCADやCAMがありますが、CADは設計、特に製品のコンセプトを図面に落として具体的な形をコンピュータを使って作成する作業であり、CAMは生産過程でコンピュータを使ってNCデータやロボットの動作等のデータを生成する作業を指します。
CAEの言葉が使われる以前からコンピュータを使って製品の開発、設計に必要な力、熱、変位等の情報を求めることは盛んに行われており、学問としては有限要素法、差分法等の研究がおこなわれており、実務でも使われていました。
有限要素法は1950年代初期に欧米の航空機構造力学の研究者により開発された研究手法で2次元であれば三角要素や四角要素、3次元であれば4面体要素や6面体要素に構造物を分割して計算する手法です。有限要素法という言葉は1960年にCloughが初めて使っております。商用ソフトウェアとして良く知られているNastranの原型が1960年代に開発され、商用ソフトウェアとしては1970年代に出てきました。しかし価格的にも高価ですので一部の研究所や大企業で使われており、その他のユーザの方では大学の研究室で研究して自作した方も多かったようです。
次にHPCwire JapanにCAEが取り上げられる理由を書かせていただきます。CAEの利用ではコンピュータの性能が大きく影響します。より高性能のコンピュータを使うことにより、より現実の構造物に近い評価ができるので 自動車業界や航空機業界では高性能なコンピュータを用いて計算をして製品開発を行っており、今では“CAE+コンピュータ”がなくては製品が開発できない環境になっております。
CAEが2000年頃から急速に普及してきましたが、その理由は
- コンピュータ性能が急速に良くなった。
- コンピュータの価格が非常に安くなった。
- ソフトウェアの並列化が進み、詳細な解析ができるようになった。
ということが言えます。
1990年以前は大企業の先進的な企業が使う程度でしたが、2000年以降は一般の部品メーカーもCAEを使うようになり、非常に一般的になってきました。1990年代が過渡期と言えます。この辺については次回にもう少し詳しく触れたいと考えております。
これほどまでに利用されるようになったCAEを利用するメリットは
- 製品が複雑になり、電卓等の単純な計算では対応できない。
- 実験評価するには時間がかかり、コストもかかる。
- 実験ができないような製品、環境でも評価ができる。
- 開発期間を短縮できる。
- 設計品質を向上できる。
等の利点があります。この他には「発注元がCAEでの結果を要望」という事情もあり広くCAEが広まっております。
以上がCAEの概要と広まった理由そしてHPCとの関係です。次回以降は個別に少し詳しく以下の内容でお話ができればと考えております。また、状況によってはより詳しい方にお話を頂ければと思います。
1. CAEとは / 今号の記事
2. CAEとHPC
3. CAEとソフトウェア
4. CAE/構造解析関連ソフトウェア
5. CAE/流体解析関連ソフトウェア
6. CAE/粒子法関連ソフトウェア
7. CAE/電磁場関連ソフトウェア
8. CAE/連成解析ソフトウェア
9. CAE/最適化ソフトウェア
10. OpenCAE(無料ソフトウェア)
11. 日本発CAEソフトウェア
12. CAEの習得
14. CAE関連団体
15. CAEの現状と将来